<メモ>横認識のウソホント

・要旨:「横認識」という用語が表す概念は人によって違っている。また、IIDXをプレイするとき、実際には必ずしも横認識をやっているわけではない。一方で上達を目指す上では、なお横認識の考え方は重要である。

 

・横認識という言葉は大きく2種類の別の概念が混ざって使われることがある。一つは、「画面上に架空のラインを置き、そこを通過したノーツをスキャンするように認識する」というものである。これは完全に間違い。間違いであることは、譜面動画をスマホなどに流して、その前に糸などを持ってくればわかる。糸を見ながら譜面を見ることはできないし、譜面を見ようとすると糸は上下にブレて見えるはず。

・このようなことが起こるのは、人間の目が追従眼球運動というものをしているから。人間(や他の高等な動物)では目の前に連続的に流れる画像があるとき、自動的にそれを目で追う働きが起こる。眼球は視野の中心にあるものしかハッキリと認識できないので、動くものをハッキリと認識するためにはこの追従眼球運動が必須である。追従眼球運動は訓練によってその最大速度を上げられることが知られている。IIDXを日々プレイしているうち、自然と緑数字が小さくなっていくのはこのおかげ。

・ここで一つの疑問が浮かぶ。追従眼球運動の最大値が上がったところで、遅いものが見にくくなるわけでは無いのに、なぜIIDXプレイヤーは緑数字を小さくするのか?その答えは、IIDXプレイヤーは自然とわかっているように、譜面が詰まっていると認識が難しくなるからである。

・より起こっていることを具体的に考えるために、譜面を見ているときの追従眼球運動を細かく見ていく。上から流れてきた譜面をプレイヤーの眼球が捉え、短い時間(おそらく数十~百ミリ秒程度)流れる譜面を眼球が追従し、その短い時間の間に譜面の認識を終える。このとき眼球は最初より画面の下方を見ていることになるが、ここで素早く画面の上方へ向かう眼球の動きが発生する。これを視運動性眼振という。この素早い動きのまさに最中には、見えているものは意識に登らない(=認識できない)ことが知られている。

IIDX中の追従眼球運動について、上記のような1セットを考えることができる。おわかりの通り、この1セットあたりの情報量が大きすぎると譜面の認識が困難になるため、IIDXプレイヤーは緑数字を適切な範囲まで小さくしたがるのである。

(・付け加えると、追従眼球運動は自動的に起こるもので、人間が意識的に完全に制御できるものではないので、いったん速くできるようになった追従眼球運動を、いい感じに少しだけ遅くしたりするのは難しいのかもしれない(この点については詳しい研究を探せなかった)。)

 

・譜面の認識力を上げるためには、上記の1セットにかかる時間を短くするか、1セットで処理できる情報量を増やす必要がある(どちらにせよ時間あたりの処理情報量を増やすという点では同じ)。前者のためには緑数字を減らせば良いが、後者のためにはどうすればよいか?

・ここでポイントになるのが、横認識の2つ目の説明、「目に映った譜面を横方向の同時押し単位に分割して認識する」というものである。脳が情報を扱うとき、何かしらのまとまり(=チャンク)に分割して認識したほうが処理が速くなることが知られている。よって、このような認識が実際にできるなら、処理情報量は増やせそうである。

・一方で上級者含むIIDXプレイヤーの中には、『わざわざそんな横認識なんか意識してやってないよ』という方もいると思われる。実際のところ、普通の状況でIIDXをプレイするときに、常にこのような認識方法をする必要はないと考えられる。

・そのことを説明するための例え話として、子供が新しい漢字を覚える場面を想像してみる。たとえば「踏」という漢字を覚えるとして、普通は「足へんに水日」と覚えると思うが、足へんの存在を知らない子の中には「口水止日」と覚える子もいるかもしれない。それを見た国語の先生は、「この字は足へんに沓というつくりが合わさってできたものです」と教えるかもしれない。一番最後の教え方が、IIDXでいう横認識になる。すなわち、パーツへの分割という観点で最も応用の効くやり方である。

・一方で、多くの大人は「踏」という漢字を見たときに、いちいちへんとつくりに分割したりせず、一瞬で「ふ(む)」と認識するだろう。つまり、一度覚えてしまえばわざわざ漢字の成り立ちに戻るのはかえって手間である。IIDXも同じで、目に映った譜面全体を一瞬で認識することができる人は、わざわざ横認識を行う必要はないのである。人によってはこのような全体認識をブロック認識と呼ぶ人もいる。

・このような認識法が完全に身につくまでは、「口水止日」のような効率の悪い覚え方をしないように、意識して「足沓」のような応用の効く覚え方、つまり横認識を意識することは、一つの手段として有効だと考えられる。

 

参考:追従眼球運動 - 脳科学辞典

   視覚運動性眼振 - 脳科学辞典