【IIDX】個人差とは何なのか、地力とは何なのか

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

 

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

cpi.makecir.com本題に入る前に、CPIの現状報告を少しさせていただきたいです。

 

先日 登録ユーザーが2000名を超えたことを記念して、だんごむし様(@denimchan)にイメージキャラクターを制作していただきました。

f:id:rice_Place:20210227125820p:plain

 キャラクター制作をお願いする上で一番に重視したことは、プレイヤー目線でのモチベーション向上の一助となるようなデザインです*1

 だんごむし様はイラストレーターとしてのご活躍はさることながら、IIDX全白でもあり、CPIも以前より登録・ご利用いただいていました。制作決定の時点からこの方にお願いしよう!と決めていたので、快諾の上 素晴らしいキャラクターイラストを制作いただけたこと、本当にありがたく感じています。

 現在キャラクターの名前も募集しています*2ので、この記事を読んでくださっているあなたにも、CPIをより良いサイトにするお手伝いをしていただければ幸いです。

 

 

 個人差とは何なのか、地力とは何なのか

音ゲーにおいて譜面の難易度を評価する際に、プレイヤーによって体感される難易度が大きく異なるようなとき、「これは個人差譜面だ」といった表現をされることがあります。

 対になる概念として使われる言葉が「地力譜面」です。記事後半では本当に対になっているのか?という点についても触れていきますが、そもそも地力/個人差という分類で音ゲー譜面を区別するという考え方は、IIDXの☆12難易度表*3が発祥のようです*4

 

音ゲーにおける個人差について考えていく上で、体感難易度のバラ付きを正確に定義することは難しいですが、プレイヤーのクリア状況のバラ付きについてなら、データに基づいて数値的に表すことができそうです。

 まずはこのCPIにおける「個人差度」について考えてみようと思います。

 

「個人差度」の定義

CPIの難易度推定は、プレイヤーのクリア状況から算出したレーティングを説明変数として、ロジスティック回帰を行うことでなされています。今回は、「個人差度」を回帰係数の逆数と定義することにします。

 

この「個人差度」が表すものをグラフで見てみましょう。

 グラフの横軸をクリア力*5、縦軸をクリア割合とします。クリア割合とは、該当するクリア力のプレイヤー集団の中で、対象譜面をクリアしているプレイヤーの割合を表します。

 個人差譜面(オレンジ)は、総合的なクリア力が低いプレイヤーでもクリアできる可能性がある一方で、高くなってもクリアできない可能性があります。「個人差度」はグラフ上に引いた赤い矢印に該当します*6

f:id:rice_Place:20210227150015p:plain

 それに対して地力譜面(青)ではその傾向が小さく、総合的なクリア力との相関が強いです(後半の伏線になります)。クリア割合50%付近における傾きが大きくなり、それに伴って赤い矢印が上の個人差譜面に引かれたものと比べて短くなっていることがわかります。

f:id:rice_Place:20210227150030p:plain

 このように、定義した各譜面の「個人差度」は、個々人のクリア状況と総合的なクリア力との乖離を表していることがわかります。

 「個人差度」が著しく大きい譜面は、総合的なクリア状況とは無関係にランプが点く確率が高くなるということです。

 

「個人差度」の分布

 「個人差度」の定義を終えたところで、まずはその分布を確認してみましょう。横軸に個人差度、縦軸に譜面数をとったヒストグラムを作ってみます。

f:id:rice_Place:20210227163410p:plain

 フルコンを除くと、各難易度でかなり左側に寄った分布になっていることがわかります。すなわち、一部の譜面はかなり個人差度が強く、その他大勢はそうでもないと言えそうです。

 同様に、適正CPI*7を横軸に、個人差度を縦軸にとった散布図を見てみます。

f:id:rice_Place:20210227164629p:plain

 このプロットではクリアタイプごとに様子が違っており、例えばハードとエクハでは難易度と個人差度に相関がありそう*8ですが、他ではそのような傾向は薄らいでいます。

 

「個人差度」の高い譜面の具体例

具体的にどのような譜面で「個人差度」が高くなっているかを確かめてみましょう。

 まずはEASYについて、「個人差度」が上位/下位の譜面をまとめてみました。

f:id:rice_Place:20210227171221p:plain

 連皿・縦連・ソフラン……といったいわゆる個人差要素の強い譜面について、数値的にも「個人差度」が高く算出されているようです。それにしても、上位と下位で5倍以上の差があるとは、表にまとめるまで思っていませんでした……。

 

ところで私はこの表を作ったとき、上位に個人差譜面が並ぶなか、ポツリとGuNGNiR [L]がいることに違和感を覚えました。確かに最発狂に皿は絡んできますが、基本的にはいわゆる地力譜面の範疇に入るはずです。

 GuNGNiR [L]はIIDX27のARENAモード最終報酬で、分析に使用したデータを取得した時点では解禁方法がありませんでした。そのことが関係してる可能性も考えましたが、同じような境遇のSecrets [L]、TRANOID [L]の個人差度はそれぞれ56(全体155位)、78(全体62位)です。

 加えて、より収録からの日が浅いお米(略)、∀が全体下位にランクインしていることをあわせて考えると、GuNGNiR [L]特有の理由がありそうに思えます。

 

ということで、EASY難易度が高い譜面をピックアップしてみることにしました。

f:id:rice_Place:20210227181909p:plain

 見てみると、いわゆる地力譜面の代表格と言えそうなVerflucht [L]、KAISER PHOENIX [L]の個人差度がそれほど低くなっておらず、最終盤にソフランする卑弥呼よりも高く算出されています。

 このような傾向は他のクリアタイプでも同様に見られ、超高難易度においては「鍵盤物量=個人差の少ない譜面」とは言えないことを示唆していました*9

 

「地力度」の定義は難しい

前半でも触れましたが、譜面難易度の推定を☆12全体の総合的なクリア力から行っている以上、☆12全体に似たような譜面が少なければ「個人差度」は高くなります。極端な話、☆12の8割が連皿主体であれば、The Chaseは個人差譜面では無くなるでしょう。 ということは逆に考えるなら、似たような譜面が多ければ地力譜面と呼んで良いのでしょうか?Fascination MAXXやY&Co. is dead or aliveのような譜面が大半を占めていたとき、ソフランへの対応力が地力と呼ばれるようになるのでしょうか?

 

このような話を考えるとき、一部のPvPゲームには、「環境」と呼ばれる概念があることを思い出します。

 このようなゲームでは、追加される要素(新カード、新モンスター、新武器……)によってゲームの勝敗を決定する構造がガラリと変わることがあり、その都度プレイヤーは対策を余儀なくされます。対応力まで含めて、ゲームにおける必要な能力と言えるかもしれません。

 弐寺PvPゲームではありませんが*10、定期的に新しい譜面が追加され、プレイヤーが対応して能力を磨き突破する、という構図は同じです。

 

となれば、先ほどの問である【ソフランが大半を占めていたとき、その対応力が地力と呼ばれるようになるのか?】の答えは、YESとなりそうに思えます。

 実際にCN・BSSについては、SIRIUSで追加されて以降それらを含む譜面は増え続けており、10年前にはハード5強と呼ばれたAlmagestは、現在では数ある高難易度譜面の一つという位置づけになっています。

 

一方で、ここまでお読みになった方の中には、「ソフランはギアチェンを覚えればできるようになる」「連皿は皿のリズムを覚えればできるようになる」ので、環境がどうであろうと地力譜面とは呼べない、という考えを持つ方もいると思います。

 このような考え方の背景には、「地力」という言葉が、「個人差が少ないこと」だけでなく「小手先の対策を取りにくいこと」という意味も併せ持っていることがあります。

 そういう意味では、確かにVerflucht [L]のような譜面が、ちょっとした対策で見違えるように押せるようなるということは無いでしょう。

 

しかし私は、ソフランや連皿においても、それぞれの「地力」があると考えています。ギアチェンによって低速を完全に等速にできる譜面は少ないですし、ギアチェンそのものも練習が必要です。連皿も覚えることと覚えたとおりに回せることは違います。

 けれども、鍵盤の「地力」と比較して、短期的に能力を上げることが可能だとも思っています*11。このことによって、取り組んだ人は簡単に上達する一方、取り組まなければそうではなく、「個人差度」が大きくなっているのだと思います。

 このことは、Go Ahead!!のような譜面の個人差が高くないことからも確からしいと言えそうです(対策(=当たり待ち)は必要であるものの、対策の内容と個人の能力差は一切関係しない)。

 

このような議論を踏まえると、真の地力譜面とは、現環境で求められる要素をできるだけ多く含んだ、いわゆる総合力譜面であると言えそうです。飛び抜けた能力を求めない一方で、著しく苦手な要素が一つでもあると突破できない構成は、「個人差が少ないこと」「小手先の対策が取りにくいこと」の両方を兼ね備えているからです。

 皆伝の一曲目が数年ぶりに変更され、CN・連皿・ソフラン・重発狂を含むEMERALDASとなったことは、偶然では無いと感じられます。

 

まとめ

・(FC以外では)☆12は一部の超個人差譜面とその他大勢に分かれる

・いわゆる地力譜面=鍵盤物量は、必ずしも「個人差度」が小さくならない

・「地力」という概念には、「個人差が少ないこと」「小手先の対策が取りにくいこと」の二つの要素が含まれている

 

いつも以上に取り留めない記事となってしまいましたが、一番書きたかったことは3つ目の内容です。

 以前に別の記事でも書きましたが、☆12の譜面数が著しく増えている現在では、何となく難しい譜面をたくさんプレイするスタイルと、自分に足りない能力を見極めて練習譜面を選ぶスタイルとでは、これまで以上に大きな差が付いてしまうように感じます。

 全てのプレイヤーが最速の上達を目指す必要があるとは一切思っていませんし、そもそも筆者も周囲と比べると上達が遅い方のプレイヤーですが、それでもこのことに気が付いてからは袋小路に嵌まり込んで苦しむことは減ったような気がしています。

 同じように上達を目指し、同じように悩んでいるプレイヤーの誰かに届けば良いなと思っています。

 

 

 この記事についてのご意見・ご感想は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでお願いします。

 

それでは、良き音ゲーライフを。

 

*1:筆者=運営の個人的な趣味も色濃く反映されていますが、できる限り男女問わず多くの方に愛されるような要素を(とても)たくさん入れていただきました。

*2:少なくとも2021年3月中までは募集しています

*3:正確に言えば前身となった十段スレのテンプレート(参考:十段スレの難易度表の歴史 | BPM@パプログ!↑

*4:より詳しい歴史についてご存じの方はご教示ください

*5:ここでは総合CPIと同義

*6:グラフ上では分かりやすさのためにクリア割合80%のところに赤い矢印を引いていますが、定義に対して厳密に言うと約73.1%になります。譜面間で統一されていれば、今回の検証においては任意のクリア割合を基準として構いません

*7:クリア割合が50%となるCPI、すなわち譜面難易度

*8:ハード→エクハは適正CPIが急激に上昇することを踏まえると、未難減らしとエクハ埋めのどちらを優先するプレイスタイルかによって(未難の数が同程度でも)総合CPIが大きく変わってくるため、個人差度が増幅されていると考えられます。エクハ→FCも同様

*9:理由として一番に考えられるのは、発狂BMSプレイヤーの存在です。このことを次の章の内容に絡めて言い換えると、「別環境」の影響を受けているということです。

*10:ARENAモードは例外。しかし、ARENAのようなスコアによる対戦モードにおいても同じ話は当てはまると思っています

*11:あくまでもそのプレイヤーの総合的なクリア力程度に引き上げるという範囲で