【IIDX】段位認定に必要な能力をデータから探ってみた【皆伝】

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

 

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

cpi.makecir.com

 CPIは当初よりプレイヤーの目標設定に役立ててもらうことを目指していますが、中でも総合CPIの段位別平均(中央値)は一定数の方がターゲットとしているようです。

 このことは個人的に予想外でした。というのも、総合CPIと段位合否との関係はそれほど強くないと考えているからです。

 

CPIを上げると皆伝が近付く?

試しに、総合CPIと皆伝合格率との関係をグラフにしてみました(以下で使用するデータは断りがなければ2020年10月頃に集計したものです)。

f:id:rice_Place:20201218191545p:plain

対象は集計時点でプレイヤーデータを公開設定にしていた
中伝・皆伝のプレイヤー 約11000名

 こうして見ると間違いなく相関はありそうですが、 中伝平均(1620)で1割弱が合格する一方、皆伝平均(1880)で2割弱は合格しないということで、【CPIを上げる≒とにかくクリアランプを点ける】だけでは、皆伝合格に関して回り道になりそうだと考えられます*1

 

このようにCPIと皆伝合否の相関が弱くなる理由として、段位認定では適正より少し高いレベルの譜面を4連続&正規or鏡で完走することが必要であり、通常プレイにおけるランプ更新とは求められる要素が異なってくることが挙げられます*2

 特に皆伝においては、長いあいだ3曲目・4曲目が固定されており、なおかつ皆伝獲得の難関であり続けることから、「皆伝の合否は卑弥呼と冥の正規譜面がどれだけ押せるかで決まる」というトートロジーが、一種の決まり文句として言われることがあります。

 

そうは言っても(ひたすら皆伝を粘着することは合格を遠ざけるので)、何か指標となるものを探したいのが人情です。

 というわけで、皆伝合否との相関が強いクリアランプを、先述のプレイヤーデータから探してみることにしました。

 

皆伝合否と相関の強い譜面

まずは【皆伝合否との相関が強い】ことを、【{(クリアかつ皆伝)+(未クリアかつ中伝)}÷{(皆伝全体)+(中伝全体)}=正解率 が高いこと】と定義します*3

 そして各譜面の正解率をガーッと計算すれば良いのですが、単純にこれをやると新曲の正解率が高く出てしまいます。なぜならクリアランプは一度点ければ消えない一方、段位は毎作ごとに取り直す必要があるため、最新の実力を示す新曲のクリア状況は段位との相関が強いと考えられるからです。

 そこで、より”アクティブ”なプレイヤーを全体の半分ほど抽出し、曲の新しさの影響を補正することにしました(具体的な手法はこちら)。

 

このようにして求めた各譜面・クリアランプの正解率を縦軸にとり、横軸に適正CPIをとってプロットしたものがこちらです。

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 先ほどの棒グラフで皆伝合格率が約50%であった、CPI 1740付近を頂点とする上に凸の綺麗な分布が見られます。

 頂点付近を拡大したものがこちらです。

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  こうして見ると、エクハは皆伝との相関が比較的弱く、イージー~ハードは混在している印象を受けます。

 個人的にはこの時点でけっこう驚きました。ゲージの仕様を踏まえると、段位認定で重要なのは格上の譜面でもなんとか押し切る”イージー力”だと考えていたからです。

 

さらに譜面ごとの特徴を抽出するために、適正CPIの影響を除くような計算*4を行い、以下のような図を得ました。

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 このグラフで上方にプロットされるランプは、適正CPI≒クリア難易度の影響を除いても、なお皆伝合否との相関が強いと言えそうです。

 

相関の強い/弱い譜面の特徴

正解率の高いランプTOP20を表にまとめました。

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 いかがでしょうか。私がパッと見た時の印象は、意外と地力系ばっかりだなというところです。

 詳しく見ていくと、例えばシムルグ・焔極・陰キャ・エルフェリア……など、高速16分主体+皿複合といった譜面が上位に来ているようです。表中で唯一のEXHである金十字も(BPMは遅いですが)この特徴には当てはまりそうです。

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表中ではかなり簡単な部類のゼフィランサスSPL易も、
最終盤に怒涛の皿複合が降ってくる

https://textage.cc/score/23/zephyran.html?2XC04

 他にも軸や二重階段など、卑弥呼を彷彿とさせる要素も目立ちます。

 一方、皆伝の代名詞であるソフランはエボアボダリアとJOMANDAくらいしか現れませんでした。また、連皿・CN・ディレイ*5を主体とするような譜面もあまり選ばれていないようです。

 

続いて、正解率の低さTOP20はこちらです。

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 20分の13譜面がエクハという結果になりました。TOP20に入っていた金十字との違いを考えてみると面白そうです。

 また、連皿譜面のチェイスとラウンドテーブルが選ばれています。この辺り、灼熱が課題曲なことを考えると不思議な気もしますが、連皿が飛び抜けて得意なプレイヤーの影響が大きそうです。

 残りのノマゲ(ワイコー、3y3s、ファーダリ、FTB†、FAXX)は全て難所以降でゲージを大幅に回復させられる譜面となっており、皆伝を取得できているプレイヤーはノマゲを飛び越えてハードを狙いに行く傾向があるのかも知れません。

 

ちなみに、昔から皆伝フラグとして挙げられるいわゆる三闘神については、対象539譜面中でバドマニハードが25位、クエルハードが41位、麺ハードが50位でした。SIRIUS環境ではバドマニが1位となります*6。この10年間で練習曲が増えたことのあらわれと言えそうです。

 

まとめ

以上の内容をまとめると、

・皆伝合格率と総合CPIとは相関するが、それほど強くはない

・皆伝の指標になりそうな譜面の適正CPIは一定範囲内に収まる

・適正CPIが1700~1800付近で、高速16分+皿複合が主体の譜面は皆伝合否のよい指標となる

と言ったところでしょうか。

 先述しましたが、結局のところ皆伝の合否は課題曲の正規系譜面の出来で決まるので、極論すればどれだけ地力があっても嘆きに癖が付きまくったら受からなくなります。けれども、充分な地力があればちょっとした対策で皆伝合格がグッと近付くことも事実です。

 さらに言うと、皆伝対策はググれば色々と出てくる一方で、”必要な地力”というのは人によって見解が大きく異なるところです。また一口に地力譜面と言っても、最近では様々な要素が求められるようになって来ており、解像度の高い理解が必要だと思います。

 

今回の記事が、新たに皆伝合格の喜びを味わうプレイヤーを一人でも増やすことに繋がれば、週末を消費したことの充分なリターンになると言えそうです。

 この記事についてのご意見・ご感想は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでお願いします。

 

それでは、良き音ゲーライフを。

*1:もちろん、長期的な目標を皆伝合格以外に置くのであれば、反対に【とにかく皆伝合格を目指す】ことが回り道にもなり得ると思います。

*2:前提として、各プレイヤーの”真のクリア力”と総合CPIとの乖離は、中伝・皆伝間で差がないことを仮定しています。

*3:こちら↓でわかりやすく説明されています

qiita.com

*4:具体的には適正CPIが近傍(±5)のランプ全体の中央値との差分を求めました。対象は適正CPI1600~1900です。

*5:24分や32分など、いわゆるジャリジャリ系

*6:エクハが登場したのはLincle

【IIDX難易度推定サイト】CPI活用のススメ

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

 

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

cpi.makecir.com

2020年8月の正式サービス開始以降、記事投稿時点で1500人以上の方がユーザー登録されています。

 これまで10名以上の方から開発者支援を頂いていることはもちろん、SNSや動画投稿サイトなどを通じてCPIが広められていることも、大変ありがたく感じています。

 対象プレイヤーの5%以上が利用しているというのは、当初の想定に対して遥かに多く、制作者一同は驚くばかりです。ですが、より多くの方に知ってもらうこと、そして使ってもらうことによって、このようなサービスは継続的な改善が可能になるとも思っています。引き続きよろしくお願い申し上げます。

 

今回は、CPIの知られていない(あるいは誤解されている)仕様について改めて解説するとともに、CPIを活用して☆12クリア力を向上させるためにオススメな方法・考え方についてもその例を挙げていきたいと思います。

 

 後半のCPI活用法に関しては上達論的な内容が含まれます。対象となるのは達成可能なクリアランプを全て点けた場合に総合CPIが2000以下であるようなプレイヤーです。言い換えると、後半は八段~皆伝平均レベルの方に向けた文章ということになります*1

 CPIによらない一般的な内容も含まれますが、CPIの高すぎる、あるいは低すぎる方*2は全く参考にならない可能性がありますのでご了承ください。

 

 また、以下の内容は断りのない限り執筆時点のものです。CPIは鋭意改善中のサービスなので、仕様の大幅な変更が今後起こる可能性があります。

 

 CPIの仕様解説

①”難しい”ランプを点けてもCPIはそれほど上がらない

CPIに関する誤解のなかで、最も広く言われているのが、「難しい(適正CPIの高い)ランプを点けたほうがCPIが上がる」というものです。確かに直感的にはそう感じられると思いますので、少し長めに説明していこうと思います。

 

あるプレイヤーの総合CPIが1500(十段平均レベル)だったとします。このプレイヤーがMare Nectarisをハード(適正CPI 2019.13)した場合と、エクハ(同 2603.95)した場合で、総合CPIの変化量はどれくらい違うでしょうか?

 

……そうです、ほとんど変わりません。

 十段平均のプレイヤーのほとんどはMare Nectarisを未ハードであるため*3、同じくらいのCPIのプレイヤーに対して、ハードでもエクハでもクリアランプの勝敗状況に違いはありません。

 CPIはクリアランプの勝敗によってのみ計算されるので、総合CPIの変化量にはほとんど差が無いと考えられるのです。

 

実際にCPIの変化量を決めている要素は、ひとことで言うと「(同CPI帯における)プレイ人数」になります。詳しくは以前の記事↓をご覧ください。

riceplace.hatenablog.jp

 

②適正CPIは「仮想的なクリア人数」と対応する

前項で述べたとおり、総合CPIはデータベース内のプレイヤーとの勝敗状況によって決まります。

 そして、各譜面各クリアランプの適正CPIは、達成者・未達成者の総合CPI分布をもとに予測されます。

 すなわち、適正CPIという言葉を言い換えると、「達成者の割合が50%となるような総合CPI」ということになります。

 このことはいわゆる地力譜面・個人差譜面であっても常に変わらないため、ある譜面の適正CPIが高いor低いということは、全プレイヤーがその譜面をプレイしたときのクリア人数が多いor少ないことだと言い換えられるのです。

 

③異なるクリアランプ間の適正CPIは比較しにくい

前項から、適正CPIが高いということは、クリア人数が少ないということだ、という結論が出てきました。

 これは異なる譜面の異なるクリアランプ間でも同様に当てはまります。例えば、Mare Nectarisイージー(1947.14)よりも、BLUE DRAGON(雷龍RemixIIDX)エクハ(1954.71)の方が、仮想的なクリア人数が少ないということになります。

 では、前者よりも後者のほうが”難しい”ランプであると言って良いのでしょうか?

 

結論から言うと、「わからない・何とも言えない」ということになります。

 エクハゲージを使用しないスタイルのプレイヤーが一定数いること、そのようなこだわりが無かったとしても完全には埋めていないプレイヤーも多いこと、イージー難易度1位であるMareは全イージー狙いのために積極的にプレイされること、などなどの理由によって、前者は過小評価、後者は過大評価されている可能性があります。

 

では具体的にどのくらい過小・過大評価されているのか、それを計算する術はいまのところ知られていません……。

 そもそも各クリアランプの求められる能力が異なることは言うまでもありませんが、楽曲の有名度・人気度や、新曲・解禁曲・レジェンダリアであること、超高難易度・超低難易度であることなどなど、”真の難易度”から推定難易度を乖離させる要因はたくさんあります。

 CPIではこれらのうち、新曲か否かという点については難易度推定における補正を行っています。

 

全体的な傾向について言えるのは、譜面のプレイ人数が少ないほど、クリアランプの達成人数が少ないほど、上記のような影響を強く受けるということです。

 

 

ここまでCPIの仕様についての解説を行ってきました。

 以下ではこれら仕様のメリットを最大限に、デメリットを最小限にすることを目指しつつ、実際のクリア力向上に繋がるような方法を提案していきます。

オススメCPI活用法

①できる限りクリアランプを点ける

これがとにかく大事です!

 仕様編①からわかるように、総合CPIには強すぎるランプ・弱すぎるランプの存在よりも、点きそうなランプが点いているかどうかが重要になってきます。

 逆リコメンドのトップに来るようなランプが1つ増えるよりも、適正ランプが2つ増えることの方が大事だということです。

 

CPIのリコメンド推定には地力・個人差度が反映されているため、総合CPIが真の実力から離れていると、正しい推定となりません

 そして、「やればできるけど埋めていない」ランプが多いことは、次項②にも関わってきます。

 

②苦手要素の解像度を上げる

いよいよ上達論的な内容になってしまいますが、IIDXの上達においては、自分の苦手要素を正しく把握することが極めて重要だと思っています。

 それを前提とした上で、☆12に挑戦していく過程では、苦手要素を細かく分解して、それぞれの小要素に合わせた練習譜面・方法を探していく必要があります。

 

筆者の個人的な経験は脚注に書いておくことにして*4、ひと口に連皿・皿複合・ソフラン・CN・軸・トリル・物量……といっても、求められる能力は譜面ごとに微妙に違っている、ということを認識することが重要です。

 そのためには苦手であることがわかり切っている譜面であっても、そのときの全力のクリアランプを点けて、例えば「同じ連皿でも16分メインはそんなに苦手じゃないな」とか、「物量の中でもBPMが遅くて横に広い譜面の方が押せてないな」といった事を見極めていく必要があります。

 

ちなみにそのようにして見付けた苦手要素を克服していくにあたっては、☆12に拘らずに低難易度譜面にも触れることが大事だと思っています。

 例えば中速連皿を練習しようと思ったときには、☆12の赤鮭やワッチ2を誤魔化してプレイするよりも、☆11でワンブルやデジタン辺りの出来を確かめて、もしミスがボロボロ出るようなら☆10のバスバスや灼熱灰で……と、「どれくらい簡単なら(ほぼ)フルコン可能なのか」というレベルまで見に行くのをオススメします。スタダの1~2曲目がちょうど良いですね。

 

③ユーザー検索を活用する

活用法①②を踏まえた上で、「リコメンド上位にいるこの譜面、一般的に見てそんなに簡単か……?」と感じることはあると思います。

 本当に自分がめちゃくちゃ苦手なのか、それとも難易度推定がおかしいのかを確かめる手軽な方法として、登録されている同じくらいの総合CPIのプレイヤーを参照するのがオススメです。

 CPIに登録しているプレイヤーは、データベース全体と比較するとアクティブである可能性が高く、①の条件も比較的満たされており、いわば”良質なサンプル”であると言えます。

 

他人のユーザーページから簡単にそのプレイヤーの傾向を把握するには、難易度表ページの詳細グラフを見るのがお手軽です。

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筆者のエクハ難易度表グラフ

私はできるだけエクハランプを点けるようにしているので、このように2050~2100を境に分離したグラフになります。

 難易度表グラフの数値と分布が自分と似ているプレイヤーは、総合的なクリア傾向が近く、得意・苦手譜面の自分との違いがハッキリしやすいです。

 

めぼしいプレイヤーがいたら、メインページの[自分と比較]ボタンからクリアランプの比較をすることができます。

 絞り込みタブから勝ちランプあるいは負けランプだけを抽出して表示することが可能です。

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CPIが近いプレイヤーとの比較。勝ちor負けランプ、エクハ・ハードのみ抽出。

自分は連皿やCNが、相手は高速トリルや皿複合が比較的得意だと分析できる。

ぴったりのライバルプレイヤーが見付かったら、CPI上でフォローすればイチイチ検索する必要がなくなります。

 もしプレイヤーIDやTwitterを公開していれば、そちらもフォローできるかもしれませんね。

 

最後に

難易度表は主観的・客観的を問わず、適度な距離感を保って利用することが、上達とおよびモチベーションの維持には大事だと思っています。

 実力の把握・目標の設定・ライバル探しのツールとして、これからもCPIをご活用頂ければ幸いです。

 この記事についてのご意見・ご感想は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでお願いします。

 

それでは、良き音ゲーライフを。

*1:筆者のCPIは執筆時点で2120程度です。

*2:例えば☆12への挑戦を始めたばかりのプレイヤーなど

*3:https://cpi.makecir.com/scores/view/96

*4:灼熱・灼熱2のハードに苦戦していた頃のこと、昔から連皿が苦手だった自分は、連皿譜面をひたすら選曲するだけでは思うように上達しないことを感じていました。

 そんなある日、某プロが配信で「遅い皿は速い皿と違う難しさがある」という旨の発言をしていたのを聞いて、☆10や☆11の中速連皿をしっかり光らせる練習をしたところ、それまで何となく塊でとらえて回していた不規則連皿がきちんと認識できるようになりました。

 今では灼熱・灼熱2のハードに加えて、他の連皿曲も適正超えのランプやスコアが出るようになり、苦手意識が払拭されつつあります。

CPI正式開始のお礼と現状報告

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

 

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

cpi.makecir.com

2020年8月の正式サービス開始以降、現時点で900人以上の方がユーザー登録されています。

アンケートやSNS上で、モチベーションの維持・向上に繋がったという声を目にして、開発者冥利に尽きる気持ちです。

加えて、本記事の執筆時点で4名の方から開発者支援を頂いております。CPIの運営にはサーバー代等の費用が少なからず生じているので、このようなご支援は持続的なサービス提供において大変助けになっています。改めてお礼申し上げます。

 

今回は、正式開始から初めてのデータベース更新に合わせ、改善を繰り返してきた難易度推定手法の現状を整理していきたいと思います。

 

難易度推定手法の現状

以下にはnote等にも公開してきた情報が含まれますが、課題点を考えるにあたって前提となるよう、一から説明したいと思います。

 

レーティングシステム

CPIでは、プレイヤーの☆12クリア力をレーティングの形で表しています。チェスや将棋、その他スポーツなどで最も広く使われている、Elo ratingを採用しました。

ja.wikipedia.orgこの指標は勝率を対数変換して求められ、プレイヤー同士の相性を無視した場合にレーティング差が(レーティングの絶対値によらず)勝率と対応するように作られています。

 

CPIではプレイヤー同士の勝敗を、IIDX公式サイトの表示に従って「両プレイヤーが共にプレイしている譜面におけるクリアランプの総合勝敗」として定めました。ただし、ASSISTED CLEARについてはFAILED扱いとしています*1

 

このように定めた対戦を、ある時点で

・八段~皆伝を取得している

・プレイデータを公開している

・☆12を1譜面以上プレイしている

という3条件に全て当てはまるプレイヤー(以下データベース)全員に対して行い、求めたレーティングを☆12クリア力 = CPIとして表示しています。現時点でこのようなプレイヤーは概ね30000名前後となります。

 

データベースの抽出補正

データベースから☆12譜面の難易度推定を行うにあたって、様々なタイプのプレイヤーが存在することに注意する必要があります。

理想的には全プレイヤーが全譜面を(その時点の)全力で埋めていることが望ましいですが、現実にはそうなっていません。

詳細は後述する課題点で触れたいと思いますが、現状ではある一点のみについて条件を定めて、データベースの部分的な抽出を行っています。

 

具体的には、難易度推定のプロトタイプを作成・公表したときに指摘の多かった、「収録から日の浅い譜面の難易度がおかしくなる」という点です。

背景には、解禁が追い付いていない*2・試行回数が少ないといった理由が考えられます。

 

このような影響を抑えるために、まずはレーティングの対象とする譜面を

・解禁が不要なら収録から約1ヶ月

・解禁が必要なら収録から約2ヶ月

以上経過しているものに限りました(約と付いているのはデータ更新タイミングとの兼ね合いです)。

加えて、比較的ちゃんと新曲を埋めているプレイヤーを抽出するために、新曲全体のランプ平均と旧曲のそれとで差を取り*3、このようにして求めた”新曲の埋め度合い”が平均以下であるようなプレイヤー*4は難易度推定の標本から除くことにしました。

 

理論的にはこの抽出によって推定の標本数(プレイヤー数)は半分の15000前後となりそうですが、実際には新曲(あるいは旧曲)☆12を一切プレイしていないようなプレイヤーでは平均が未定義となって除外されるため、標本数はさらに数割ほど減る傾向があります。

このような性質も相まって、この項における抽出補正は比較的アクティブなプレイヤーを選択することになります。

以前は新曲のみで抽出補正の結果を採用したこともありましたが、旧曲(特に収録から時間の経った譜面)の難易度が過小評価される傾向を認めたので、執筆時点では全ての譜面に対して補正を適用することとしました。

 

難易度推定手法

ようやく実際に難易度を推定するパートです。

CPIでは推定手法として、ロジスティック回帰分析を選んでいます。

回帰分析とは、予測したい値(目的変数)Yと、予測のために用いる値(説明変数)X*5について、Y = f(X)となるようなfを見つけよう、というものです(この説明はめちゃくちゃに簡略化しています)。

特にYが0か1の値を取るような場合においては、ロジスティック回帰が用いられます。特定のランプが点いているか点いていないかという状況にはピッタリですね。

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ロジスティック回帰の基本的なことをわかりやすくまとめてみた | シストレとkaggleの備忘録

 

これに加えて、全体の傾向に対して大きく外れた標本*6の影響を最小限に抑えるべく、ロバスト推定法を採用しました。

通常の最小二乗法では下図のように、数点の大きな誤差が含まれるだけでも、近似した直線が大きくズレてしまう場合があります。
この誤差の影響をできるだけ受けないようにしたのが、ロバスト推定法です。

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ロバスト推定法(Tukey's biweight) | イメージングソリューション

引用した図は単回帰ですが、ロジスティック回帰にも適用することができます。

 

この補正によって、特に超上位譜面の難易度が高めに推定されるようになっています。このような譜面は、例えば未難◯個、未エクハ◯個という段階まで残るため、比較的全力で(背伸びして?)狙いに行くプレイヤーが多く、補正なしでは過小評価気味だったのでは無いかと推察されます*7

 

現手法のまとめ

ここまでの話を簡単にまとめると、

 ①条件に合うプレイヤーについて疑似対戦形式でレーティングを求め、

 ②新曲を平均以上に埋めているプレイヤーを抽出し、

 ③(ロバスト)ロジスティック回帰によって難易度を推定している

ということになります。

 

課題点と今後の展望

これまでに浮かび上がってきた課題点はいくつもありますが、掘り下げるとここから更に長くなってしまうので、ひとまず主要なものを箇条書きで列挙するに留めたいと思います。

・抽出補正の追加検討(LEGGENDARIA・譜面の個人差要素・プレイヤー間での特定ランプの使用頻度の違いなど)

・新曲の抽出範囲の検討(「平均以上」は適切か?)

・回帰分析のモデル選択(現状では、適正に対して比較的高CPI/低CPIのプレイヤーで予測精度が悪くなる傾向がある)

 

更に根本的な問題として、「全てのランプについて勝敗を比較する」というやり方についても検討を続けていく必要があると考えています。

この方法には、狙えるランプを全力で狙えば推定実力が上がっていくという明瞭さがある一方で、明らかに埋めていないだけの譜面が多いプレイヤーの実力を過小評価するという問題点があります。

広く使われるスコア指標のBPIでは、「1曲だけプレイしてかつそれが歴代全一(= 単曲BPIは100点)なら、総合BPIは50点」と定め、勾配を付けて加算していくことで”強い”スコアが重視される仕組みとなっています。

またGITADORAでは昔から公式がSKILLシステムを採用しており、新曲と旧曲で対象を分けることで得意譜面と苦手譜面のバランスをある程度取ることに成功している印象がありますが、SKILL計算は公式が決定した難易度に依存するため、いわゆる”稼ぎ”譜面の存在が客観性の面でネックとなってきます。

 

最近では機械学習の応用によって、プレイヤーデータに依存せずに譜面の情報だけから難易度を推定するような試みもされつつありますが、☆12内での難易度を細かく分けるレベルの精度を得るためには、まだまだ改良が必要だと見受けられます。

私自身にも(本業に近い)脳科学的な立場からのアプローチを試みたい気持ちがあるのですが、これには上記の機械学習手法よりもさらに長い長い道のりがあります。

 

音ゲーの実力とは、難易度とは……?と考えていくと、音ゲーそのものに劣らないくらいの深さと面白さがあります。

このテーマについて、一緒に考えてくれる人が少しでも増えて欲しいと思っています。

 

 

この記事についてのご意見・ご感想は冒頭のTwitterまでお願いします。

また、CPIを今後ともよろしくお願いします。

 

それでは、良き音ゲーライフを。

*1:具体的には、ある5譜面について
 プレイヤーA:{FULLCOMBO, HARD, FAILED, NO PLAY, NO PLAY}
 プレイヤーB:{EXHARD, HARD, ASSISTED, FULLCOMBO, NO PLAY}
のとき、プレイヤーAから見て{勝ち, 引き分け, 引き分け, 無対戦, 無対戦} = 総合勝利となります。

*2:特にARENAモードが追加されてからは、未解禁譜面がARENAで投げられてとりあえず途中落ちの無いゲージでプレイした、というパターンが起こり得るようになりました。

*3:例えば、新曲は全てHARD・旧曲は全てEXHARDというプレイヤーでは、平均の差はランプ1つ分ということになります。ここで新曲とはデータ取得時点における稼働作にて収録された譜面を指します(旧曲の追加レジェンダリア等もここでは新曲扱いとしています)。

*4:CPIの近い1000プレイヤー程度における平均

*5:これは複数あっても構いません。1つなら単回帰、複数なら重回帰と呼ばれます

*6:極端な例を出すと、ほぼ全譜面をフルコンしているような人が、何故かAAはイージー止まりだったりすると、そのランプは全体の傾向から大きく外れていることになります

*7:今回は詳しく触れませんが、より簡単な譜面に関しても変化の傾向はあります。

ビートマニアを科学したい①(編集中)

 beatmania IIDXという音楽ゲームをご存知でしょうか。私はこのゲームをブランクを挟みつつ10年弱やっています。

 去年20周年を迎えたこのゲームは、画面上部から落ちてくるオブジェクトが画面下部の赤いラインと重なるタイミングで対応したデバイスを操作するという、音楽ゲームの原点とも言えるゲームシステムとなっています。

 基本的であることは簡単であることを意味しません。音楽ゲームをほとんどプレイしたことのない人は、同時に2つのオブジェクトを処理することにもかなり苦労するでしょう。
 これはゲーム筐体の構成上、オブジェクトが表示されている画面とデバイスを同時に見ることが出来ず、いわばブラインドタッチのような技術を習得する必要があるためです。

 一方、熟練したプレイヤーは約2分間のうちに2000以上のオブジェクトを苦もなく処理することができます。
 他の音ゲーと比較して特別な身体能力を必要としないbeatmania IIDX(特にシングルプレイ)においては、「目の前のオブジェクトをいかに速く・正確に認識するか」が腕前の大きな要素を占めています*1

 

”縦認識”と”横認識”

 beatmania IIDXプレイヤー(弐寺er)の間では、初心者から上級者へと熟達していく過程で、流れてくるオブジェクト(譜面)の認識方法が変わる、あるいは変える必要があることが知られています。
 初心者が行っているものは”縦認識”、後から習得するものは”横認識”と呼ばれます。

 引用ツイートで取り上げられている譜面(ギガデリSPH)は、段位認定というモードの八段ボスとして以前に設定されていたもので、長らく上級プレイヤーへの壁として君臨していました。”縦認識”と”横認識”で体感する難易度が激変する譜面の代表例ということができます。

 高難度譜面をプレイするにあたって、「なぜ”縦認識”よりも”横認識”の方が有利である場面が多いのか」という疑問に対する考察は様々になされて来ました。
 以下では、脳科学的な観点からこの疑問にアプローチすると共に、「実際に”横認識”はどのように成されているのか」「なぜ”横認識”の習得・維持は難しいのか」といった点についても触れていきたいと思います。

 

人間の脳は勝手に”縦認識”するように出来ている

 突然ですが、ゲシュタルト崩壊という言葉を聞いたことはありますか?Wikipediaの説明では、

全体性を持ったまとまりのある構造(Gestalt, 形態)から全体性が失われてしまい、個々の構成部分にバラバラに切り離して認識し直されてしまう現象をいう。

となっています。例えば単独の文字をじっと見つめていると、だんだん何の文字を見ているのかわからなくなる、というやつです。

 このようなゲシュタルト(全体性を持ったまとまりのある構造)を人間が知覚するときの法則を解明しようとしたのが、20世紀初頭のドイツで興ったゲシュタルト心理学です。
 それまで主流であった、要素を重視する心理学に対する反論として提唱されたもので、(このあと詳しく触れますが)現代の脳科学ではこのゲシュタルト心理学の考え方を支持するような証拠が多く見つかっています。

 ゲシュタルト心理学の中心的存在であったマックス・ヴェルトハイマーは、人間の視覚認識に関するプレグナンツの法則をまとめ上げました。法則についてはとってもわかりやすいこの記事

note.com を読んで頂くのが良いですが、以下では法則のうち弐寺の譜面に関わりそうな部分について紹介しようと思います(これらの性質はお互いに少しずつ重なり合っています)。

 

・近接性

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 近接した要素は同じグループに所属しているように感じられます。この譜面では、横よりも縦にまとまって見えます。

 

・類似性

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 類似した性質を持つ要素は同じグループとして知覚されます。この譜面では横一列(同時押しと呼ばれます)ごとに、白いノーツと青いノーツがまとまって見えます。

 

・連続性

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 よい連続性を持つ要素は同じグループとして知覚されます。この譜面では横方向のつながりよりも、縦一列のつながり(縦連)がまとまって見えます。

 

・顕著性

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  特徴的な形を持つ要素は同じグループとして知覚されます。この譜面では中央にある繰り返し(トリル)がまとまって見えます。

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 この譜面では、下の連続してズラされた配置(階段)が、上のランダムな配置と比べてまとまって見えます。

 

 音ゲーの譜面はふつう音楽の構成にある程度沿って作られているので、必然的に縦連・トリル・階段といった要素で構成される傾向にあります。そのため、特に意識しないと”縦認識”で譜面を見がちになるというわけです*2

 (”縦認識”が起こりやすい他の理由についても後ほど考えていきます。)

 

脳の「輪郭統合」システム

 ここまでは、人間が見た物体を無意識にグループ化しているという事実について、心理学の分野における有名な法則をご紹介してきました。
 ではこの法則について、脳科学的にはどのようなことがわかっているのでしょうか?

 本題に入る前にまず抑えておきたい点ですが、人間の視覚はカメラのように光の情報をピクセル単位で1対1対応させているのではなく、目の前の光景のどの要素に属するのかを決定することで認識しています。

 例えばリンゴの乗った机を普通のカメラで撮影するとき、どこまでがリンゴで、どこまでが机で、どこからが背景か、ということをカメラが把握してから撮影している訳ではありません。人工知能の発達により、最近はスマホですら背景を認識してぼかしたりしてくれますが、そのような処理はレンズそのもので行っているのではありません*3

 一方、人間においては、最初に光を認識する網膜の時点ですでに情報の処理が行われていることがわかっています。具体的には、光に対する反応の仕方が異なる細胞が特定のパターンで並んでいることによって、初めからコントラストの情報が強調されて脳へと送られているのです。

 このような処理で得られた無数の境界線の情報は、座標の情報を保ったまま、網膜から視神経を通って、脳の一次視覚野と呼ばれる領域にまず送られます。ここには、ある決まった角度の線分に選択的に反応する方位選択性を持つ神経細胞が存在しているので、無数の境界線には角度の情報が与えられることになります。

 方位選択性を持った神経細胞は、似た方位の選択性を持った別の神経細胞たちと水平に接続されています。これにより、同じような角度の情報が集まるとより強調されて、さらなる視覚処理の過程へと送られていくことになります。

 

Fig. 11.

Global Contour Saliency and Local Colinear Interactions
Wu Li and Charles D. Gilbert

Journal of Neurophysiology 2002 88:5, 2846-2856

  この「輪郭統合」システムによって、先ほど紹介したプレグナンツの法則に従うような形は、眼の前に広がる複雑な光景から浮き上がって見えてくるという訳です。

 

 ここで紹介した内容は視覚処理のほんの一部に過ぎません。実際には、色・動き・奥行き・視覚以外の知覚・過去の経験・……といった様々な文脈的手掛かりによって、視覚情報は修飾されていきます。眼から入って来た情報は、このような処理がされた上で、意識へと登ってくるということです。

 

”横認識”は行動の選択肢を減らし反応速度を上げる

 ここまでは、人間の脳が弐寺の譜面を”縦認識”してしまう傾向について、その理由を考えてきました。
 では、なぜ熟練したプレイヤーは、いわばゲシュタルト崩壊である”横認識”をわざわざ行っているのでしょうか?

 この疑問に対するひとつの回答となりそうなのが、「選択肢が増えると反応速度は遅くなる」という事実です。

 1950年代、HickとHymanは人間の平均反応時間RTが \ RT=a+b \log(1/p) \ でよく表せることを発見しました(Hick-Hymanの法則)。 \ a \ は選択肢が1つの場合の反応時間を、 \ b \ は実験ごとに変わるパラメータを表します。
 そして \ p \ は、反応を引き起こす刺激の出現確率を表します。すなわちこの法則は、「出現する確率の低い刺激に対する反応は遅い」ことを示しています。もちろん、選択肢が全て等確率で出現するような系であれば、反応時間は選択肢が増えるほど長くなると言って良いことになります。

 音ゲーの話に戻りましょう。ふつう弐寺においては、ノーツが画面の上端に現れてから、下端の判定ラインへと移動するまでの時間は固定されています*4
 一方、曲の速さ=BPMは曲によって変わり、連続的な値を取ります。ということは、”縦認識”における譜面の見え方≒選択肢はほぼ無限に存在することになります。

 ”横認識”の場合は、BPMに関わらず横一列の同時押しを見て反応することになるため、その選択肢は \ 2^8-1=255 \ 通りで済みます*5
 255という数が多いか少ないかは別として、有限の数なのはありがたいことです。いったん選択肢を覚えてしまえば、反応時間を大幅に短縮できるので、オプションでノーツの表示時間を短くしてさらに画面の情報量を減らすことができます。こうすることで、音ゲーに慣れていない人の数十倍の処理速度でゲームをプレイすることができるようになるという訳です。

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この譜面では、縦方向のノーツの配置には無限に選択肢があるが、
横方向のノーツの配置はたった7通りしかない

 今回は単に見えたノーツを押すまでの反応時間を考えましたが、弐寺はリズムに合わせるゲームであるため、判定ラインと正確に重なるタイミングで押すほど良いスコアを獲得できます。
 そのような観点で言っても、横方向の同時押しをベースに譜面を認識することは、認識→動作までの時間を固定化することに繋がってメリットがあります。

 

 さて、ここまでは”横認識”の良さについて考えて来ましたが、デメリットが無い訳ではありません。
 先述のように、脳がやってくれたせっかくのパターン認識をもう一度組み直す訳ですから、当然そこには余計な脳内処理が必要になりそうです。

 この処理は、”横認識”が可能であるプレイヤー間でも腕前に大きな差があることから、上達に従って速度や精度が向上していくことが予想されます。
 熟練したプレイヤーの脳内では何が起こっているのでしょうか?

 

熟練により新たなパターン認識が無意識下で可能になる

 先ほど、視覚情報の処理はかなりの部分が無意識下で行われていることを述べました。このような無意識下の処理は並列実行が可能であり、意識下のそれと比べて大幅に速く行えることがわかっています。

 では、人間は無意識下でどのような処理を行うことができるのでしょうか?

 

 無意識下での脳内処理といえば、サブリミナル効果は有名だと思います。映画のフィルムに意識できないほど短い時間だけコーラの映像を表示すると、映画が終わったあとのコーラの売上が倍増した……というやつですね。
 1950年代に行われたというこの「実験」は、実際には完全に作り話なのですが、近年の研究によって、実際に無意識下の視覚情報が人間の行動に影響を与える例が見つかって来ています。

 例えば、外傷や脳卒中などによって、不幸なことに一部の脳領域を損傷した人々について、「モノの形を認識して区別することができないのに、形に合わせて正確に握ることができる」「意識的には視野の半分が認識できないのに、無意識に(認識できない視野の情報を用いて)区別することができる」といった、意識と無意識の分離を示唆するような症状が出現することがあります。

 健康な人間についても実験でこのような状況が再現されています。閾下プライミングと呼ばれる特殊な技法を用いることで、オブジェクトを数十ms表示しつつ、それを被験者には「見えない」ようにすることができます。
 この研究により、被験者が何も見ていないと感じたとしても、実際には無意識で様々な処理を行っていることが示されて来ています。簡単な計算や言語理解のみならず、チェスの上級プレイヤーであれば簡単な盤面を分析して、王手(チェック)の有無まで判別していることがわかっています(繰り返しますが、被験者は何も見えていないと感じています!)。
 このような実験結果を見ると、きちんと調べられたことはありませんが、「生得的な処理回路とは異なるタイプの認識であっても、弐寺プレイヤーは上達に従って無意識下で譜面を(ある程度)処理できるようになる」ということは、かなり肯定的な証拠が揃っていると言えそうです。「見えないのに何故か押せる」ことがあるというのは、あながち嘘では無かったんですね。

 

 上達に従って認識・処理能力が上がるということは、脳内で何かしらの変化が起こっているということです。このような知覚能力の向上には、脳神経回路の可塑性が重要な役割を果たしています*6
 こうした訓練による知覚能力の向上と持続=知覚学習は、五感すべてで起こりうることがわかっています。

 数多くの実験によって、この知覚学習は知覚課題に対する特異性が高いこと(例:弐寺の練習をしても太鼓の達人は上達しない)、学習結果のフィードバックが必須でないこと(例:弐寺の上達には判定やリザルトが必要でない)といったことが調べられ、ここから視覚処理経路における比較的低次の領域(一次視覚野など、網膜から入って来た情報が直接伝わる部分)が知覚学習における大部分の役割を果たしていると考えられてきました。
 しかし、近年の研究によって、これらの報告に部分的に反するような結果も示されてきており、結局のところは複数の処理段階が相互作用して生まれるプロセスであろうと言われています。まあ、例に出したような内容が100%真実では無いことは、音ゲーマーの方にはわかってもらえるのでは無いかと思います*7

 (ちなみに、訓練による運動能力の向上は運動学習と呼ばれ、こちらも様々なことが調べられており、当然弐寺の上達にも関わってくると思われますが、今回は割愛します。)

 

 まとめると、弐寺プレイヤーは知覚学習を通して、”横認識”のような「技術」を後天的に獲得し、ある程度を無意識下で実行できるようになり、結果的に処理速度の向上を達成しているのではないか、ということになります。

 

人間は2種類の眼球運動で動く物体を追いかける

 もう一度、眼の話に戻りましょう。

 意識下であれ無意識下であれ、眼に映らないノーツを認識することは(記憶しない限り)できません。
 とはいえ、視野は眼の前すべてに広がっており、いくら弐寺の画面が40インチ近くあるといっても、視野から完全に外れてしまうことはありえません。

 しかし、先ほども出てきた網膜の細胞は、視野の周辺になるにつれて解像度が落ちていきます。視野の中心が最も視力が高いことは、特別なデータを持ち出さずとも皆さん実感として知っていることだと思います。

 ということで、弐寺をプレイする上で難しい譜面を認識するためには、情報を与えられた脳はもちろん、情報を入手する眼もきちんとノーツを追いかける必要がありそうです。

 

 ここで、一方向に流れ続ける景色を眺めているような状況を考えてみましょう。

 こんなとき、眼でずっと追いかけているといずれ視野から外れてしまうので、ある程度のところで流れの方向とは逆向きに戻す必要があります。このようなリセットのための速い眼球運動は急速相と呼ばれ、その角速度は毎秒900度に達します。
 流れていく風景を追っている比較的遅い(毎秒100度ほど)眼球運動は緩徐相と呼ばれ、先ほどの急速相と交互に繰り返して行われることになります。このような眼球運動のパターンを視運動性眼振と呼びます。 人間や一部のサルでは、この緩徐相で視野の中心を使ってしっかりと対象を追いかけるべく、滑動性眼球運動(SPEM)という運動が発達しています*8

 

 弐寺のプレイにあたっては、この緩徐相と急速相の繰り返しによって、上から下へと流れ続ける大量のノーツを解像度の高い中心視野で追いかけ続けることができている、と考えられます。

 いやいや、弐寺の基本は目線の固定でしょ?そんな繰り返しの眼球運動なんかしてる訳ないじゃん……とお思いの方もいるでしょう。私もこの運動を知るまでは、ノーツを目で追わないことが認識にとって重要である、と強く信じていました。

 というのもこの眼球運動は、行うかどうかは自分の意思で(随意的に)決定できるものの、その速度制御は無意識下になされており、意識に登ってくるのは眼球運動と物体の移動量の誤差のみです。そのため、すんなりと眼球運動が実行されている状態では、私たちは眼を動かしていると強く意識することはありません。

 すなわち、緩徐相で「止まった」ノーツをしっかり認識し、急速相で眼球の位置を(上を見る方向に)戻し、緩徐相で認識し……といった繰り返しで、プレイヤーは譜面を眺めているということになります。

 プレイヤーの皆さんには、このような眼球運動の存在を簡単に確認する方法があります。ご家庭のモニターに動いている譜面あるいは譜面動画を表示させ、いつも見ている辺りに、糸を張ったりなんなりして水平な目印を置いて、それをじっと見つめてみてください。びっくりするほど後ろの譜面を認識することができないはずです。
 反対に後ろの譜面を認識しようとすると、目印がチラついてかなり違和感があると思います。

 

 さて、このような仕組みで譜面を見ていることを前提にすると、簡単な譜面=短時間見れば脳内処理に充分であるような譜面においては、必要な眼球の上下運動量が少なくなり、逆もまた正しそうな気がしてきます。
 すなわち、眼球の上下運動量と体感する難易度には負の相関が見られる可能性があります。

 ということで私自身が実験台となって、画面表示の条件を変えることがプレイ成績にどのような影響を与えるのか、について実験してみようと思います。

 

 

(以下執筆中)

 

【実験】レーンのどの部分をどれくらい見てプレイしているのか?

考察・今後の展開

*1:シングルプレイにおいては、オブジェクトの配置を完全に記憶してプレイすることは通常されません(一部の例外を除く)。これは、記憶することに多大な労力が必要なのに対して、得られる恩恵がそれほど多くないことに起因しています。

*2:紹介したものに加えて、「見慣れた形はまとまって見える」といった法則も加えられることがあります。これらの事実は一種のイップス音ゲー用語における”癖”)とも関わりが深いのですが、今回は深く触れません

*3:と認識していますが、正直専門外すぎてわかりません。複数のレンズを使用したり異なる露出で連続撮影したりはしてますよね……。

*4:熟練プレイヤーであれば大体0.4~0.6秒ほど

*5:弐寺ではノーツごとに音源がアサインされているため、同時に押すノーツが多いということは、同時に鳴っている音源の数も増えるということになります。そのため、実際は同時に押すノーツの数が増えるほど出現確率は顕著に減っていきます。

*6:知覚能力には例えば絶対音感のように、ある特定の時期(臨界期)にしか得られず、大人になったら可塑性が失われてしまうような物もありますが、多くの神経細胞の性質は生涯にわたって変化し、訓練をやめてもその変化が持続する可能性があることが知られています

*7:音ゲーを一切やったことの無い方へ向けて補足すると、ある機種の音ゲーを極めているプレイヤーが別の機種をプレイしたとき、ごく短期間で元の機種に比肩するほど上達する人も、平均的なプレイヤー並の腕前に留まる人もいます。

*8:ちなみに、緩徐相と急速相は支配する神経経路が全然違います。