※2021/10/11 一部追記しました
こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。
IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。
IIDX28 BISTROVERも残すところあと数日となりました。次回作に向けて、上の段位を目指す/現段位を維持するといった目標を立てているプレイヤーも多いと思います。
ところで皆伝受験の目安として、「地力○が×曲埋まったら受けてみる」といった目安を決めている方もいるのではないでしょうか。
今回はプレイヤーデータから、地力表の埋まり具合と段位合格の具体的な関係を探り、そこから改良を加えて皆伝合格の指標となる課題譜面リストを考えてみました。
なお、以前こちら↓の記事で、皆伝取得に必要な譜面要素を考察しましたが、
今回は具体的に「どの譜面を何曲クリアしたら何割の確率で受かるのか?」を調べていく記事になります。興味のある方は↑の記事もあわせてご覧ください。
地力Sを何曲ハードしたらどれくらいの確率で皆伝に合格できるのか?
まずは記事タイトルどおり、地力Sについて調べてみます。
<前提条件>
対象プレイヤー:IIDX28 BISTROVERで2021年8月時点で中伝or皆伝を取得していた公開プレイヤー、うちアクティブ度の高い半数を抽出(詳細は上記記事参照)
対象譜面:対象プレイヤーの8割以上がプレイ済の譜面、「地力○/個人差○」は記事執筆時点の☆12参考表を参照
【ハード地力S対象譜面】全11譜面
Almagest、Confiserie、Elemental Creation、EMERALDAS、perditus†paradisus、Sigmund、駅猫のワルツ、焔極OVERKILL、共鳴遊戯の華、嘆きの樹、煉獄のエルフェリア
【対象プレイヤー】<前提条件>+上記11譜面すべてをプレイ済のプレイヤー
割合で示した方のグラフを見ると、クリア譜面数が増えるのにしたがって皆伝の割合も増えることがわかります。(対象11譜面中)3譜面ハードで中伝と皆伝の人数がほぼ均等になるようです。
ところで、皆伝には連皿・ソフランなどの個人差要素が多く含まれており、個人差譜面のクリア力も当然問われることが予想されます。
ということで、個人差Sに関しても同様に調べてみます。
【個人差S対象譜面】全8譜面
BLACK.by X-Cross Fade、Dynamite、ECHIDNA、Fascination MAXX、Level One、NZM、The Chase、THE PEERLESS UNDER HEAVEN
【対象プレイヤー】<前提条件>+上記8譜面すべてをプレイ済のプレイヤー
個人差Sに関しても地力Sと同様に、クリア譜面数とクリア割合には正の相関がありそうです。8譜面中3~4譜面ハードで皆伝合格率は50%となります。
指標の”優秀さ”の定量化
さて、ハード地力S・個人差Sの埋まり具合と皆伝合格率には一定の関係があることがわかりました。
ここで疑問となるのは、地力Sと個人差Sのどちらを参考にするべきか、はたまた両方を参考にした方が良いのか、という点です。
何をもって「参考になる」と考えるかは簡単な問題ではありませんが、このような問題に関してよく使われる指標にAUC*1というものがあります。
細かい説明は割愛しますが、今回の記事にあたっては
・ある指標における2つの群(今回は中伝と皆伝)の”分離”具合を表す
・最高が1(2つの群が完全に分離)、最低が0.5(2つの群がランダムに入り交じる)、0.9を超えたらかなり良い指標
という点を抑えていただければ充分だと思います。
AUCを計算してみると、地力S:0.894、個人差S:0.881、地力S&個人差S:0.904となり、地力Sと個人差Sは両方を参考にしたほうが良いことがわかりました*2。
地力S&個人差Sのグラフは以下のようになります。
対象19譜面のうち、7譜面ハードで合格率50%、14譜面ハードで合格率80%となります。
より使いやすい指標を探す
さて、ハード地力S&個人差Sが皆伝合否の良い指標となりそうなことがわかりました。
一方で、☆12は今作で410譜面を数え、その中で中伝・皆伝の8割がプレイ済の譜面は300以上あります。地力・個人差S以外の譜面についても上手く探せれば、指標としてより優秀な課題譜面リストを見つけることができそうです。
すべての可能性を試すには総当たりすればいいですが、たった5譜面のリストでも300^5≒2兆通り以上の組み合わせを見に行く必要があります。手元のPCでは厳しいものがあるので、今回は「候補から1譜面ずつ抜いてAUCを比較し、最もAUCが高かった譜面(=指標への寄与が最も小さい譜面)を除く」操作を繰り返すことで、より少ない譜面数でより高いAUCを持つリストを探すことにしました。
出力された候補トップ10がこちらです。
譜面数 | 譜面名 | 地力・個人差S 計19譜面とのAUCの差 |
---|---|---|
1 | シムルグの目醒め | -0.096 |
2 | + EMERALDAS | -0.025 |
3 | + quell~the seventh slave~ | -0.015 |
4 | + Fascination MAXX | -0.005 |
5 | + 3y3s | +0.000 |
6 | + GuNGNiR | +0.003 |
7 | + JOMANDA | +0.005 |
8 | + お菓子の王国 | +0.006 |
9 | + 華麗なる大犬円舞曲 | +0.007 |
10 | + Level One | +0.007 |
上手く選んでやればたったの5譜面で、地力・個人差S計19譜面と同等の指標を作れることがわかりました。
ちなみに1位のシムルグの目醒めは、前述の記事でも皆伝合否との相関が最も高い譜面に選ばれています。異なるアプローチで結果が一致するのは驚きです。
トップ5を課題譜面として今までのようにグラフを作ってみます。
視覚的にもそれなりに分離できていることがわかります。
一方で、ハード譜面数1→2で皆伝合格割合がガクッと増えているのが見て取れます。 原因として、シムルグ・quellの2曲とEMERALDAS・FAXX・3y3sの3曲との間に結構な難易度差があることが考えられます。
譜面名 | ☆12ハード参考表 | ハード適正CPI / 個人差度 |
---|---|---|
quell~the seventh slave~ | 地力A | 1634.54 / 26.16 |
シムルグの目醒め | 地力A+ | 1696.90 / 33.67 |
EMERALDAS | 地力S | 1816.87 / 64.52 |
Fascination MAXX | 個人差S | 1840.50 / 110.11 |
3y3s | 地力S+ | 1823.12 / 69.16 |
そこで、GuNGNiR(地力A+、1700.09 / 34.71)+ JOMANDA(個人差A、1709.37 / 40.54)も含めたトップ7まで入れたものもグラフ化してみます。トップ5譜面と比べてAUCの差は殆どありませんが、各譜面の難易度勾配がなだらかになったことで、割合グラフの”階段”が緩やかになりました。モチベーションの観点からはこちらの方が良い指標かもしれません。
ハード譜面数 | 皆伝合格率 |
---|---|
0 | 3.0% |
1 | 13.2% |
2 | 29.9% |
3 | 46.1% |
4 | 66.2% |
5 | 79.9% |
6 | 90.5% |
7 | 94.8% |
この指標では、地力・個人差S未満であるquell・シムルグ・GuNGNiR・JOMANDAを全てハードした場合、皆伝合格率は66.2%になります。
一方で、前述の地力・個人差S計19譜面による指標では、ハード譜面数0の合格率は5.5%となり、両指標の推定値には大きな開きがあります。
実際にはquell・シムルグ・GuNGNiR・JOMANDAを全てハードしているプレイヤーの多くは、何だかんだ地力Sにも何譜面かハードが点いていると考えられるため、この推定値の差にはあまり大きな意味はありません。すなわち、地力S未満のハードが増えると、地力S以上のハードも増えがちということです。
このことを皆伝合否とクリアランプ指標との関係に当てはめて再確認すると、示されるのは「指標の課題譜面を多くクリアしているプレイヤーは、皆伝に合格している確率が高い」という相関関係であり、決して「指標の課題譜面を多くクリアすると、皆伝に合格する確率が高くなる」という因果関係ではありません。とはいえ、「ハード0譜面なら地力不足で時期尚早」「全譜面ハードならあとは対策次第」といった大まかな基準には充分使えると思います。
このように分類指標の評価方法は一次元ではなく、精度・使いやすさ・頑健さといった様々な点を加味しながら、組み合わせて選んでいく必要があります。
ぼくのかんがえたさいきょうの指標を探して、これからも色々な方法を試していこうと思います。
まとめ
・ハード難易度表 地力/個人差Sの埋まり具合と皆伝合否にはそれなりの相関がある
・地力/個人差Sを4割弱ハードすると皆伝合格率は50%に、7割強ハードすると合格率80%になる
・☆12から上手く5譜面(シムルグの目醒め+EMERALDAS+quell~the seventh slave~+Fascination MAXX+3y3s)を選ぶと、地力/個人差Sに匹敵する性能の皆伝合否指標になる
余談
・記事を書く前にハード以外の全てのクリアタイプに関しても実験しましたが、上位は一部を除いてハードランプばかりが占める結果になりました。
・十段vs中伝で同様のことを試すと、いわゆる「十段止め」プレイヤーの影響を強く受けて解釈の難しい結果になりました。一方で九段vs十段はそれなりに納得の行く結果が出たので、需要があれば追記したいと思います。
・段位指標に関する統計的な考察はこちら↓により詳しいものを寄稿しております。
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それでは、良き音ゲーライフを。