IIDXに「脱力」は必要か?

IIDXの上達には「脱力」が大事だ、とよく言われます。

例えば、速いBPMの16分で指が動かなかったり、いわゆる体力譜面の後半でバテたりするようなとき、「もっと脱力した方がいい」とアドバイスされるのは、よくあることだと思います。

一方で、「脱力」が大事だと言われて実践してみたけど、イマイチ押せるようにならず意味を実感できなかった、という人もいるのではないでしょうか。

 

私はIIDXを10年以上やってきて、SP12を全曲ハードしていますが、上達には「適切な脱力」の習得が大事だ、と考えています。

この記事では、私にとってのIIDXの「適切な脱力」について、運動制御の知見、トッププレイヤーの考え、そして個人的な経験を交えて、考えていきたいと思います。

 

① 「脱力」という言葉は、かなり曖昧

IIDXは鍵盤を押し皿を回すゲームなので、完全に力を抜けば当然プレイできません。

また、プロやトップランカーは、☆12でも打鍵音をバチバチ鳴らして、MAX近いスコアを叩き出しているように見えます。

本当にIIDXに「脱力」は必要なのでしょうか?あるいは、「脱力」という言葉は別の何かを指しているのでしょうか?

 

脱力という言葉は便利ですが、それが指すものは人によってかなり違うように見えます。身体のどの部位の力を抜くのか、いつ脱力するのか、どうやって脱力するのか、「脱力が大事」というアドバイスだけからは判別できません。

 

そもそも「脱力」「力を抜く」と言ったときの「力」とは、客観的に測定される力学的なものではありません。

人間の言う「力」は、筋肉や関節からの感覚入力や、脳が出力する「努力感」が混ざり合った、主観的な身体感覚に根差した言葉です。

そのため、その力を「抜く」ということも当然、正確な言語化が極めて難しいものです。

 

実は、<上達に「脱力」は必要か?>という問いは、プロのピアニストの世界でも重要です。

ピアノの熟練者は、まるで力を抜いているように柔らかくスムーズに演奏できます。そのメカニズムを知るために行われた科学的研究では、熟練者の動作は単に筋肉の活動が少ないのではなく、必要な筋肉を適切なタイミング・強さで使い、不要な収縮や過剰な固定を抑えている、と解釈できる研究結果が報告されています*1。

ピアニストの演奏メカニズムを探る研究の実験模式図
Furuya & Kinoshita 2008, Neuroscienceより引用



この結果をIIDXにそのまま当てはめることはできませんが、「脱力」とはただ力を抜くことではない、という理解の助けになるかもしれません。

つまり上級者が「脱力している」「脱力していない」と言っても、その人の中では姿勢、運指、認識、打鍵感覚が一体化しており、本人にとっては自然な動作でも、他人が同じ言葉を聞いて再現できるとは限らないのです。

 

これを踏まえてこの記事では、「脱力」を「力を抜くこと」ではなく、「打鍵に必要な力は使い、その後の動作を邪魔する力は残さないこと」として考えます。

 

② 打鍵に寄与しない余計な力は、次の打鍵を邪魔する

IIDXで高密度の難所を捌くために、瞬間的に指や手に力を入れたり、腕や肘を上げたりして姿勢を変えることは、必要に応じて重要なことです。

一方で、その状態は1曲のあいだ打鍵を続けることに最適化されたフォームではないので、適切に制御できない場合は悪いパフォーマンスにつながります。

 

ピアノ演奏の研究では、熟練者は楽譜を見て直後の動作を(無意識のうちに)判断し、それに備えた効率的な運動制御をしていると考えられています*2。

IIDXにおいても、高難度になるほど高密度・難配置のパターンに対して、打鍵ごとの小さな準備とリセットを絶え間なく連続的に行っていくことが鍵になると考えられます。

つまり、押す瞬間に必要だった力が、押した後にも残ってしまうと、次のノーツへの移行が遅れ、結果として、「指が動かない」「押し遅れる」「認識はできているのに手がついてこない」という形で表れ得ます。

入れた力を曲中で適切に抜ければ、余計な力が蓄積していかない



 

③「適切な脱力」は、曲中に必要な力を出し入れする技術である

ここまで、余計な力がIIDXのパフォーマンスを低下させるという考えを見ていきました。

つまり、難所を超えるために必要な力を瞬間的に発揮するために、不要なところではできるだけ余計な力を抜いておきたいです。

 

そのためには、まずそもそも曲開始時点で無理な姿勢になっていないことが重要だと考えられます。

悪い姿勢と良い姿勢のイメージ
画像はhttps://www.irasutoya.comより引用

ノーツが降って来る前の時点ですでに入っている力を、ノーツが降って来てから抜くことは、かなり難しいです。

具体的には、曲が始まる時点で最初から窮屈な姿勢になっていて、動かしにくい指や力んでいる筋肉があると、曲が終わるまでの2分間では大きな悪い蓄積になってしまいます。RPGのスリップダメージのようなものです。

これを防ぐためには、曲開始時点で自然に鍵盤へ手が置けていて、必要な動作をスムーズにできる姿勢を作ることが、とても大事です*3。

 

曲が始まってからも、一定の打鍵動作ごとにホームポジションへ戻る意識が重要です*4。

ここでいうホームポジションとは、3:5半固定のような運指上の指の置き方というよりも、曲開始時点で作った、必要な動作に移行しやすい自然な身体の状態のことを指します。

縦連、連皿、押しにくいトリルなどの難所で、対応するために肘が上がったり手首が反ったりすること自体は悪いことではありません。しかし、その部分が過ぎた後もその姿勢変化が続けば、その後に降って来るノーツ全体に押しにくさのデバフが掛かってしまいます。

余計な力が蓄積していくイメージ図

 

この記事を読んでいる方の中には、たとえば序盤と終盤に同じような配置が出てくる譜面で、終盤だけ押しにくくなるような経験がある人もいるのではないでしょうか?

私の考えでは、そのような現象の裏には、上記に挙げたような曲中に蓄積した余計な力が存在している可能性があると思います。

 

これを避けるための具体的方法としては、難所と簡単な場所が交互に来るような譜面が使えます。

最初はBPやスコアを気にせず、難所が終わったらすぐに自然な姿勢と力の入れ方に戻れているか、自分の感覚に意識を向けながら確認していくのが大事です。

慣れてくると、完全なブレイク以外の、例えばAA序盤・中盤の難所の後のような比較的簡単になる部分でも、ブレイク同様に力を抜きながら打鍵を続けることができるようになると思います。個人的には、この「ながら脱力」ができるようになったことが、超高難易度をハード埋めするにあたっての大きなブレークスルーの一つでした。

AA SPA中盤の難所は直後に休みがないので、打鍵しながら体勢を立て直せると有利
(画像はhttps://textage.ccより引用)

 

また、プレー動画を撮影して確認したり、上級者にプレー風景を見てもらったりするのも非常に有効です。

曲開始前と後で、上半身と画面の距離が10cm以上変わっている、という人も珍しくないように思います。そのような人では、曲中のどこかのタイミングで身体に不要な負荷がかかっている可能性が高いです。

 

④ 脱力が必要な人とは?

適切な脱力、つまり打鍵に適切な力の配分をすることは、ここまでのようにIIDXに重要なスキルだと考えられます。

しかし、その習得が全員にとっての最優先課題とは限りません。

 

すでに余計な力が少ない人にとっては、脱力を意識しても大きな変化は出にくいはずです。

そのような人は、本人が「脱力している」と意識していなくても、実際には無駄の少ないフォームで押せていると言えます。

その人にとっては、脱力は独立した技術ではなく、姿勢、運指、打鍵感覚の中にすでに組み込まれている状態だからです。

 

また、そうでなくても、他の事象が明らかなボトルネックになっている人もいます。

譜面が見えていない、運指が定まっていない、という状態では、姿勢や力の配分だけを意識しても押せるようにはなりにくいです。

場合によっては必要な力まで抜いてしまい、上達を妨げる可能性すらあります。

 

IIDXに限らない一般論として、上達は桶に例えられることがあります。

桶は側面のいくつかの板によって構成されますが、一番短い板の水位より多くは水が入りません。

IIDXで言えば、認識、運指、姿勢、譜面理解、メンタルといった板が全体を構成し、一番低い板がプレイヤーの能力全体の上限を決めるということになります。

つまり、ある人にとっては脱力に関連する姿勢や運指が重要かもしれませんが、別の人にとっては認識や譜面理解、メンタルのほうが重要かもしれないということです。

 

桶(全体の能力)に入る水の量は一番短い木片(個別の能力)によって決まる
(https://www.irasutoya.comより引用)

ただし、実際には各要素は独立していないので、力みが減ることによって余裕が生まれて認識力が向上することもあり得ます。

つまり「適切な脱力」は万能の解決策ではありませんが、少なくとも特定の人にとっては非常に大きな改善点になり得ると考えられます。

 

⑤ 結論:IIDXには、力の適切な配分と出し入れが重要

私の考えるIIDXにおける「適切な脱力」は、単に力を抜くことではありません。

鍵盤を押し皿を回すための力は必要ですし、姿勢を保つための力も必要です。難所では、瞬間的な出力や安定性を高めるために一時的に力むことも重要です。

抜くべき力は、打鍵に寄与せず、次の動作を邪魔するものに限られます。

 

その意味で、「適切な脱力」は力の絶対量を減らす技術ではなく、力を適切に配分する技術だと言えます。

どこに力を入れ、どこに力を入れないか。いつ力を使い、いつ戻すか。こういった調整を曲前・曲中に適切かつスムーズに行うことが、IIDXにおける「適切な脱力」であると考えます。

 

このようなスキルに関連する練習は、すべてのIIDXerにとって有効とは言えませんが、「体力譜面が苦手」「集中力が続かない」「一定のレベルで伸び止まっている」といった悩みがある人にとっては、上達に大きく寄与する可能性があります。

まずはPフリーや家環境など、落ち着いて自分のフォームを確認できる状態で、0ノーツ時点で余計な力が入っていないか、確かめてみるのはいかがでしょうか?

 

りせ rice_Place

*1:Furuya & Kinoshita 2008, Neuroscience など

*2:Furneaux & Land 1999, Proceedings of the Royal Society B および Lim et al. 2019, Scientific Reports など

*3:IIDX Lv.12を全曲Max-表記 + 全曲FC出来た運指紹介 – らぐおじドットコム が参考になります

*4:【IIDX】一流の<心的イメージ>を手に入れよう ~NORI選手にインタビュー②~ - rice_Placeの日記 が参考になります

【音ゲー】なぜ練習しても上達しないのか?――スランプを乗り越えた先に【書籍紹介】

音楽ゲームのように、プレイヤースキルが攻略に重要なゲームジャンルでは、プレイヤーが上達の過程でスランプに陥っているように感じることがあります。

 私自身、音楽ゲーム(特にbeatmania IIDX)を年単位でプレイしている中で、クリアランプの新規更新、いわゆる成果がほとんど出なくなる時期を何度か経験してきました。

 今回の記事ではそのようなスランプについて、科学的な視点で書かれたとある書籍の一部分を紹介し、音楽ゲームの上達に向けた練習とモチベーションの維持方法について、自分なりの解釈をしていきたいと思います。

 

書籍紹介

今回紹介するのは、鈴木宏昭 著『私たちはどう学んでいるのか』です。

www.chikumashobo.co.jp

認知科学、教育学が専門である著者が、タイトルのとおり学習の過程とそれに関わる認知の変化について解説した書籍です。電子版もあるようなので、気になる方はぜひご一読ください。数時間程度で読破できると思います。

 この書籍のうち、本記事では特に第3章「上達する――練習による認知的変化」の内容を引用して紹介しつつ、私個人が音楽ゲームの上達に関連して解釈したことを書いていきます。

 以下では、断りがなければ「」内の内容は上記書籍 第3章からの引用です。

 

上達のスピードはだんだん緩やかになる

何らかの物事を解決する所要時間、例えば決まった動作一回にかかる時間や、問題やパズルを解くのにかかる時間などは、一番最初の試行と比較して、練習するうちにだんだんと短縮していくのが普通です。

 著者によるとこの所要時間は、数百回、数千回と繰り返すうちに、多くの場合「練習のベキ乗則」と呼ばれる法則に平均的に従っていくそうです。

「練習のベキ乗則」に従うとき、練習回数と所要時間の関係を示したグラフ(筆者作成)。
上達が速い人(緑)も遅い人(青)も共通して、上達のスピードは緩やかになっていく。

音楽ゲームのようなジャンルでは所要時間を指標としていないため、直接この法則を当てはめられるかはわかりませんが、個別のオブジェクト(ノーツ)認識→処理に必要な時間がこの法則に当てはまると考えれば、一曲全体を通した際のスコア・達成率などの推移も、概ね同様だと思ってよさそうです。

 実際、新しい機種を始めたとき、最初の頃はクリアできるレベルがどんどん上がり、特定のレベルから急にその伸びが鈍くなる、という経験は多くの人に共通してあるのではないでしょうか。

 

ここから考えると、以前のように上達しなくなったことを広い意味でスランプと解釈する場合は、ほぼ全ての人にスランプが訪れるものだ、ということができそうです。

 

上達曲線は、局所的には「うねり」を持っている

前項の「練習のベキ乗則」は、練習を数百回、数千回と繰り返す間の、長期的な上達曲線の平均的な振る舞いについてのものでした。

 それでは、もっと短い期間ではどうでしょうか。このとき、著者によると上達曲線は局所的に複雑な「うねり」を持っているのだそうです。

 具体的な「うねり」の様子を、書籍にも引用されているグラフから見てみます。

グラフは鈴木・大西・竹葉「スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ」『人工知能学会論文誌』、23, 3, 86-95 (2008)より引用

グラフの水色の線は実際の測定値、点線は「練習のベキ乗則」による近似値、黒の実線は局所の平均的な傾向*1を表しています。縦軸が所要時間なので、下に行くほど”上達”していることに注意してください。

 ここから読み取れることとして、全体的な傾向としては「練習のベキ乗則」に従って上達しているものの、数十回程度の試行回数の単位では、停滞するどころ反対に下手になっている部分があることがわかります(上のグラフで450回付近など)。

 

局所的な傾向をより細かく分析したグラフを見てみます。

グラフは鈴木・大西・竹葉「スキル学習におけるスランプ発生に対する事例分析的アプローチ」『人工知能学会論文誌』、23, 3, 86-95 (2008)より引用

グラフ内にあるとおり、実力が停滞している「プラトー期」(停滞期)、一時的に実力が下がった=下手になったように見える「後退期」、一気に実力が上昇し所要時間が減少している「脱出期」のように上達曲線を分類することができます。

 このように一口でスランプと言っても、実際にはその中に揺らぎの状態があり、一時的な「後退期」を経てからスランプを「脱出」していることがわかります。

 

「うねり」を生んでいるもの

なぜこのような現象が起こるのでしょうか?

 著者は書籍の中で、以下のように述べています。

鍵となるのは冗長性と揺らぎなのだ。つまりある一つの行為を行う際に、その実行方法が複数あり、それらが場面場面で異なる仕方で現れるのである。その結果、実行に要する時間に変動が生じているのだ。

 音楽ゲームに当てはめて例を出してみようと思います。

 ある難所のパターンを処理するときに、方法AとBがあるとします(運指などを想像してください)。Aは既に習得していた方法で、BはAに加えて新たに習得する必要のある方法です。

 方法Aを使っている現状では、パターンの達成率が80%だとします。Bを完璧にマスターできれば100%になるとします。つまり、

  • 停滞期:方法Aのみ→80%
  • 脱出期:方法A+B→100%

と考えられます。このとき、方法Bを練習している最中の達成率は80%と100%の間になるように思えますが、実際はそうではなく、それどころか80%を下回ることがある、というのが「揺らぎ」の実態です。

 新しいスキルを身に着けている最中は、当然そのスキルを使うことに慣れていないため、元々持っていたスキルとの選択に迷ったり、スキル同士が”混線”したりすることがあります。上記の例では、方法Aしか知らなければ迷わずAで処理する部分を、方法Bを中途半端に覚えたせいで間違えてBで処理してしまったり、Aにも悪影響が出たりする、という具合です。これにより、

  • 停滞期:方法Aのみ→80%
  • 後退期:方法A+覚えかけのB→80%以下
  • 脱出期:方法A+B→100%

のように実力が一時的に下がる期間が生まれるということになるのです。

 脱出期に入ると、方法AとBをともにマスターすることで、両方のスキルが適切に組み合わさり、後退期の80%以下から一気に100%へとジャンプアップすることになります。これはブレークスルーと呼ぶこともできます。

 後ほど解説しますが、このようなスキルのマスターと組み合わせの過程は、プレイヤーには意識されずに起こって来ることも多いです。そのため、「後退期」においてはプレイヤーに『練習してるのにどんどん下手になる』という感覚をもたらし、モチベーションの低下を招いて、結果的にプレイヤーは「脱出」前に練習をやめてしまう、ということが起こり得ます。

 

熟練したスキルは、意識を必要としない

ここまで、新しいスキルの獲得と、既に持っていたスキルとの適切な組み合わせが、短期的な上達曲線の「うねり」と、長期的な上達をつくっている、ということを見てきました。

 多くの音楽ゲームプレイヤーにとっては、何らかのスキルに名前を付けて、そのスキルの獲得を目指す、という練習方法はなじみ深いのではないかと思います(例:あんみつ、指押し、手首皿、……)。

 ですが、ここでいうスキルとは、そのような名前を付けられる≒意識して獲得できるスキルだけでなく、もっと根本的かつ意識が難しいようなものも含まれます。具体的には、指を何センチ上げるのか、手首を何度動かすのか……といった部分の最適化もスキルの範囲に入ります。

 

書籍では、上達に重要な変化として「マクロ化」と「並列化」が挙げられていました。

 「マクロ化」は、例えばA→B→Cと順番に行っていた動作が、ABCという一連の動作として行われるようになることです。このような変化が起こる過程では、A/B/Cそれぞれの動作の習熟だけでなく、動作どうしをスムーズに繋げるための身体動作の細かな最適化も起こっているはずです。

 「並列化」は、簡単に言えば右手と左手で別々に行っていた動作が、同時に行われるようになることです(もちろん足を使うゲームなら足の動作も含まれます)。このときも、それぞれの動作を同時並行するための、細かな調整が行われていると考えられます。

 

「マクロ化」「並列化」に共通して重要なことは、スキルの習熟の過程では身体動作が意識される必要がなくなること、いわば無意識化が起こっているということです。書籍内の例では、パソコンのキーボードを余裕でブラインドタッチできる人でも、「Yの左は?」「Xの右は?」というようにキーボードの配列を訊くと、しばしば咄嗟に答えられないことを挙げています。

 音楽ゲームも、プレイヤーが普段から行っている様々な処理を、全て逐一言語化していくのは難しいでしょう。例えば複数のデバイス間で手を移動させるようなときに、どの指をどれくらいの速度でどれだけ動かしているか、少なくとも私は毎回意識してはいません。

 身体動作そのものが全て意識されていない以上、その獲得と適切な組み合わせからなる上達の過程は、当然に意識されない部分がその多くを占めることになります。これはつまり、プレイヤーは自分の上達の過程を逐一コントロールすることは本質的に不可能、ということを示しています。

提案:スランプと上手く付き合う

それでは、どうすればプレイヤーは効率よく上達することができるのでしょうか?残念ながら、万人に当てはまる答えを私は知りませんし、書籍にもその答えが直接書いてあるわけではありませんでした*2。

 ですが、ここまでの内容から考えると、劇的な上達は多くの場合スランプを抜けたその先にありそうなことがわかります。書籍内では、このことが「次の飛躍のための準備段階」と表現されていました。特に、初心者の時期を抜けて、ある程度のプレイ回数を経験し、上達曲線の傾きが緩やかになってきたときこそ、いかにスランプと上手く付き合うかが大切になってくるのでは無いでしょうか。

 

以下は書籍を読んだうえでの私の持論ですが、音楽ゲームプレイヤーにとってスランプが来たときに最も悪手なのは、成果をひねり出そうとしてスランプ以前と同じプレイスタイルに固執することかもしれない、と思いました。

 なぜなら、スランプの時期には新しいスキルの獲得と、以前のスキルとの統合が起こっているはずなので、以前と同じプレイスタイルだけを続けることは、獲得と統合の妨げになると考えられるからです。

 スキルの獲得と統合には言語化・意識化できない過程が多いことも合わせて考えると、『この譜面は上達には必要ない』『このプレイスタイルを選ぶと下手になる』といったいわば先入観は、とりわけスランプの時期には上達の邪魔になっているのかもしれません。

 

おまけ:実験してみた

上達曲線には「うねり」があり、その結果として「プラトー期」「後退期」「脱出期」がある、という書籍内での説明について、実際に自分を被験者にして実験してみることにしました。

 おおよそ4ヶ月間、おおよそ3日に1回のペースで自分のその日の実力を推定*3し、記録してグラフ化しました。

オレンジの線は推定実力の実測値の推移、点線は全体の線形近似直線、黒い実線は4日間の移動平均。
上述のグラフと合わせるために、推定実力が高いほど下の方にプロットしている。

確かに、上達曲線に対して「うねり」のようなものが見えます。これが統計的に有意なものかどうかはサンプルが少なく調べられませんが、傾向としては書籍の内容に合致しているのではないでしょうか。

 

ご意見ご感想はコメントまでお寄せください。

文責:りせ(@rice_Place)

*1:正確には状態空間法を用いて推定されたトレンド

*2:上達が速い人と遅い人の違いについてなど、学習に関する興味深い内容が他の章にも多く書かれています。気になる方はぜひ書籍を読んでみてください

*3:BMSプレイヤーbeatorajaを使用。Stella難易度表の推定難易度

https://stellabms.xyz/recommend/stを0.5区切りで難易度表に変換した

https://shakunetsu.web.fc2.com/suitei/st_easy/table.htmlを参照した。適当な難易度フォルダからスタートし、ランダム選曲で2回連続でEASY成功したら一つ上の難易度に、4回連続で失敗したら一つ下の難易度フォルダに移動するルールで、フォルダの移動が起こらなくなるまで適当な回数プレイ。クリア状況を記録し、ロジスティック回帰で50%クリア推定難易度を求め、その日の推定実力とする

IIDX上達おすすめ記事・書籍まとめ

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営開発を行っています。

 

この記事では、私が参考にしている・ぜひ他人に紹介したい、IIDX上達に役立つ記事を紹介します。

単曲攻略ではなく、いわゆる「地力」全般の向上に寄与する内容を中心にまとめました。

内容は随時更新していく予定です。この記事を読んだ方で、オススメの記事をご紹介いただける場合は、ぜひコメント・Twitter(現X)で教えていただけると幸いです。

 

IIDX上達の心構え<心的イメージ>

以前にIIDXトッププレイヤーのお二人へ、「一流の<心的イメージ>*1を手に入れよう」と題したインタビューを行いました。

手前味噌で恐縮ですが、IIDX上達を目指すすべての人にとって大事なことが詰まった内容となっているので、未読の方はぜひご覧いただきたいです。

riceplace.hatenablog.jp

riceplace.hatenablog.jp

 

IIDX運指・打鍵方法

IIDXトッププレイヤー自身が運指と打鍵のコツについて紹介した記事です。

上記インタビュー記事でも触れられていますが、上達を目指す上では初心者の方であっても、初めからトッププレイヤーのやり方を真似することで間違いは無いと思います。

rag-oji.com

seiryu1210.xyz

こちらの記事は、短い間隔で複数枚のスクラッチが降ってくる、いわゆる「連皿」が登場する中級以上のレベルのスクラッチ譜面に関する内容です。

note.com

 

応用:ピアニストの書籍から理論を学ぶ

IIDXとは直接関係しない内容ですが、上達法の研究において長く幅広い歴史のあるピアノに関する知識は、上記までの記事の内容を俯瞰して理論的に把握するうえで助けになります。

その中でも、特に解剖学的知識に基づく身体の使い方に着目した、「アレクサンダー・テクニーク」の理論について一般向けに書かれた書籍がこちらです。

IIDXプレイヤーにおいても、特に故障(腱鞘炎・ジストニアなど)を防いで長くプレイしたいと考えている方であれば、一読の価値はあると思います。

www.shunjusha.co.jp

こちらの本は上記の内容を、より実践的にわかりやすくまとめたものです。

鍵盤の前にいなくてもできるエクササイズなども掲載されており、こちらもオススメです。

www.ymm.co.jp

 

(随時更新中 最終更新日:2024/4/14)

りせ(@rice_Place)

*1:心的イメージについてはこちらの記事をご覧ください。

riceplace.hatenablog.jp

<メモ>横認識のウソホント

・要旨:「横認識」という用語が表す概念は人によって違っている。また、IIDXをプレイするとき、実際には必ずしも横認識をやっているわけではない。一方で上達を目指す上では、なお横認識の考え方は重要である。

 

・横認識という言葉は大きく2種類の別の概念が混ざって使われることがある。一つは、「画面上に架空のラインを置き、そこを通過したノーツをスキャンするように認識する」というものである。これは完全に間違い。間違いであることは、譜面動画をスマホなどに流して、その前に糸などを持ってくればわかる。糸を見ながら譜面を見ることはできないし、譜面を見ようとすると糸は上下にブレて見えるはず。

・このようなことが起こるのは、人間の目が追従眼球運動というものをしているから。人間(や他の高等な動物)では目の前に連続的に流れる画像があるとき、自動的にそれを目で追う働きが起こる。眼球は視野の中心にあるものしかハッキリと認識できないので、動くものをハッキリと認識するためにはこの追従眼球運動が必須である。追従眼球運動は訓練によってその最大速度を上げられることが知られている。IIDXを日々プレイしているうち、自然と緑数字が小さくなっていくのはこのおかげ。

・ここで一つの疑問が浮かぶ。追従眼球運動の最大値が上がったところで、遅いものが見にくくなるわけでは無いのに、なぜIIDXプレイヤーは緑数字を小さくするのか?その答えは、IIDXプレイヤーは自然とわかっているように、譜面が詰まっていると認識が難しくなるからである。

・より起こっていることを具体的に考えるために、譜面を見ているときの追従眼球運動を細かく見ていく。上から流れてきた譜面をプレイヤーの眼球が捉え、短い時間(おそらく数十~百ミリ秒程度)流れる譜面を眼球が追従し、その短い時間の間に譜面の認識を終える。このとき眼球は最初より画面の下方を見ていることになるが、ここで素早く画面の上方へ向かう眼球の動きが発生する。これを視運動性眼振という。この素早い動きのまさに最中には、見えているものは意識に登らない(=認識できない)ことが知られている。

・IIDX中の追従眼球運動について、上記のような1セットを考えることができる。おわかりの通り、この1セットあたりの情報量が大きすぎると譜面の認識が困難になるため、IIDXプレイヤーは緑数字を適切な範囲まで小さくしたがるのである。

(・付け加えると、追従眼球運動は自動的に起こるもので、人間が意識的に完全に制御できるものではないので、いったん速くできるようになった追従眼球運動を、いい感じに少しだけ遅くしたりするのは難しいのかもしれない(この点については詳しい研究を探せなかった)。)

 

・譜面の認識力を上げるためには、上記の1セットにかかる時間を短くするか、1セットで処理できる情報量を増やす必要がある(どちらにせよ時間あたりの処理情報量を増やすという点では同じ)。前者のためには緑数字を減らせば良いが、後者のためにはどうすればよいか?

・ここでポイントになるのが、横認識の2つ目の説明、「目に映った譜面を横方向の同時押し単位に分割して認識する」というものである。脳が情報を扱うとき、何かしらのまとまり(=チャンク)に分割して認識したほうが処理が速くなることが知られている。よって、このような認識が実際にできるなら、処理情報量は増やせそうである。

・一方で上級者含むIIDXプレイヤーの中には、『わざわざそんな横認識なんか意識してやってないよ』という方もいると思われる。実際のところ、普通の状況でIIDXをプレイするときに、常にこのような認識方法をする必要はないと考えられる。

・そのことを説明するための例え話として、子供が新しい漢字を覚える場面を想像してみる。たとえば「踏」という漢字を覚えるとして、普通は「足へんに水日」と覚えると思うが、足へんの存在を知らない子の中には「口水止日」と覚える子もいるかもしれない。それを見た国語の先生は、「この字は足へんに沓というつくりが合わさってできたものです」と教えるかもしれない。一番最後の教え方が、IIDXでいう横認識になる。すなわち、パーツへの分割という観点で最も応用の効くやり方である。

・一方で、多くの大人は「踏」という漢字を見たときに、いちいちへんとつくりに分割したりせず、一瞬で「ふ(む)」と認識するだろう。つまり、一度覚えてしまえばわざわざ漢字の成り立ちに戻るのはかえって手間である。IIDXも同じで、目に映った譜面全体を一瞬で認識することができる人は、わざわざ横認識を行う必要はないのである。人によってはこのような全体認識をブロック認識と呼ぶ人もいる。

・このような認識法が完全に身につくまでは、「口水止日」のような効率の悪い覚え方をしないように、意識して「足沓」のような応用の効く覚え方、つまり横認識を意識することは、一つの手段として有効だと考えられる。

 

参考:追従眼球運動 - 脳科学辞典

   視覚運動性眼振 - 脳科学辞典

メモ:<音ゲーの才能>と目標達成との関係

以下は考えたことをまとめたメモ書きです。根拠は後から必要に応じて付け足します。また内容そのものを後から追記修正する可能性があります。

考える上で参考にしたいので、様々な形でコメントをくださるとありがたいです(内容に反映されるとは限りません)。

 

 

・以下では<音ゲーの才能>の定義を、「音ゲーの上達にとって有利となるあらゆる要素のうち、自己の意識的努力によって獲得したのでは無いもの」とする(単純に<才能>と表記することもある)。

・音ゲープレイヤーが持つほとんどの要素は、<才能>が説明できる割合に違いがある。例えば、身長は個人の努力で変更することは極めて困難であるが、筋力や動体視力は訓練によってかなり向上することが知られているし、記憶した譜面情報とその対策方法は完全に後天的なものである。

・<音ゲーの才能>と見なされる様々な要素は、実際のところどの程度までが<才能>かは、厳密にはわからないことが多い。先述の例では、動体視力が同程度のプレイヤーが二人いたときに、それぞれの行った意識的努力の量も、それが動体視力へ与えた影響も、いずれも測定することはできない。

・<音ゲーの才能>と見なされる様々な要素は、実際のところどの程度までが音ゲーの上達に有利であるかは、厳密にはわからないことが多い。同様に、動体視力の高さが音ゲーに有利であったとしても、例えば「2倍の動体視力を持つ人は2倍上手くなる」というようなことは不明である*1。

・<音ゲーの才能>は、上達の過程でいつ顕在化するかわからないことが多い。例えば、驚異的な動体視力を持っている人がいたとしても、音ゲーのボタンの配置を覚えていないとしたら、その能力は充分には発揮されない。

・<音ゲーの才能>は、どの要素がどのように発揮されているかわからないことが多い。同程度の難易度の譜面を同程度に処理できる2人のプレイヤーがいたとして、その2人がこれまでに行った意識的努力の量が同程度だったとしても、例えば1人は高い動体視力によって、もう1人は高い筋持久力によってその能力が裏支えされているということは有り得る。

・ここまでをまとめると、個々人の持つ<音ゲーの才能>は多くの要素が複雑に絡み合って発揮されるもので、他者どころか自分自身であっても、その<才能>の多寡を知ることはできないと言える。

 

・音ゲーの何らかの目標を達成するにあたって、その目標達成に<音ゲーの才能>が一切関係しないと考えることは、あまり妥当ではないと思われる。なぜなら、上記のように<才能>は多くの要素が複雑に絡み合っており、その構成要素全てが目標達成に一切関係しないということは極めて起こりにくいと予想されるからだ。

・また、ある程度以上の難易度の目標を達成するうえで、意識的努力が一切不要であるということも極めて起こりにくい。一方でこの点について、意識的努力を行った当人が、例えば「私は楽しくプレイしていただけで、努力とは考えていない」と述べたとき、プレイそのものを楽しめるということそのものも、<音ゲーの才能>に含まれるという立場を取れば、その<才能>を持つプレイヤーの必要な意識的努力は、そうでないプレイヤーに対して少なくなるだろう。

 

・ここまでの一般論から、ミクロの視点に移ったときを考える。すなわちもし「私」や「あなた」が達成したい音ゲーの目標があったとき、自分に<音ゲーの才能>があるのか、あるいは他人に<音ゲーの才能>があるのか考えることは、目標達成に対してあまり有益でないかもしれない。なぜなら、<才能>がどれだけあり、<才能>が目標達成にどれだけ重要であるかを知る手段はないからである。

・一方で、目標に対して自分の能力がどの程度不足しているかを客観視することは重要であると考えられる。この場合であっても、自分の能力は定義上<才能>と意識的努力の総和であるので、<才能>の多寡が不明な以上、行われてきた意識的努力の量について他者と比較することもまた有益でないことが導かれる。

・加えて、行うべき意識的努力そのものを、できるだけ楽しめるような形・方向性で設定することも、極めて重要であると言える。これにより、必要な意識的努力を減らすことができるかもしれない。この点について、「楽しんでプレイすることが目標達成にも最も有益である」とは述べていないことに注意が必要である。

 

文:りせ(X/Twitter: @rice_Place)

*1:一方で、この点はその気になればデータを集めて統計的に調べることは可能かもしれない

【IIDX】一流の<心的イメージ>を手に入れよう② ~SEIRYU選手インタビュー~

 

はじめに

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 

今回は、<心的イメージ>についてのインタビュー第2弾ということで、IIDXトッププレイヤー・BPLプロとして活躍される一方、青龍塾などのレッスン活動でも有名な、SEIRYUさんにお話を伺いました。

https://p.eagate.573.jp/game/bpl/season2/2dx/team/silkhat/01/index.html

 

心的イメージについては以前のこちらの記事をご覧ください。

 

また今回は、トッププレイヤー同士でしか語れない視点を提供いただくために、第1弾から引き続きNORIさんにも参加いただいております。

 NORIさんへのインタビューをまとめた記事は、こちらをご覧ください。

 

以下、S:で始まる文章はSEIRYUさん、N:で始まる文章はNORIさん、――で始まる文章は筆者のコメントとなっています。

 

インタビュー本編

――前回のインタビューでNORIさんが仰っていたことを、自分なりに解釈してやってみたら、明らかにスランプが減って、これまで10あった(パフォーマンスの)ブレが3ぐらいになって、ゲーセンに行くのが楽しくなりました。

――そのインタビューで、NORIさんがSEIRYUさんからお話を聞いて、すごく上達したと仰っていて。僕もSEIRYUさんのことは昔から憧れていたので、今回お話しさせていただきました。

――今回お伺いしたいことは、「SEIRYUさんはアドバイスするときに、どこに注目するのか」です。

 

なりたい目標とやるべき練習

S:今まで塾とかイベントとかで、級位からランカーを目指す人まで幅広くアドバイスさせていただいて、前提として教え方の根幹はあまり実力によらないところがあるので、そこから話していけたらなと思ってます。

 

一番大事なのは最終的な目標

S:僕の塾のスタイルとして、最初に情報を5つもらうようにしていて。①現時点の実力、②目標、③悩み、④プレイ動画、⑤その他の情報。⑤はクリア状況で、CPIとかBPIとか地力表とか。

S:それで、一番大事なのが②目標なんです。僕はここをすごく大事にしていて、(塾に)入ってもらう方には、めちゃめちゃ詳しく聞くようにしてるんですよ。本人の中で「上手くなりたい」って言っても、どういうプレイヤーになりたいのか、どういう所を目指してるかって全然違うと思っていて。現時点の実力に関係なく、最終的にどこを目指してるかが一致していないと、僕とすごくギャップが生まれちゃう。

S:具体的に言うと、例えば八段くらいの人がいて、最終的に☆12でAAAをいっぱい出せるようになりたいのか、☆11とかをもっと楽しく遊べるようになりたいのかで、全然違います。皆伝になれればいいなら、一回なれればいいのか、それとも毎作取れるくらいがいいのか。それによって、やるべきことが全然変わってくるので、そこを最初に掘り下げるようにしてるんです。

――なるほど、なるほど。

S:最終的な目標を合わせていないと、僕が勝手に「こうやったら絶対ランカークラスになれる」とか、「ランカーがみんなこうやってる」って言っても、そもそもそこを目指していなかったら、温度感が全然違うので、モチベーションもかなり下がっちゃうと思うんです。

 

目標に合わせた悩みの交通整理

S:その後に、悩みが目標に本当に関係することなのか、今やるべきことなのかを確認する。例えば、「67トリル*1ができません」っていうときに、今それが必要なのか。(目標が)「皆伝になりたいです」だったとすると、BPM200の67トリルが完璧に取れるようになる必要は、多分ないと思うんですよね。

鍵盤と番号の対応

S:本人にとってやるべきことと、いま悩んでることが合っていなかったら、「まずはこっちから先にやった方がいい」っていう軌道修正ができて、その後の質問内容も変えられるんです。

――そういう事って、(比較的)上手い人に聞かないとわからない情報の、大きな一つですよね。

S:そうですね、どの技術が難易度が高くて、どの技術が簡単かみたいな。 それで、段階的にできるようになるためには、「まずこれからでしょ」みたいな、順番の整理が必要なんですよね。それに気づいてもらうことを、結構やってますね。

 

実力別 壁になるポイント

S:ここからは個別の実力の話です。

 

実力別 フィジカル面とビジュアル面の壁になる要素

S:級位~青段位の人にとって、まず難しいのが異色の同時押しなんですよね。隣接(した鍵盤)もそうですし、14とか47とか25とかっていうのが、 ボタンの配置を完璧に把握できてない状態だと、鍵盤自体が一直線に並んでいないので(難しい)。白黒分かれてると、全部下、全部上で認識がしやすいんですけど。

 

S:次が八段くらいの人で、☆10くらいから軸+乱打みたいな譜面が増えてくる。☆9までは、階段は階段ばっかり、軸は軸がいっぱい降ってきてと、どっちかというと分かれてるんですけど。☆10くらいになると、バスをしながら乱打みたいなのが増えてきて、同時押しも3つ以上みたいなのがいっぱい出てくる。その辺りから、右手と左手で別の動きをしなきゃいけない場面が増えてくる。それが難しく感じると思うんですよね。

S:この辺(の難易度)はHYPERの方が簡単なんですよ。密度が全体的に薄くて、階段ばっかりバスばっかりみたいに、あまり混ざりがなくて比較的取りやすい。けれどもANOTHERになると、同じ☆10でも横の密度が上がって、軸+乱打みたいなのが増えてくるんです。そういう新しい認識の仕方や、右手左手で別々の動きをしなきゃいけないので、すごく難しくなるんです。

――同じ☆10でも、ANOTHERの方が難しい。

S:☆11とかはちょっと特殊なんですけどね、☆11は結構HYPERが難しいんですよ。☆10まではHYPERの方が圧倒的に手が出しやすいと思うんですよね。ここが、壁に感じるんだろうなっていうのがあります。

 

S:九段十段くらい、☆11とかになってくると、だんだん正規らしい譜面配置がなくなってくるんですよね。(☆10以下の)正規らしい配置は、同色のトリルとか、同色の階段とか、同色の同時押しとかが多いんですけど、☆11くらいになると隣接もいっぱい出てくるし、階段らしい階段もあんまり来なくて、めちゃめちゃ乱打譜面が降ってきたり。

S:階段がどこかっていう認識は、すごく難しいんです。正規があんまり好きじゃない人って、階段がちょっと入ってるだけで階段が見えるんですけど、多分☆11を初めてやるくらいの人は、階段が入ってるかどうかもよく見えないんですよ。同時押しや乱打が混ざってるのが多くなるので。 そういう横に広く認識しなきゃいけない譜面が、すごく壁になってくるんですよね。今は☆11に難しい曲がいっぱいあるから、余計に。

 

中伝~皆伝合格まで 苦手と向き合う苦しい時期

S:中伝くらいになると、段々と得意・不得意がはっきり出てくるようになって、 苦手譜面にどうしても向き合わなきゃいけなくなると思うんですよね。物量はできるけど、皿(スクラッチ)曲ができないとか、ソフランができないとか、縦連ができないとか。「縦連ができなきゃいけない」とか「皿ができなきゃいけない」みたいになると、色んな記事とかを見始めたりして、 何からしたらいいのか迷走するみたいなのが、ここら辺から出てくるかなと。特に皿複合がみんな課題になるかなと思ってます。

S:それまでは、考えずに量をやって直感的に対処してたと思うんですけど、皿とかソフランって、ちょっと違うことをやらなきゃいけなくなるんですよね。逆も然りで、皿が得意な人は皿をすごくやってるので、片手処理とかもあまり考えずに気づいたらできてるんですけど、逆に鍵盤主体の認識のコツを掴まないまま、自然と伸び続けてしまっている。物量はどう対処するのかとか、皿複合はどうやって取るのかっていう、ちょっとした座学だったり、別の視点を持ち込まなきゃいけなくなるんですよね。

――つまり、自然にやってたことだけじゃダメだと気付いたから、新たな悩みが生まれるんですね。

S:そうですね。そこから、皆伝を取るまで何をしたらいいかがわからなくなってきて、解決策がずっと見えないままっていうのが、この辺から出てくるのかなと。

――モチベーションが結構下がったりとかも、出てくるのかなっていうイメージはありますね。

S:(中伝の時点で)もう相当、上達したところではあるんですけど。でも、皆伝っていうのが、まあやっぱり大きいひと区切りであり、みんな目指すところではあるからこそで。

S:特にいまTwitterとかで、周りの人が早く上手くなったりすると、どんどん影響されてメンタルがやられやすい環境下ではあるなと思うんですよね。ある意味、周りに影響されないで、一人でやってた方が伸びる時期なのかもしれない。なので、ここら辺からがすごく難しいところにはなって来ると思うんです。

 

皆伝のその先へ 目標の再確認と、アプローチの細分化

――(皆伝取得以降の)そこから先はどうなんでしょうか。

S:また目標に立ち返るところはあって、何を目指すかによってだいぶ変わってくるんですよ。全白・全EXHを目指すのか、全AAAを目指すのか、ランカーになるのか。

S:全白を目指すのであれば、順当に新規クリアをどんどん増やしていこうとするとは思うんですけど、残ってる曲が10曲20曲とかになってくると、なんだか困りますよね。そうなると、単曲に対してアプローチするみたいなのが、より必要になってくるんですよね。

S:それまでは、同じように量をやって、コツを掴んで、似たような譜面をできるようになって、を繰り返してたと思うんですけど。それだけじゃ一筋縄じゃいかない部分があって、最難関の譜面をHARDするために、自分は何が足りてなくて、どうやったらクリアできるのか。そのクリアできる想像じゃないですけど、ここまでは何%ゲージ残して、ここからはこうやって逃げ切るとか、ここはこうやって抜けるみたいな。段々と座学が必要になってくるポイントで。

S:単曲に対する粘着というよりは、単曲の攻略をして行って、攻略できた結果、それの応用が他につながるっていうところがある。単曲粘着は良くないかもしれないですけど、攻略すること自体は悪いことじゃないと思うんです。

 

譜面攻略のポイント

単曲攻略と単曲粘着の違い

――粘着が良くないという話について、僕も同じ意見なんですが、青龍さんのお考えを教えていただいてもいいですか。

S:人によるかなとは思うんですけど、少なくとも僕はモチベーションが続かなくなるのが大きいですね。なんか、曲に縛られてしまうってのがあって。その曲ができないと次に行けなくなって、他のこともできなくなっちゃう。

S:実力上げの面でも、一回一回経験値が得られる粘着だったらいいと思うんですけど、それはどちらかというと、単曲攻略って言葉に合ってるかなと。一回遊ぶにつれて、その曲に対する解像度を上げていって、攻略に繋げていく経験値が得られればいいんですけど。「粘着」って、よく言われてる言い方としては、あんまり考えずにたくさんやり続けるって感じだと思うんですよね。

S:固定オプションだと比較的、解像度を上げるきっかけを掴めるかもしれないですけど、 RANDOMとか使ってしまうと、当たり譜面の時に上手く行っちゃうと、それが経験値にならないまま、たまたま上手く行ったになっちゃう。壁を越えた、できるようになった、みたいなところが無しにクリアできちゃう感じになるんです。 なので、RANDOMで粘着すると、ランプ自体は増えてるんですけど、できるようになることが増えてないので、あんまり成長してないっていう状態になるんですよ。それで慣れちゃうと、地力が上がらないままランプだけが増えて行く。

N:サイコロ3個振って全部1が出るまでやってるだけで、それは(単に)サイコロを振ってるのと一緒だよみたいな。サイコロ投げの地力みたいなものはないですけど。

S:もしかしたら、自分の出したい数字を出すために、投げ方を変えるみたいなのはあるかもしれない。そういう、ゾロ目を出すための練習をするときに、投げ方をこうやったら上手く行くとか、1個ずつこういう風に投げるといいとか、同時に投げ続けてたら難しいからダメとか、そういう経験値が得られればいいんですけど。

N:もちろん、目標としてどうしても全白になりたくて、どうやら100回粘着すればできるかもしれないみたいな時には、「モチベーションが出るなら良い」みたいなアドバイスもできなくはないんですが。

S:でもアドバイスとしては、粘着をするっていうより、 本当に単曲のコツを教えるようにしていて。特に、皆伝とかはわかりやすいですけど、皆伝ってけっこう曲のコツが掴めれば抜けられると思うんですよね。ある程度地力があれば。そこは僕が(プレイ)動画とかを見て、地力が足りてなかったら「もっと付けてから挑戦した方がいい」って話をしますし。地力が足りてるなら後は単曲の攻略だけなんで、 冥の抜け方とか、卑弥呼の抜け方みたいな、「ここを抜けるためにはこういうポイントがある」みたいなアドバイスになると思うんですよね。

 

成功例を想像して、必要なものを逆算する

■コメント:「問題の整理に活用してるフレームワーク的なものはありますか」

――冥で言うと、冥は難しいよねみたいな所から、どれぐらいまで切っていくか、みたいな話ですが、たぶん1小節1ノーツ単位で全部覚えろとか、そういうことではないと思うんです。いいやり方はありますか。

S:他の方に言ってるのは、成功例を想像できないとダメだよねって。成功できる想像ができないのに、どうこうしても意味がなくて。

S:僕とかNORIさんとか、「なんかできそう」みたいなのがすごくわかると思うんですよ。「これはなんかいけそうだ」、逆に「これは無理だ」みたいなのが、多分なんとなくわかっていて。

N:すごく遠いけど、絶対に無理ではない。「絶妙な距離でいるな」みたいな感覚ってことですよね。

S:冥だったら、抜け方みたいなものがわかって、「ここでゲージ100%あったら逃げ切れるのに」とか。逆に「100%あっても抜けられないの、なんで?」みたいな。(その場合は)「ここで減りすぎてるよな」みたいなところで、じゃあどうやってそれに対して勝つかっていう、自分なりのロジックみたいな、できてる時を想像する。「これだけ指が動けばできるのに」とか、「この配置が急に見えないから、じゃあ正規で配置がわかった上で早入りして、あんみつで取ればいいじゃん」とかってなると思うんで。

S:できる算段みたいなのをちゃんとつけて、それがあると何が足りてないのか見えてくると思う。そういうギャップを取っていく方がいいのかなとは。

――全体として達成できるのかを考えると、自然と細部が見えて来るという形がいいってことですね。

――皆伝の冥なら、加速する段階で「ゲージ100%あれば、ガシャガシャやってもいけるんじゃない」みたいな人から、「BPM170ぐらいから急に減る」みたいな人もいたりして。それって同じそうでも全然違いますね。

S:そうなんですよね。これがじゃあ、BPM110・120の段階で全然押せてないとなると、「ここは簡単なんだよ」ってことを理解する。仮に等速だったら、多分押せるはずなんですよね。前半を100%で抜けられる地力があるんですから。

S:僕のアドバイスでは、その低速に対してどうやって認識できるようにするとか、そういうアプローチの話はするんですけど、そういう感じでできる想像があるだけで、全然違うのかなと思うんですよ。

 

”憑依”と心的イメージ

あえて抽象的なアドバイスをする

――(アドバイスのときは)手取り足取り全部言っていくのか、その人自身に工夫する方法を考えてもらうのか。

S:段位抜けに関して言えば、地力とか認識力とは別の軸で、抜け方のイメージがつかない状態になってたりして止まってるものだと思うので。自分で掴んでもらうのは最終的にはやらなきゃいけないんですけど、どちらかというとけっこう丁寧に伝えるようにしてますね。

――逆に、そういう感じではない(その人自身に考えてもらう)時もあるんでしょうか。

S:認識力の時とかはそういう場面が多いかなとは思いますね。 NORIさんへアドバイスした時とかがそっち寄りだったかな。

N:確かに「ちゃんと譜面見なさい」って言われたんですけど。

S:それしか言ってない(笑)。

N:もちろん直接的に、SUDDEN+とか姿勢とか変えてもらったりもしたんですけど。認識力の時は「ちゃんと譜面見なさい」って言われて。それって多分、丁寧にSEIRYUさんに「譜面を見るっていうのはね」って言われるよりも、譜面を見るってなんなんだろうっていうのを、 自分の中で試行錯誤なのか、見つけないことには、掴まないとどうしようもない。

N:「漫然とノーツを見ていて、ブロック認識みたいな感じに寄りすぎてる。それは、それでも押せちゃうからだろうな」っていうのはあれども、それを「頑張って横認識に切っていってください」っていうのは、(アドバイスされた相手が実際に)できるようにならなきゃ仕方ないことだから、なんですかね。手取り足取り教えるというよりかは、 「これが今できてない、だからできるようになるために、自分の中で考えてやってみろ」って言うのが良かったのかなって思ってます。

S:そうですね、割とそういう感じで。やっぱり完璧に言語化して伝えるみたいなのは不可能だと思ってるんですよね。

S:一般的に横認識とか縦認識とか言われてますけど、正直 僕もよくわかっていなくて。恐らくこういうことだろうなって理解はできるんですけど、いわゆる横認識を本当に意識できてるかどうかはよくわからないですし、それを伝えることも僕はできないですし。やっぱり言語化はできない。 

S:じゃあ、それに対してどうやって教えるかというと、僕はまずいったん、その人に”憑依”するみたいなことをするんですよ。

 

アドバイスする相手に”憑依”して、相手の心的イメージを手に入れる

憑依:霊などがのりうつること。 ―デジタル大辞泉より

S:(例えば)NORIさんに憑依するんですよ、NORIさんと同じくらいの身長になって、同じように足を上げて、NORIさんのカスタマイズのまま、同じように認識をしてみるってことをするんです。それで、「多分ここを見て、こうやって認識してるから、この譜面をこうやって拾ってるんだろう」みたいなのを、自分なりに直感的に、まず知覚するんですよ。そうすると、それ(今の見方)をやってるとこの状況のままだから、別の見方をしたらどうかっていうアドバイス(ができる)。新しい視点で別の見方、こういう認識の仕方をしたらどうかっていうのを伝えるんです。

S:僕がやってる心的イメージを掴むきっかけを持ってもらうところで、NORIさんに「譜面をちゃんと見てください」って言ってたとき、(NORIさんが)譜面を抽象的にふわっと認識していて、ノーツにあんまりピントを合わせずに見てるんだろうなっていうのを、僕は憑依して感じてました。実際、僕も普段そっち寄りのプレイをしてる。

S:じゃあ、NORIさんのやるべきことは何かっていうと、ノーツにピント合わせることだったり、ノーツとノーツの間隔を理解することだったり、 ノーツをどこのタイミングで押したら光るかを理解することだったり。そのためには、目線をちゃんと固定する必要があるんですよね。

S:これをじゃあ、そのまんまNORIさんに伝えたところで、逆にわからなくなると思うんですよ。何をしたらいいか、ノーツにピントを合わせるだけじゃうまくいかないし、じゃあ目線固定してくださいとかって言われても、 よくわからないしで。

N:「(既に目線固定は)してるんだよ」みたいな。

S:そうなんです、自分なりにはしてるつもりですから。だから、あえて抽象的に言うように、はっきり言わないようにしていて。そこは自分で、直感的に掴んでもらう必要があるから。

 

具体的すぎるアドバイスは、相手に正しく伝わらないかもしれない

S:NORIさんは勘が良かったので、「ちゃんと見てください」だけで、僕の心的イメージを全部キャッチできてたんですけど。それでダメなら、ちょっとずつ具体性を持たせたりはするんですけど、やっぱりハッキリ伝えすぎることは避けるようにしているかなと思ってます。あんまり具体的なことを言うと、それに意識が引っ張られて、それ(だけ)を意識しようとしちゃうんですよね。

S:「ノーツにピントを合わせてください」って言ったら、それを意識しても目的に沿わなくなっちゃう。ピントを合わせることだけが目的じゃないですし。今までふわっと見てたのを、ちょっとだけスコープを絞って、塊の幅を狭めて、そうすることで見えてるノーツの解像度をちょっと上げるみたいなことをする。その解像度を上げるために、目線固定が必要だっていうのが、(理由の)後付けであったりするので。

S:それを伝えるために、あんまり言葉で言いすぎると、 その意識だけに捉われすぎちゃう。なので、抽象的に言うことで、 (アドバイスされた相手が)自分で咀嚼して、肌感で伝わるようにして、なんとなく理解していくってのが、大事だろうなと思うんです。

――僕自身は言葉で考えるタイプなので、今の青龍さんのお話はすごく為になったと思ったんですけど、場合によっては今みたいな話を聞いた時に、最後の「目線固定」ってところだけ一人歩きすることがあるのかなと。

S:そうなんですよ。

――(アドバイスの全体を)文字とかにしちゃうと全部一緒になりますけど、青龍さんの伝えたさみたいな物は結構違うんじゃないかなって思うんですよね。少なくとも言えるのは、受け取る側と教える側によって、言葉にするのがいい場面と悪い場面がありそうですよね。

S:そうなんですよ。なので人によっては、一生懸命たくさんやれみたいな、 ある意味すごく抽象的に(アドバイスする事も)、あれはあれでいいことだと思うんですよね。

――間違いなく、それが必要だって人はいますね。

S:それで、何をやったらいいかみたいな、アドバイスに更にちょっとだけ具体性があると、良い見方ができると思う。それがわかっていれば、「たくさんやれ」だけでいいんですけどね。その辺、伝わる塩梅に抑えておかないと、具体的なことで余計に迷走することはすごくよくある。

 

青龍塾のすごさ:アドバイスの経験値

――今のお話を聞いて、SEIRYUさんは本当に教えるのがうまいんだなと。憑依するみたいな話って、心的イメージの逆をやってるみたいな感じで、普通の人が上手い人の気持ちになるっていう(普通の意味での心的イメージ)の逆ですよね、要するに。

S:そうですね。

――なかなか、それをやってる人ばかりではないと思うので。みんな青龍塾を受けた方がいいなって思いました。

N:本当に思うのが、「NORIもプロ選手なんだから、やろうと思えばできるんじゃない」みたいに思われる方も、もしかしたらいるとは思うんですけど、私は人に憑依するっていう行動をどうやればいいのか、全くわからないです。 自分の地力じゃ足りないからなのかもしれないですけど、U*TAKAさんが同じことをできるのかって言われると、ちょっとわかんないです。

N:多分、SEIRYUさんがすごく考えながらビートマニアをしていて、本当にいろんな人にアドバイスしてきた経験があるから、そういった、"憑依の地力"がすごく高い。

――なかなか相手の気持ちになってっていうのが、そこまで(アドバイスする相手に)寄れないというか。

S:そうですね、やっぱり寄ろうとはしてるかなとは思いますね。

S:最初の方に話した、実力によって壁があるっていうのが、(アドバイスのために)用意する1個の要素ではあって。用意して、自分が同じ運指・目線でプレイ動画を見た時に、多分この辺を見てるんだろうなって。それで、自分も同じ見方をして押そうとすると、同じようなミスをきっとする。だったら、この速さはさすがに速すぎるから、カスタマイズの調整をするとかになる。

S:そういう、その人の目線に合わせて入り込んで、 カスタマイズとか認識の仕方っていう視点、新しい視点をちょっとだけアドバイスで入れてあげると、それで気づきが得られるといいなとは思うんです。

――どうでしょう、今のお話を聞いて、NORI塾を開けそうだなと思いますか。

N:私も、たまに(上達のための質問を)いただくことはあって。もちろん、今どれぐらいなんですか、何やりたいんですか、何に困ってるんですか、の3つは聞くんですけど、それを聞いたところで、「そうだよね」って寄り添うまでしかできない。ジェネラルなアドバイスはできるんですけど、青龍さんのように、オーダーメイドをされたものは、絶対できないですね。

――今のお話を聞いてると、完全に同じ目とか同じ手になろうとしてますもんね。

N:いや、本当にすごいです。

 

自分自身に上手い人を”憑依”させる

――青龍さん自身がすごく上手だということに関連しますが、そういう"憑依"みたいなことを、自分自身にもやっていたりするんでしょうか。

S:自分の場合は、最近だと特に上手い人を憑依させるのはあって。

S:やっぱり各分野のプロフェッショナルがいるわけです。例えば皿だったら、DOLCE.さんとか、U*TAKAくんとか。ズレハネが上手い人ってなると、PEACEさんとか、MIKAMOさんとか。中速精度でいうと、DON*さんとか、CHARMさんとか。そういうそれぞれのプロフェッショナルに、各分野である程度近づけられるようにすれば、自分も近しい実力になるだろうと思うんです。カスタマイズによってメリット・デメリットがあるので、完全な再現はちょっと難しいですけど。でも 押し方そのもの自体は、全く同じことができれば同じスコアが出せるはずなんですよね。

S:なので、押し方としてどうやるかっていうのを  、その人の動画を見て憑依させて、真似るみたいな。コツを掴んで、その曲のその配置、ズレハネとか、高速系とかが来た時には、こういう押し方に切り替えるってことができると、最強のキメラになるみたいな感じなので。自分が苦手としてたり、課題に思ってるところについては、上手い人を憑依させるみたいなことは、最近はやってるなと思います。

 

デバイスとの位置関係を見直してみる

――押し方を真似するっていうのは、どれぐらいのところを見てるんでしょうか。例えば、「第1関節がこれぐらい曲がってるな」とか、そういう細かいことじゃないのか。

S:皿だと、皿に対して指を何本置いてるかとか、 皿を回してる最中に鍵盤をどこまで押してるのか、全部片手で取ってるのか、左手で1鍵2鍵まで取れてるのかとか。あとは、皿の入射角(下図参照)みたいな、どの位置を回してるのか、とか。X軸Y軸もちろん大事で、下の方を回してるのか、上の方なのか。

皿に対する「入射角」が小さい状態
引用:http://hatoking.com/journal/4352.html

皿に対する「入射角」が大きい状態
引用:http://hatoking.com/journal/4352.html

S:鍵盤だと、関節がどうっていうよりは、鍵盤からどれだけ指を離してるかとか、鍵盤に指を落とすときにどういう動きをしてるか、鍵盤をタッチするまでの動きですね。鍵盤に対する高さとか、打鍵する指の振り方とかを見て、それを自分と比較した時に、鍵盤から指がすごく離れてるなとか、大振りになってるなとか、柔軟な動きができてないなとか、色々と要素のギャップを出して、似たような動きを頑張ってするように。

 

目標の人のやり方で、目標のスコアを狙う

S:プラスして、 その人のスコア水準を狙うみたいなことをするんですよ。今までのスコア水準が、例えば☆11でMAX-30や40ばっかりだったとします。すると、めちゃめちゃ上手い人って、 普通にパッとMAX-1桁を出すんですよね。そのつもりでやる感じです。

S:押し方をなんとなく憑依させられたら、意識を集中させて、スコアを出す方に行く。そうすると、押し方が元に戻ったりして、行ったり来たりして、自分なりのいい押し方に持っていく感じ。

――目標にしている人と、同じ押し方で、同じスコアを出すことを目指すんですね。

S:そうですね。課題に対して、押し方で成功体験を得て、あとは同じ水準を出せるようにする。そうやって近づけていって、正解を知る、正解を憑依させるって感じ。

――例えば、皆伝を取ったばかり、全白になったばかりみたいな(プロに匹敵するほどの腕前がない)人が、プロ選手と同じ押し方を目指すのは、いいのか、悪いのか。どう思いますか。

S:何回か真似をして、そのコツ・感覚を掴むってことができればいいと思うんですよね。僕の場合は同じ水準のスコアを出す目標ですけど、(普通のプレイヤーでは)そこがなくなるイメージ。自分の水準で、自分がクリアしたい曲、スコアを出したい曲で、そのコツを掴めるだけで、ひとつ壁が壊せるみたいなのがあるといい。なので、そのコツを掴むきっかけとして、上手い人のプレーをなんとなく真似することは、実力が離れていても意味があると思うんです。

――上手い人のことを真似した状態で、実際に上手くなるっていう体験をするっていうのが大事。確かに自分自身のことを思い返しても、できるようになったことは、できる。当たり前のことを言ってるだけなんですけど。

S:そうです。言葉だと素っ気なくなっちゃうことが多くて。ただ、そういうのが本質なんですよね。

――(実際には)やらないことも多いですからね。上手い人の配信見て、「やっぱりこの人上手いな」で終わりますからね。

S:そうですね、何でできるんだろうな、みたいなところがあると思うんです。自分とどれだけ、何が違うんだろうっていうのがあるので、 そういうところの解像度を、頑張ってあげていくってことだと思うんですよね。

 

上手い人を積極的に真似して、自分に合う方法を模索する

N:さっきのレベルの差の話は、例えば「U*TAKAさんが緑数字200だから、俺も200でやんなきゃいけないんだな」は破滅すると思うんですけど。

S:それは破滅しますね。 

N:私が顕著だなと思うのは、ガチ押し(については)意識どうこうよりも体の使い方に寄ってるものなので、どんなレベルからでも、青龍さんがよく仰ってるやり方を(真似して)スナップってなんだ、手首で押すってなんだ、みたいなのを考えてみるっていうのはある。

N:特定の分野においてはどんなレベルからでも、上手い人を真似する、試してみることは有益なんじゃないのかなっていう気はしますね。「SEIRYUさんだからできるんでしょ、俺はまだ関係ないや」はもったいないんじゃないかな。

N:逆に、全てをやったからって上手くなるわけでもない。そこの塩梅は、自分で納得しなきゃいけない。真似したら上手く行くかもしれないから試してみようは、どんなレベルの人でも持っていていいんじゃないかな。

――試してみて、上手くなったら続けるし、ならないならやめる。

――緑数字は本当にその通りで、(実際に)どんどん上手くなるごとに減っていく人が多い。少しずつ少しずつ、ちょっと調整してみて、ダメなら戻すみたいな。

N:青龍さんとか260ですもんね。

S:260ですね、結構遅めかなと思ってます。

N:プロの中では相当遅めですし、それこそ(ドラフト)1巡目の中では一番遅いぐらい。

 

カスタマイズは、メリットとデメリットの塊

――気になるのは、同じぐらい上手い人で微妙に違ってる時に、「緑数字ってあんまり関係ないのかな」とか。(カスタマイズが)Aの人Bの人がいて、どう(選択)するんでしょうか。

S:やっぱり何を目指すのかが、ここはすごく大事になってくると思っていて。カスタマイズって、メリット・デメリットの塊だと思うんですよ。

S:緑数字が早ければ良いっていうか、早い遅いの軸と、 レーンカバー・リフトの表示領域の広さ狭さっていう2軸があって。その軸で、仮にめちゃめちゃ極端に寄せるとこうなる、っていうのの中間地点みたいな。

S:例えば、 表示領域がすごく広めだと、緑数字が他の人と変わらなくても早く感じるけど、ノーツの間隔が広がるのでズレハネとかをすごく捉えやすいんです。なので、一個一個のノーツを光らせる目的では割といいかなと思うんです。逆に、密度の高い譜面が来ると、NORIさんとか僕とかがやってる、フワッと認識するのがほぼできなくなるんですよね。視界が広すぎて(表示領域全体が)目に入りようがなくて、デニムがどういう形、階段がどういう形みたいな認識が、非常に難しくなるっていうデメリットがある。

S:(表示領域を)狭くすると、一体として見るみたいなのができるようになって、難しい譜面の認識のコスパがすごく良くなるんです。逆に、ズレハネとかがどれだけズレてるかよくわからない。どのタイミングで押せばスコアが出るのかが、ちょっと難しくなると思うんですよね。

S:U*TAKAくんみたいな、(表示領域が)めっちゃ狭くて緑数字も小さい人は、その両方をある程度持つようにしていて、視野が狭い状態で目線固定もしやすくて*2、ズレハネの幅もわかるから、難しい譜面でもスコアが出しやすいカスタマイズではあると思うんですけど。ただその分、いわゆる人間の動体視力は音ゲーマーならだいたい同じくらいだろうっていう前提*3だと、あれ(U*TAKAさんのカスタマイズ)ってかなり厳しい状態だと思うんですよね。だから、集中力がすごく高くないと見逃しちゃう。譜面を目線固定して捉えるっていうのは、幅が広がろうが狭かろうが、(ノーツが降る速度が)早い状態ではしなきゃいけないので、そういう難しさはあります。だからこそ、急に難しい譜面が降ってきた時に追いつかなくなって崩れやすくなったりとか。あと、体調がすごく影響しやすくなると思うんですよ。

S:だいたいプロがみんな同じくらい(の緑数字)になってるのは、多分そのバランスなんですよ。難しい譜面も、簡単な譜面も、どっちもある程度は認識できるバランス。早い方がスコアは出るし、遅い方が安定感は取れるしっていう。そのメリット・デメリットを、どこを重視して、何を自分は得意とするか。だからカスタマイズの違いは、得意不得意が大きく出るのかなと思うんです。

 

カスタマイズの選択は、目標と現在の中間地点に

――だから、(アドバイスされる側が)どういう風になりたいと思ってるかに対して(選択するべき)っていうことになるんですね。

S:そうです。結局、僕がアドバイスするときは、何ができるようになりたいかによるんです。(アドバイスされる)本人がなりたいのが、PEACEさんみたいになのか、 RAGくんなのか、U*TAKAくんなのか、それによって全然違う。難しい譜面を全部フルコンできるようになりたい、RAG君みたいになりたい、っていうんであれば、多分あんまり緑数字早くない方がいいと思いますし、ある程度(表示)領域も狭まっていた方が難しい譜面の認識がしやすいので、そういうカスタマイズの方がいい。

S:(仮に、アドバイスされる側が)広い方がいいって言っても、でも「今あなたがやってる状態だと、物量はずっと苦手ですよ」みたいなところがあるので。少し見やすくするためにも、ちょっと狭めた方が、もうちょっと難しい譜面も認識しやすくなるから、こう変えた方がいいかもしれないって。

S:僕も、そのアドバイスが絶対合ってるかはわからないので、はっきりとは言わなくて、本人が好きなやり方を選んでもらうようには、もちろんしてるんですけれど。どういったプレイヤーになりたいかっていう目標があるから、(目標に対して)そういうアドバイスをするみたいな感じです。物量をもっとできるようになりたいんだったら、同じカスタマイズだとちょっと広すぎるので、中間地点を目指すみたいに。

N:そこまで極端ではないんすけど、私もやっぱりGuNGNiR [L]とかVerflucht [L]とか、重たい(物量譜面)って、やっぱりいつものオプションのままだとしんどくて、緑数字をちょっと増やしたりするんですよ。ある程度は固まった中でも、譜面によって多少 増やしたり減らしたり。主軸は同じのまま、ある程度の幅の中で揺らすみたいなことは、やれるんじゃないのかな。

 

選択肢が多いと視野が広がる

――お二人のおっしゃる通り、(カスタマイズの)引き出しが色々用意できれば、自由に選べる。それこそ、最強は誰にでもなれるっていう状態だと思うので。ある程度以上うまい人はあんまり、「こう(特定のカスタマイズ)じゃなきゃいけない」みたいなことを言わないイメージがあるんです。

S:そうですね。さっき話したメリットとデメリットっていう、そのトレードオフみたいな関係がわかって、この場面ではこれがメリット、この場面ではこれがデメリットだってことがわかってると、選択肢を持てるし、視野の広さになる。そこが直感的に理解できてる人は(本人に合うカスタマイズを)選択してます。

――メリットが(重要)っていうのは、本当にそうですよね。メリット・デメリットをちゃんとわかってると、(例えば)ConfisrieとかGuNGNiR [L]とか、皿が降ってくる所が決まってる(譜面)で、できるだけ手首皿使いたくないんだっていう人も、そこだけなら(手首皿を使う)ってこともできる。

――青龍さんのおっしゃる通り、そのカスタマイズの何が良くて何が悪いのか、そのデメリットの一つに「自分が使いたくない」っていうのもあっていいと思うんですが、そこも含めてどう(選択する)かっていうことですよね。

S:そうですね。何事も、自分なりの答えが何なのかって話なので。手首皿はメリットがあるから、絶対に手首皿じゃないといけないわけではなくて。手首皿っていう答えを選ぶんであれば、手首皿を練習するしかないですし、Confisrieとか3y3sみたいな難しい曲が来た時に、僕みたいに小指で取るって決めるんだったら、小指皿で極めることに向かえばいいです。

S:できないことに対してどうするかっていう正解の方法は、なんでもいいと思うので。何か正解を自分で探して、どうやったらできるようになるのか、自分なりに答えを自分で選べばいいのかなと思います。あくまでどれも手段なので。

――思ったのは、「上手い人はあまり何も考えてない」みたいに言う人もいますが、BPL観てると、そんなことはないだろうと思って。それこそ、どの曲を選ぶか、どのオプションにするか、すごく色々考えながらやられてると思うんですけど。でも、その考えるポイントっていうのが、そういう意味では結構(一般プレイヤーと)違う。メリット・デメリットみたいなことに逐一注目するっていうのは、プロの方とかは結構やられてるイメージがある。

S:そうですね。メリット・デメリットをちゃんと理解しておくことで、(本人にとって正しいカスタマイズを)選べると思うんです。

 

固定オプションと譜面傾向の変化

S:僕がいろんな方に教えていて、なんとなく自分の中では、正規の方が片手に寄った配置が多いので、地力がちょっとつきやすいと思ってるんですよ。(その代わり)正規だと正規の配置しか認識できなくなっちゃうので、(正規譜面ばかり触っていると)RANDOMの配置が認識しづらくなって。さっきの話に出たように、☆11以降だとランダムっぽい配置が正規で出てくるので、認識が苦手になるっていう構図だと思うんですよ。

S:逆に、RANDOMでクリアを狙うみたいなことをすると、当たった時だけ上手くいってしまうっていうのがある。 比較的、片手に寄った配置ではなくて、右手左手で分業になったような配置でクリアすることになるので、地力はつきにくい。ですけど、いろんな配置を目にすることで、それに対する押し方の答えっていうレパートリーが増えるから、認識力は上がる。そういうメリットとデメリットがあるのかなと、思ってるんですよ。

――いま仰っている地力というのは。

S:押し切る力ってことですね。片手に寄った譜面のほうが(押し切るのは)難しいので、そういう力はすごく培われるのかなと。

――意外とそういう話って、Twitterとかでもあまりどなたも話していないんじゃ。

N:ここまで考えてるの、この人(SEIRYUさん)ぐらいしかいないと思う。

S:僕の中では、メリット・デメリットなんで、どっちがどうはないんですよ、あんまり。どっちもいいところはあるし。どっちかに寄ると、どっちかが苦手になるだろうっていうのがあって。それで、得意でありたいのかっていうのも、それもなりたい目標がどうなのかに依ってくるので、やっぱり一言じゃ全く語りようがないんですよね。

――メリット・デメリットは、(単に)有無だけじゃなくて、どれぐらいのインパクトがあるのかっていう量(の問題)も結構ありますよね。(正規とRANDOMの)どちらかだけだと皆伝になれないレベルなのか、みたいな。実際そんなことはないと思っていて。

S:そうなんですよね、あくまでメリットとデメリットってだけなので、別にメリットを無視しても培われるものはあるんですけど。ただ、RANDOMで正規と同じ配置はほぼ降ってこないので、RANDOMで正規の力をつけるのは難しいんですよね。逆に、最近は正規でRANDOMっぽい(配置の)譜面があるおかげで、正規だけでもRANDOMの力はちょっと培われてくる。

――10年前と今だと全然違うという面があると。

S:譜面の傾向が昔と大きく変わりすぎているのもあるので。一概に、正規かRANDOMかっていう言葉でどっちがいいみたいなのは、もう無いなっていう感じはいつもしてるんです。

S:後は、BPLとか大会とかで、固定オプションを使う使わないは、リスクをどれだけ取るかみたいな部分もあったり。(特に)昔からある譜面は、右手左手に寄る譜面が多くて。それでスコアを出すのは難しいけど、外れ配置よりはマシなのか、大差ないのか。そのバランスと、自分の押せる力とかとのリスクを取って、どっちの方が安定するかで選んだりって感じだと思うんですよ。

――それこそ、相手の上手さによっても変わったりするのかなと。

S:そうなんですよね、戦略の取り方がやっぱり色々あって。

 

プロになって変わったこと、変わらないこと

S:それこそさっき、プロ選手は色々考えてるって話があったと思うんですけど、プロになるまではあまり考えてなかった人が多かったのかなとは思っていて。

S:どちらかと言うと、プロになった以上 今までより使命感が強くなって、どうしても勝たなきゃいけなくなったんだと思うんですよね。それによって、解像度を上げざるを得なくなった。色々考えないと、ただやってるだけじゃ勝てない状況になったから、プロは今考えてるってのもあって。逆に、そうじゃない(使命感に追われていない)人はそこまで考えてないのかなとは思いつつ。

S:ただ、普通の実力の人より、たぶん解像度はあり得ないほど高いんですよね。

――間違いないです。

S:そこがやっぱり違うんですよね。考えてないように見えて、本人も考えてるつもりはなくても、 気付いたら解像度がめっちゃ高かったっていう感じ。ただ言葉に落とし込まないだけで、それを咀嚼して試行するみたいなことも、あまりにも当たり前すぎて考えてないのかなとは思うんですよね。

N:私とかそうだと思います。(BPL以前は)漫然とビートマニアやって、「これやったら上手くなりそう」「これできないからこれやろうかな」「これ今やってて面白くないからああやってやろうかな」みたいな。たまたま上手い方に転がっていったんだろうなっていう気はしますね。

――もう一つ思うのは、一緒に音ゲーやってる知り合いが多い人って、上手い人が多いなって。解像度って、1人で見るより色々な人が見てる方が、見えるものが増えるのかなと思うので。色々な人が色々言ってるのを聞いてっていうのも。

N:万事そうですけど、こうやって話していて初めて言語化できることって、多分いっぱいありますよね。

S:そうなんですよ。

N:音ゲーの会話を、「あれができなくてさ」みたいなとか「これができてさ」みたいなのを、友達と話してる中で、「ということは、つまりこうか」みたいに形作られていくチャンスが多い方が、解像度なのか、考え方なのかっていうのを、具現化してくことができる。 

 

青龍塾のこれから

教える人が増えると、全体のレベルが底上げされる

――プロが教えてくれるのはすごく大事だと個人的にはすごい思っていて。(青龍さんは)今後も塾みたいな活動は続けていかれるのかなと思うんですけれども、今後こうしていきたいなっていうのはあるんでしょうか。一対一なのか、もっと広くなのか。

S:僕みたいに教える人が増えるといいなとは思ってるんです。それはプロに限らず、 教えるの得意っていう人はいると思うんですよね。なので、そういう人がこういうサービスをやる、それの足がかりじゃないですけど。実績作りとか、いい教え方みたいなのをみんなで共有したりして、そういうサービスが増えていくと良いなとは思ってます。

S:それによって、そのプレイヤーの実力もすごく上がりますし、上手くなりたいっていう目標を持つ人も増えたり。プロになれる人もどんどん増えると、プロのレベルも上がりますから、そういう全体の底上げっていう意味で、やっていきたいなとは。 

 

マンツーマン形式の良いところ

S:(形式は)一対一が基本的にはメインかなとは思っていて。大多数に対してわっというのは、それこそ定説みたいに、「メリット・デメリット(について)喋ります」みたいなので終わっちゃう気がするんですよね。

S:(アドバイスする上では)さっきの目標ってところが一番大事で、あれが人によって違うんですよね。現時点の実力もそうですけど、それよりも何を目指してて、何が必要なのかっていうことを話すときに、個別じゃないと目標もわからない。実力と悩みだけを言われても、どこを目指して僕がアドバイスすればいいかっていうのが、わからないところはあるんです。なんとなく、その悩みに対するコツは言えるんですけど、本当にその悩みを解決することが本人の目標と合致してるのかどうかは、ちょっと僕が保証できないんです。 そういう意味でも、確度の高い話ができるようにするためには、個別の方がはやりやすいなとは思って。

S:(目標は)本人もあまり意識してないことですし。別に目標を立てろってことではないんですよ、これって。立てることが目的なのではなくて、自分がどうなりたいか。目標っていうと、なんか立てて達成しなきゃいけないみたいですけど、そういうわけじゃなくて。立てて達成する必要は別になくて、深層心理として「自分がこういうプレイヤーを目指している」っていうところを、あぶり出すみたいなところが、目的としてあります。

――みんながみんな上手くなる必要はないっていう。

S:そうそう、そうなんですよ。上手くなることを目的としてるのか、楽しめる実力になりたいのかでも、やっぱり違うので。楽しめむために上手くなる人と、他人に勝ちたいから上手くなる人、肩書きが欲しいから上手くなる人と、色々あると思うので。

S:本質的にこういう状態がいいよねっていうのは、単に段位とかランプとかスコアとかじゃあ測れないかもしれないですし。どういう状態がいいんだっていうのは、すごくハッキリさせるようにはしてますね。

――なるほど、なるほど。

S:たまに話題に上がる、「上手くなるには楽しむことだ」みたいなのがあるじゃないですか。でも、楽しむことで上手くなれるわけではなくて、本人が本当に達成したい目標というか、なりたい形っていうのに沿ってると楽しいとか、なりたい形になれてるから楽しい、みたいなのはあると思うので。

S:その辺りがやっぱり自己分析が必要だったり、そのために僕と話して、それを見つけ出すとかっていうのが必要なんだろうなと思うんですよ。何が自分にとって楽しいとか、何を目指してるのかとか。

 

なりたい自分が見つかると、ビートマニアはもっと楽しくなる

S:僕はもともと、得意な曲ばっかりしかできなかったですし、得意な曲もかなり狭かったんです。超クリアラーで、スコアも後回しでいいってずっと思っていて、クリアだけがこのゲームだって思ってたので。

S:ただ、同じクリア水準の人とスコアを比較して、(相手のスコアが)めっちゃ高かったりすると、それが恥ずかしいみたいに思ったり。恥をかきたくないから、そのスコアを埋めるみたいなのとか。そういうのが積み重ねで。元々はそのスコアも、BPM180から190ちょっとぐらいまでしか光らなかったんですけど、そこから高速もできるようになりたいとか、中速も光るようにしたいとか。

S:アリーナっていうのが出てきて、皿とかソフランもどうにかしなきゃいけなくなったりして。負けないようにこっそりやったり、苦手を詰めるようにしたり。上手い人に絶対勝てる武器を作るために、より得意を伸ばすみたいなこともしたり。いろんな感情があって、それをやりたいから、これを上手くなるみたいなのが。

S:それは目標を立てるとかじゃなくて、そういうことをしたいからやるっていう。なので、そういうのを他の人にも見つけてもらって、 それに向かって僕もアドバイスできるのが一番確度が高くて、楽しめるんだろうなと思うんですよね。

 

最後に

20000文字超におよぶインタビュー記事、最後までお読みいただきありがとうございました。

前回のインタビューに引き続き、トッププロにしか見えない貴重な視点がたくさんありました。今回のSEIRYUさんはそれに加えて、青龍塾主催としての「教えるプロ」の観点からも、ここでしか聞けない話がてんこ盛りだったのではと思います。

インタビューの発端になった<心的イメージ>について、より実際的・実践的なとらえ方を知ることができた今回は、ビートマニア・音ゲーの範疇を超えて多くの人に知ってほしい内容を含んでいると、個人的には感じました。

 

記事化するにあたって、インタビューの内容をギュッと凝縮してお届けしています。そのため、書けなかったエピソードや、細かいニュアンスの違いなど、気になる方はYouTubeの配信アーカイブもご覧になってください。

 

改めて、インタビューに応えてくださったSEIRYUさん、インタビュー内容をより豊かなものにするためにご協力いただいたNORIさん、本当にありがとうございました!

 

 

本記事についてのご意見・ご感想のある方は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでご一報をお願いします。


それでは、良き音ゲーライフを。

 

*1:6鍵と7鍵の交互連打。1Pプレイヤーの場合、多くは薬指と中指を使って処理する必要があり、最も取るのが難しいトリルの形となる。2Pプレイヤーなら12トリル

*2:多くの場合、表示領域が小さいほど目線を固定する位置が上下にブレにくいと言われています

*3:動体視力の個人差については不明な点も多いですが、持って生まれた個人差と比べて、訓練によって向上する部分は無視できないほど大きいと考えられています

【お願い】CPI含む私の創作物の紹介・宣伝に関して

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 

 

表題に関して、これまで基本的にはCPI含む私の創作物の紹介・宣伝をお願いしてきており、実際に多くの方に拡散していただいて、CPIは6000人を超える方にユーザー登録をいただいています。

 

一方で、一部のSNSや匿名掲示板などで、参加者に快く受け入れられていない状況で紹介・宣伝が繰り返され、いわゆるレスバトルのような形に発展している状況が見受けられています。

 

前提として、データに基づく推定値に一定の客観性があること*1は、「その推定値を利用すべきである」という結論には関係ありません。

 IIDXをはじめとして、基本的にはゲームをどのようにプレイするか、何に従ってプレイするべきか、ということは、プレイヤーおよびそのコミュニティの自由な意思に委ねられています。

 

データの解釈は常に直感的なものではありません*2。例えば「95%に当てはまる」推定値はすなわち「5%には当てはまらない」ことを意味しますが、中には「95%に当てはまるのに自分に当てはまっていないということは、自分は普通ではない/おかしいのではないか」感じる方がいます。

 また、データや数字には、それら特有の「有無を言わせない」力があります。その推定の前提を共有しない状態で、「とにかく正しいから」と結果だけが与えられることは、健全な議論にはつながりません。

 すなわち、「自分にはこの指標は当てはまらない」と感じて指標を利用していない人に、客観性を振りかざしてその指標の利用を押し付けることは、データによる暴力に他なりません。

 

ついては今後、善意に基づいてCPI含む私の創作物の紹介・宣伝をしていただいている方においても、ある特定の人・コミュニティに一度拡散していただいたあと、そのことが積極的に望まれている状況でないと判断した際には、二度目以上の拡散は控えていただけると幸いです。

 

私はこれまで、個人の経験に基づかない形でIIDXのプレイの指針となるような情報を作ることを目的に、様々な創作物を発表してきました。それは、身近にプレイの指針となるような上級者のいないプレイヤーであっても、IIDXの上達を楽しめるよう、情報格差をできるだけ少なくすることが目的でした。

 その観点において、現状の指標(投票に基づく難易度表など)に私の創作物が取って代わることは、私の望むところでは一切ありません。むしろ経験的な上達論を含むすべての指針がコミュニティに増え、様々なやり方で一人一人が上達を楽しめるようになっていくことが一番の願いです。

 

今後も上記の方針に従って創作物の発表は気ままに継続していきますので、ありがたいことに利用・応援してくださっている皆様においては、IIDXの上達を望むすべてのプレイヤーがそのプレイヤーの望むかたちで上達を楽しめることを支援していただきたいです。

 

 

本記事についてのご意見・ご感想のある方は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでご一報をお願いします。


それでは、良き音ゲーライフを。

*1:そもそも推定の過程には創作者たる私の主観があるていど関与しており、その影響は可能な限り小さくしようと試みてもゼロになるものではありません

*2:データに基づく推定が様々な条件のもとで常に正しくならないことは前提です