【IIDX】一流の<心的イメージ>を手に入れよう② ~SEIRYU選手インタビュー~

 

はじめに

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 

今回は、<心的イメージ>についてのインタビュー第2弾ということで、IIDXトッププレイヤー・BPLプロとして活躍される一方、青龍塾などのレッスン活動でも有名な、SEIRYUさんにお話を伺いました。

https://p.eagate.573.jp/game/bpl/season2/2dx/team/silkhat/01/index.html

 

心的イメージについては以前のこちらの記事をご覧ください。

 

また今回は、トッププレイヤー同士でしか語れない視点を提供いただくために、第1弾から引き続きNORIさんにも参加いただいております。

 NORIさんへのインタビューをまとめた記事は、こちらをご覧ください。

 

以下、S:で始まる文章はSEIRYUさん、N:で始まる文章はNORIさん、――で始まる文章は筆者のコメントとなっています。

 

インタビュー本編

――前回のインタビューでNORIさんが仰っていたことを、自分なりに解釈してやってみたら、明らかにスランプが減って、これまで10あった(パフォーマンスの)ブレが3ぐらいになって、ゲーセンに行くのが楽しくなりました。

――そのインタビューで、NORIさんがSEIRYUさんからお話を聞いて、すごく上達したと仰っていて。僕もSEIRYUさんのことは昔から憧れていたので、今回お話しさせていただきました。

――今回お伺いしたいことは、「SEIRYUさんはアドバイスするときに、どこに注目するのか」です。

 

なりたい目標とやるべき練習

S:今まで塾とかイベントとかで、級位からランカーを目指す人まで幅広くアドバイスさせていただいて、前提として教え方の根幹はあまり実力によらないところがあるので、そこから話していけたらなと思ってます。

 

一番大事なのは最終的な目標

S:僕の塾のスタイルとして、最初に情報を5つもらうようにしていて。①現時点の実力、②目標、③悩み、④プレイ動画、⑤その他の情報。⑤はクリア状況で、CPIとかBPIとか地力表とか。

S:それで、一番大事なのが②目標なんです。僕はここをすごく大事にしていて、(塾に)入ってもらう方には、めちゃめちゃ詳しく聞くようにしてるんですよ。本人の中で「上手くなりたい」って言っても、どういうプレイヤーになりたいのか、どういう所を目指してるかって全然違うと思っていて。現時点の実力に関係なく、最終的にどこを目指してるかが一致していないと、僕とすごくギャップが生まれちゃう。

S:具体的に言うと、例えば八段くらいの人がいて、最終的に☆12でAAAをいっぱい出せるようになりたいのか、☆11とかをもっと楽しく遊べるようになりたいのかで、全然違います。皆伝になれればいいなら、一回なれればいいのか、それとも毎作取れるくらいがいいのか。それによって、やるべきことが全然変わってくるので、そこを最初に掘り下げるようにしてるんです。

――なるほど、なるほど。

S:最終的な目標を合わせていないと、僕が勝手に「こうやったら絶対ランカークラスになれる」とか、「ランカーがみんなこうやってる」って言っても、そもそもそこを目指していなかったら、温度感が全然違うので、モチベーションもかなり下がっちゃうと思うんです。

 

目標に合わせた悩みの交通整理

S:その後に、悩みが目標に本当に関係することなのか、今やるべきことなのかを確認する。例えば、「67トリル*1ができません」っていうときに、今それが必要なのか。(目標が)「皆伝になりたいです」だったとすると、BPM200の67トリルが完璧に取れるようになる必要は、多分ないと思うんですよね。

鍵盤と番号の対応

S:本人にとってやるべきことと、いま悩んでることが合っていなかったら、「まずはこっちから先にやった方がいい」っていう軌道修正ができて、その後の質問内容も変えられるんです。

――そういう事って、(比較的)上手い人に聞かないとわからない情報の、大きな一つですよね。

S:そうですね、どの技術が難易度が高くて、どの技術が簡単かみたいな。 それで、段階的にできるようになるためには、「まずこれからでしょ」みたいな、順番の整理が必要なんですよね。それに気づいてもらうことを、結構やってますね。

 

実力別 壁になるポイント

S:ここからは個別の実力の話です。

 

実力別 フィジカル面とビジュアル面の壁になる要素

S:級位~青段位の人にとって、まず難しいのが異色の同時押しなんですよね。隣接(した鍵盤)もそうですし、14とか47とか25とかっていうのが、 ボタンの配置を完璧に把握できてない状態だと、鍵盤自体が一直線に並んでいないので(難しい)。白黒分かれてると、全部下、全部上で認識がしやすいんですけど。

 

S:次が八段くらいの人で、☆10くらいから軸+乱打みたいな譜面が増えてくる。☆9までは、階段は階段ばっかり、軸は軸がいっぱい降ってきてと、どっちかというと分かれてるんですけど。☆10くらいになると、バスをしながら乱打みたいなのが増えてきて、同時押しも3つ以上みたいなのがいっぱい出てくる。その辺りから、右手と左手で別の動きをしなきゃいけない場面が増えてくる。それが難しく感じると思うんですよね。

S:この辺(の難易度)はHYPERの方が簡単なんですよ。密度が全体的に薄くて、階段ばっかりバスばっかりみたいに、あまり混ざりがなくて比較的取りやすい。けれどもANOTHERになると、同じ☆10でも横の密度が上がって、軸+乱打みたいなのが増えてくるんです。そういう新しい認識の仕方や、右手左手で別々の動きをしなきゃいけないので、すごく難しくなるんです。

――同じ☆10でも、ANOTHERの方が難しい。

S:☆11とかはちょっと特殊なんですけどね、☆11は結構HYPERが難しいんですよ。☆10まではHYPERの方が圧倒的に手が出しやすいと思うんですよね。ここが、壁に感じるんだろうなっていうのがあります。

 

S:九段十段くらい、☆11とかになってくると、だんだん正規らしい譜面配置がなくなってくるんですよね。(☆10以下の)正規らしい配置は、同色のトリルとか、同色の階段とか、同色の同時押しとかが多いんですけど、☆11くらいになると隣接もいっぱい出てくるし、階段らしい階段もあんまり来なくて、めちゃめちゃ乱打譜面が降ってきたり。

S:階段がどこかっていう認識は、すごく難しいんです。正規があんまり好きじゃない人って、階段がちょっと入ってるだけで階段が見えるんですけど、多分☆11を初めてやるくらいの人は、階段が入ってるかどうかもよく見えないんですよ。同時押しや乱打が混ざってるのが多くなるので。 そういう横に広く認識しなきゃいけない譜面が、すごく壁になってくるんですよね。今は☆11に難しい曲がいっぱいあるから、余計に。

 

中伝~皆伝合格まで 苦手と向き合う苦しい時期

S:中伝くらいになると、段々と得意・不得意がはっきり出てくるようになって、 苦手譜面にどうしても向き合わなきゃいけなくなると思うんですよね。物量はできるけど、皿(スクラッチ)曲ができないとか、ソフランができないとか、縦連ができないとか。「縦連ができなきゃいけない」とか「皿ができなきゃいけない」みたいになると、色んな記事とかを見始めたりして、 からしたらいいのか迷走するみたいなのが、ここら辺から出てくるかなと。特に皿複合がみんな課題になるかなと思ってます。

S:それまでは、考えずに量をやって直感的に対処してたと思うんですけど、皿とかソフランって、ちょっと違うことをやらなきゃいけなくなるんですよね。逆も然りで、皿が得意な人は皿をすごくやってるので、片手処理とかもあまり考えずに気づいたらできてるんですけど、逆に鍵盤主体の認識のコツを掴まないまま、自然と伸び続けてしまっている。物量はどう対処するのかとか、皿複合はどうやって取るのかっていう、ちょっとした座学だったり、別の視点を持ち込まなきゃいけなくなるんですよね。

――つまり、自然にやってたことだけじゃダメだと気付いたから、新たな悩みが生まれるんですね。

S:そうですね。そこから、皆伝を取るまで何をしたらいいかがわからなくなってきて、解決策がずっと見えないままっていうのが、この辺から出てくるのかなと。

――モチベーションが結構下がったりとかも、出てくるのかなっていうイメージはありますね。

S:(中伝の時点で)もう相当、上達したところではあるんですけど。でも、皆伝っていうのが、まあやっぱり大きいひと区切りであり、みんな目指すところではあるからこそで。

S:特にいまTwitterとかで、周りの人が早く上手くなったりすると、どんどん影響されてメンタルがやられやすい環境下ではあるなと思うんですよね。ある意味、周りに影響されないで、一人でやってた方が伸びる時期なのかもしれない。なので、ここら辺からがすごく難しいところにはなって来ると思うんです。

 

皆伝のその先へ 目標の再確認と、アプローチの細分化

――(皆伝取得以降の)そこから先はどうなんでしょうか。

S:また目標に立ち返るところはあって、何を目指すかによってだいぶ変わってくるんですよ。全白・全EXHを目指すのか、全AAAを目指すのか、ランカーになるのか。

S:全白を目指すのであれば、順当に新規クリアをどんどん増やしていこうとするとは思うんですけど、残ってる曲が10曲20曲とかになってくると、なんだか困りますよね。そうなると、単曲に対してアプローチするみたいなのが、より必要になってくるんですよね。

S:それまでは、同じように量をやって、コツを掴んで、似たような譜面をできるようになって、を繰り返してたと思うんですけど。それだけじゃ一筋縄じゃいかない部分があって、最難関の譜面をHARDするために、自分は何が足りてなくて、どうやったらクリアできるのか。そのクリアできる想像じゃないですけど、ここまでは何%ゲージ残して、ここからはこうやって逃げ切るとか、ここはこうやって抜けるみたいな。段々と座学が必要になってくるポイントで。

S:単曲に対する粘着というよりは、単曲の攻略をして行って、攻略できた結果、それの応用が他につながるっていうところがある。単曲粘着は良くないかもしれないですけど、攻略すること自体は悪いことじゃないと思うんです。

 

譜面攻略のポイント

単曲攻略と単曲粘着の違い

――粘着が良くないという話について、僕も同じ意見なんですが、青龍さんのお考えを教えていただいてもいいですか。

S:人によるかなとは思うんですけど、少なくとも僕はモチベーションが続かなくなるのが大きいですね。なんか、曲に縛られてしまうってのがあって。その曲ができないと次に行けなくなって、他のこともできなくなっちゃう。

S:実力上げの面でも、一回一回経験値が得られる粘着だったらいいと思うんですけど、それはどちらかというと、単曲攻略って言葉に合ってるかなと。一回遊ぶにつれて、その曲に対する解像度を上げていって、攻略に繋げていく経験値が得られればいいんですけど。「粘着」って、よく言われてる言い方としては、あんまり考えずにたくさんやり続けるって感じだと思うんですよね。

S:固定オプションだと比較的、解像度を上げるきっかけを掴めるかもしれないですけど、 RANDOMとか使ってしまうと、当たり譜面の時に上手く行っちゃうと、それが経験値にならないまま、たまたま上手く行ったになっちゃう。壁を越えた、できるようになった、みたいなところが無しにクリアできちゃう感じになるんです。 なので、RANDOMで粘着すると、ランプ自体は増えてるんですけど、できるようになることが増えてないので、あんまり成長してないっていう状態になるんですよ。それで慣れちゃうと、地力が上がらないままランプだけが増えて行く

N:サイコロ3個振って全部1が出るまでやってるだけで、それは(単に)サイコロを振ってるのと一緒だよみたいな。サイコロ投げの地力みたいなものはないですけど。

S:もしかしたら、自分の出したい数字を出すために、投げ方を変えるみたいなのはあるかもしれない。そういう、ゾロ目を出すための練習をするときに、投げ方をこうやったら上手く行くとか、1個ずつこういう風に投げるといいとか、同時に投げ続けてたら難しいからダメとか、そういう経験値が得られればいいんですけど。

N:もちろん、目標としてどうしても全白になりたくて、どうやら100回粘着すればできるかもしれないみたいな時には、「モチベーションが出るなら良い」みたいなアドバイスもできなくはないんですが。

S:でもアドバイスとしては、粘着をするっていうより、 本当に単曲のコツを教えるようにしていて。特に、皆伝とかはわかりやすいですけど、皆伝ってけっこう曲のコツが掴めれば抜けられると思うんですよね。ある程度地力があれば。そこは僕が(プレイ)動画とかを見て、地力が足りてなかったら「もっと付けてから挑戦した方がいい」って話をしますし。地力が足りてるなら後は単曲の攻略だけなんで、 冥の抜け方とか、卑弥呼の抜け方みたいな、「ここを抜けるためにはこういうポイントがある」みたいなアドバイスになると思うんですよね。

 

成功例を想像して、必要なものを逆算する

■コメント:「問題の整理に活用してるフレームワーク的なものはありますか」

――冥で言うと、冥は難しいよねみたいな所から、どれぐらいまで切っていくか、みたいな話ですが、たぶん1小節1ノーツ単位で全部覚えろとか、そういうことではないと思うんです。いいやり方はありますか。

S:他の方に言ってるのは、成功例を想像できないとダメだよねって。成功できる想像ができないのに、どうこうしても意味がなくて。

S:僕とかNORIさんとか、「なんかできそう」みたいなのがすごくわかると思うんですよ。「これはなんかいけそうだ」、逆に「これは無理だ」みたいなのが、多分なんとなくわかっていて。

N:すごく遠いけど、絶対に無理ではない。「絶妙な距離でいるな」みたいな感覚ってことですよね。

S:冥だったら、抜け方みたいなものがわかって、「ここでゲージ100%あったら逃げ切れるのに」とか。逆に「100%あっても抜けられないの、なんで?」みたいな。(その場合は)「ここで減りすぎてるよな」みたいなところで、じゃあどうやってそれに対して勝つかっていう、自分なりのロジックみたいな、できてる時を想像する。「これだけ指が動けばできるのに」とか、「この配置が急に見えないから、じゃあ正規で配置がわかった上で早入りして、あんみつで取ればいいじゃん」とかってなると思うんで。

S:できる算段みたいなのをちゃんとつけて、それがあると何が足りてないのか見えてくると思う。そういうギャップを取っていく方がいいのかなとは。

――全体として達成できるのかを考えると、自然と細部が見えて来るという形がいいってことですね。

――皆伝の冥なら、加速する段階で「ゲージ100%あれば、ガシャガシャやってもいけるんじゃない」みたいな人から、「BPM170ぐらいから急に減る」みたいな人もいたりして。それって同じそうでも全然違いますね。

S:そうなんですよね。これがじゃあ、BPM110・120の段階で全然押せてないとなると、「ここは簡単なんだよ」ってことを理解する。仮に等速だったら、多分押せるはずなんですよね。前半を100%で抜けられる地力があるんですから。

S:僕のアドバイスでは、その低速に対してどうやって認識できるようにするとか、そういうアプローチの話はするんですけど、そういう感じでできる想像があるだけで、全然違うのかなと思うんですよ。

 

”憑依”と心的イメージ

あえて抽象的なアドバイスをする

――(アドバイスのときは)手取り足取り全部言っていくのか、その人自身に工夫する方法を考えてもらうのか。

S:段位抜けに関して言えば、地力とか認識力とは別の軸で、抜け方のイメージがつかない状態になってたりして止まってるものだと思うので。自分で掴んでもらうのは最終的にはやらなきゃいけないんですけど、どちらかというとけっこう丁寧に伝えるようにしてますね。

――逆に、そういう感じではない(その人自身に考えてもらう)時もあるんでしょうか。

S:認識力の時とかはそういう場面が多いかなとは思いますね。 NORIさんへアドバイスした時とかがそっち寄りだったかな。

N:確かに「ちゃんと譜面見なさい」って言われたんですけど。

S:それしか言ってない(笑)。

N:もちろん直接的に、SUDDEN+とか姿勢とか変えてもらったりもしたんですけど。認識力の時は「ちゃんと譜面見なさい」って言われて。それって多分、丁寧にSEIRYUさんに「譜面を見るっていうのはね」って言われるよりも、譜面を見るってなんなんだろうっていうのを、 自分の中で試行錯誤なのか、見つけないことには、掴まないとどうしようもない

N:「漫然とノーツを見ていて、ブロック認識みたいな感じに寄りすぎてる。それは、それでも押せちゃうからだろうな」っていうのはあれども、それを「頑張って横認識に切っていってください」っていうのは、(アドバイスされた相手が実際に)できるようにならなきゃ仕方ないことだから、なんですかね。手取り足取り教えるというよりかは、 「これが今できてない、だからできるようになるために、自分の中で考えてやってみろ」って言うのが良かったのかなって思ってます。

S:そうですね、割とそういう感じで。やっぱり完璧に言語化して伝えるみたいなのは不可能だと思ってるんですよね。

S:一般的に横認識とか縦認識とか言われてますけど、正直 僕もよくわかっていなくて。恐らくこういうことだろうなって理解はできるんですけど、いわゆる横認識を本当に意識できてるかどうかはよくわからないですし、それを伝えることも僕はできないですし。やっぱり言語化はできない。 

S:じゃあ、それに対してどうやって教えるかというと、僕はまずいったん、その人に”憑依”するみたいなことをするんですよ。

 

アドバイスする相手に”憑依”して、相手の心的イメージを手に入れる

憑依:霊などがのりうつること。 ―デジタル大辞泉より

S:(例えば)NORIさんに憑依するんですよ、NORIさんと同じくらいの身長になって、同じように足を上げて、NORIさんのカスタマイズのまま、同じように認識をしてみるってことをするんです。それで、「多分ここを見て、こうやって認識してるから、この譜面をこうやって拾ってるんだろう」みたいなのを、自分なりに直感的に、まず知覚するんですよ。そうすると、それ(今の見方)をやってるとこの状況のままだから、別の見方をしたらどうかっていうアドバイス(ができる)。新しい視点で別の見方、こういう認識の仕方をしたらどうかっていうのを伝えるんです。

S:僕がやってる心的イメージを掴むきっかけを持ってもらうところで、NORIさんに「譜面をちゃんと見てください」って言ってたとき、(NORIさんが)譜面を抽象的にふわっと認識していて、ノーツにあんまりピントを合わせずに見てるんだろうなっていうのを、僕は憑依して感じてました。実際、僕も普段そっち寄りのプレイをしてる。

S:じゃあ、NORIさんのやるべきことは何かっていうと、ノーツにピント合わせることだったり、ノーツとノーツの間隔を理解することだったり、 ノーツをどこのタイミングで押したら光るかを理解することだったり。そのためには、目線をちゃんと固定する必要があるんですよね。

S:これをじゃあ、そのまんまNORIさんに伝えたところで、逆にわからなくなると思うんですよ。何をしたらいいか、ノーツにピントを合わせるだけじゃうまくいかないし、じゃあ目線固定してくださいとかって言われても、 よくわからないしで。

N:「(既に目線固定は)してるんだよ」みたいな。

S:そうなんです、自分なりにはしてるつもりですから。だから、あえて抽象的に言うように、はっきり言わないようにしていて。そこは自分で、直感的に掴んでもらう必要があるから。

 

具体的すぎるアドバイスは、相手に正しく伝わらないかもしれない

S:NORIさんは勘が良かったので、「ちゃんと見てください」だけで、僕の心的イメージを全部キャッチできてたんですけど。それでダメなら、ちょっとずつ具体性を持たせたりはするんですけど、やっぱりハッキリ伝えすぎることは避けるようにしているかなと思ってます。あんまり具体的なことを言うと、それに意識が引っ張られて、それ(だけ)を意識しようとしちゃうんですよね。

S:「ノーツにピントを合わせてください」って言ったら、それを意識しても目的に沿わなくなっちゃう。ピントを合わせることだけが目的じゃないですし。今までふわっと見てたのを、ちょっとだけスコープを絞って、塊の幅を狭めて、そうすることで見えてるノーツの解像度をちょっと上げるみたいなことをする。その解像度を上げるために、目線固定が必要だっていうのが、(理由の)後付けであったりするので。

S:それを伝えるために、あんまり言葉で言いすぎると、 その意識だけに捉われすぎちゃう。なので、抽象的に言うことで、 (アドバイスされた相手が)自分で咀嚼して、肌感で伝わるようにして、なんとなく理解していくってのが、大事だろうなと思うんです。

――僕自身は言葉で考えるタイプなので、今の青龍さんのお話はすごく為になったと思ったんですけど、場合によっては今みたいな話を聞いた時に、最後の「目線固定」ってところだけ一人歩きすることがあるのかなと。

S:そうなんですよ。

――(アドバイスの全体を)文字とかにしちゃうと全部一緒になりますけど、青龍さんの伝えたさみたいな物は結構違うんじゃないかなって思うんですよね。少なくとも言えるのは、受け取る側と教える側によって、言葉にするのがいい場面と悪い場面がありそうですよね。

S:そうなんですよ。なので人によっては、一生懸命たくさんやれみたいな、 ある意味すごく抽象的に(アドバイスする事も)、あれはあれでいいことだと思うんですよね。

――間違いなく、それが必要だって人はいますね。

S:それで、何をやったらいいかみたいな、アドバイスに更にちょっとだけ具体性があると、良い見方ができると思う。それがわかっていれば、「たくさんやれ」だけでいいんですけどね。その辺、伝わる塩梅に抑えておかないと、具体的なことで余計に迷走することはすごくよくある

 

青龍塾のすごさ:アドバイスの経験値

――今のお話を聞いて、SEIRYUさんは本当に教えるのがうまいんだなと。憑依するみたいな話って、心的イメージの逆をやってるみたいな感じで、普通の人が上手い人の気持ちになるっていう(普通の意味での心的イメージ)の逆ですよね、要するに。

S:そうですね。

――なかなか、それをやってる人ばかりではないと思うので。みんな青龍塾を受けた方がいいなって思いました。

N:本当に思うのが、「NORIもプロ選手なんだから、やろうと思えばできるんじゃない」みたいに思われる方も、もしかしたらいるとは思うんですけど、私は人に憑依するっていう行動をどうやればいいのか、全くわからないです。 自分の地力じゃ足りないからなのかもしれないですけど、U*TAKAさんが同じことをできるのかって言われると、ちょっとわかんないです。

N:多分、SEIRYUさんがすごく考えながらビートマニアをしていて、本当にいろんな人にアドバイスしてきた経験があるから、そういった、"憑依の地力"がすごく高い。

――なかなか相手の気持ちになってっていうのが、そこまで(アドバイスする相手に)寄れないというか。

S:そうですね、やっぱり寄ろうとはしてるかなとは思いますね。

S:最初の方に話した、実力によって壁があるっていうのが、(アドバイスのために)用意する1個の要素ではあって。用意して、自分が同じ運指・目線でプレイ動画を見た時に、多分この辺を見てるんだろうなって。それで、自分も同じ見方をして押そうとすると、同じようなミスをきっとする。だったら、この速さはさすがに速すぎるから、カスタマイズの調整をするとかになる。

S:そういう、その人の目線に合わせて入り込んで、 カスタマイズとか認識の仕方っていう視点、新しい視点をちょっとだけアドバイスで入れてあげると、それで気づきが得られるといいなとは思うんです。

――どうでしょう、今のお話を聞いて、NORI塾を開けそうだなと思いますか。

N:私も、たまに(上達のための質問を)いただくことはあって。もちろん、今どれぐらいなんですか、何やりたいんですか、何に困ってるんですか、の3つは聞くんですけど、それを聞いたところで、「そうだよね」って寄り添うまでしかできない。ジェネラルなアドバイスはできるんですけど、青龍さんのように、オーダーメイドをされたものは、絶対できないですね。

――今のお話を聞いてると、完全に同じ目とか同じ手になろうとしてますもんね。

N:いや、本当にすごいです。

 

自分自身に上手い人を”憑依”させる

――青龍さん自身がすごく上手だということに関連しますが、そういう"憑依"みたいなことを、自分自身にもやっていたりするんでしょうか。

S:自分の場合は、最近だと特に上手い人を憑依させるのはあって。

S:やっぱり各分野のプロフェッショナルがいるわけです。例えば皿だったら、DOLCE.さんとか、U*TAKAくんとか。ズレハネが上手い人ってなると、PEACEさんとか、MIKAMOさんとか。中速精度でいうと、DON*さんとか、CHARMさんとか。そういうそれぞれのプロフェッショナルに、各分野である程度近づけられるようにすれば、自分も近しい実力になるだろうと思うんです。カスタマイズによってメリット・デメリットがあるので、完全な再現はちょっと難しいですけど。でも 押し方そのもの自体は、全く同じことができれば同じスコアが出せるはずなんですよね。

S:なので、押し方としてどうやるかっていうのを  、その人の動画を見て憑依させて、真似るみたいな。コツを掴んで、その曲のその配置、ズレハネとか、高速系とかが来た時には、こういう押し方に切り替えるってことができると、最強のキメラになるみたいな感じなので。自分が苦手としてたり、課題に思ってるところについては、上手い人を憑依させるみたいなことは、最近はやってるなと思います。

 

バイスとの位置関係を見直してみる

――押し方を真似するっていうのは、どれぐらいのところを見てるんでしょうか。例えば、「第1関節がこれぐらい曲がってるな」とか、そういう細かいことじゃないのか。

S:皿だと、皿に対して指を何本置いてるかとか、 皿を回してる最中に鍵盤をどこまで押してるのか、全部片手で取ってるのか、左手で1鍵2鍵まで取れてるのかとか。あとは、皿の入射角(下図参照)みたいな、どの位置を回してるのか、とか。X軸Y軸もちろん大事で、下の方を回してるのか、上の方なのか。

皿に対する「入射角」が小さい状態
引用:http://hatoking.com/journal/4352.html

皿に対する「入射角」が大きい状態
引用:http://hatoking.com/journal/4352.html

S:鍵盤だと、関節がどうっていうよりは、鍵盤からどれだけ指を離してるかとか、鍵盤に指を落とすときにどういう動きをしてるか、鍵盤をタッチするまでの動きですね。鍵盤に対する高さとか、打鍵する指の振り方とかを見て、それを自分と比較した時に、鍵盤から指がすごく離れてるなとか、大振りになってるなとか、柔軟な動きができてないなとか、色々と要素のギャップを出して、似たような動きを頑張ってするように。

 

目標の人のやり方で、目標のスコアを狙う

S:プラスして、 その人のスコア水準を狙うみたいなことをするんですよ。今までのスコア水準が、例えば☆11でMAX-30や40ばっかりだったとします。すると、めちゃめちゃ上手い人って、 普通にパッとMAX-1桁を出すんですよね。そのつもりでやる感じです。

S:押し方をなんとなく憑依させられたら、意識を集中させて、スコアを出す方に行く。そうすると、押し方が元に戻ったりして、行ったり来たりして、自分なりのいい押し方に持っていく感じ。

――目標にしている人と、同じ押し方で、同じスコアを出すことを目指すんですね。

S:そうですね。課題に対して、押し方で成功体験を得て、あとは同じ水準を出せるようにする。そうやって近づけていって、正解を知る、正解を憑依させるって感じ。

――例えば、皆伝を取ったばかり、全白になったばかりみたいな(プロに匹敵するほどの腕前がない)人が、プロ選手と同じ押し方を目指すのは、いいのか、悪いのか。どう思いますか。

S:何回か真似をして、そのコツ・感覚を掴むってことができればいいと思うんですよね。僕の場合は同じ水準のスコアを出す目標ですけど、(普通のプレイヤーでは)そこがなくなるイメージ。自分の水準で、自分がクリアしたい曲、スコアを出したい曲で、そのコツを掴めるだけで、ひとつ壁が壊せるみたいなのがあるといい。なので、そのコツを掴むきっかけとして、上手い人のプレーをなんとなく真似することは、実力が離れていても意味があると思うんです。

――上手い人のことを真似した状態で、実際に上手くなるっていう体験をするっていうのが大事。確かに自分自身のことを思い返しても、できるようになったことは、できる。当たり前のことを言ってるだけなんですけど。

S:そうです。言葉だと素っ気なくなっちゃうことが多くて。ただ、そういうのが本質なんですよね。

――(実際には)やらないことも多いですからね。上手い人の配信見て、「やっぱりこの人上手いな」で終わりますからね。

S:そうですね、何でできるんだろうな、みたいなところがあると思うんです。自分とどれだけ、何が違うんだろうっていうのがあるので、 そういうところの解像度を、頑張ってあげていくってことだと思うんですよね。

 

上手い人を積極的に真似して、自分に合う方法を模索する

N:さっきのレベルの差の話は、例えば「U*TAKAさんが緑数字200だから、俺も200でやんなきゃいけないんだな」は破滅すると思うんですけど。

S:それは破滅しますね。 

N:私が顕著だなと思うのは、ガチ押し(については)意識どうこうよりも体の使い方に寄ってるものなので、どんなレベルからでも、青龍さんがよく仰ってるやり方を(真似して)スナップってなんだ、手首で押すってなんだ、みたいなのを考えてみるっていうのはある。

N:特定の分野においてはどんなレベルからでも、上手い人を真似する、試してみることは有益なんじゃないのかなっていう気はしますね。「SEIRYUさんだからできるんでしょ、俺はまだ関係ないや」はもったいないんじゃないかな。

N:逆に、全てをやったからって上手くなるわけでもない。そこの塩梅は、自分で納得しなきゃいけない。真似したら上手く行くかもしれないから試してみようは、どんなレベルの人でも持っていていいんじゃないかな。

――試してみて、上手くなったら続けるし、ならないならやめる。

――緑数字は本当にその通りで、(実際に)どんどん上手くなるごとに減っていく人が多い。少しずつ少しずつ、ちょっと調整してみて、ダメなら戻すみたいな。

N:青龍さんとか260ですもんね。

S:260ですね、結構遅めかなと思ってます。

N:プロの中では相当遅めですし、それこそ(ドラフト)1巡目の中では一番遅いぐらい。

 

カスタマイズは、メリットとデメリットの塊

――気になるのは、同じぐらい上手い人で微妙に違ってる時に、「緑数字ってあんまり関係ないのかな」とか。(カスタマイズが)Aの人Bの人がいて、どう(選択)するんでしょうか。

S:やっぱり何を目指すのかが、ここはすごく大事になってくると思っていて。カスタマイズって、メリット・デメリットの塊だと思うんですよ。

S:緑数字が早ければ良いっていうか、早い遅いの軸と、 レーンカバー・リフトの表示領域の広さ狭さっていう2軸があって。その軸で、仮にめちゃめちゃ極端に寄せるとこうなる、っていうのの中間地点みたいな。

S:例えば、 表示領域がすごく広めだと、緑数字が他の人と変わらなくても早く感じるけど、ノーツの間隔が広がるのでズレハネとかをすごく捉えやすいんです。なので、一個一個のノーツを光らせる目的では割といいかなと思うんです。逆に、密度の高い譜面が来ると、NORIさんとか僕とかがやってる、フワッと認識するのがほぼできなくなるんですよね。視界が広すぎて(表示領域全体が)目に入りようがなくて、デニムがどういう形、階段がどういう形みたいな認識が、非常に難しくなるっていうデメリットがある。

S:(表示領域を)狭くすると、一体として見るみたいなのができるようになって、難しい譜面の認識のコスパがすごく良くなるんです。逆に、ズレハネとかがどれだけズレてるかよくわからない。どのタイミングで押せばスコアが出るのかが、ちょっと難しくなると思うんですよね。

S:U*TAKAくんみたいな、(表示領域が)めっちゃ狭くて緑数字も小さい人は、その両方をある程度持つようにしていて、視野が狭い状態で目線固定もしやすくて*2、ズレハネの幅もわかるから、難しい譜面でもスコアが出しやすいカスタマイズではあると思うんですけど。ただその分、いわゆる人間の動体視力は音ゲーマーならだいたい同じくらいだろうっていう前提*3だと、あれ(U*TAKAさんのカスタマイズ)ってかなり厳しい状態だと思うんですよね。だから、集中力がすごく高くないと見逃しちゃう。譜面を目線固定して捉えるっていうのは、幅が広がろうが狭かろうが、(ノーツが降る速度が)早い状態ではしなきゃいけないので、そういう難しさはあります。だからこそ、急に難しい譜面が降ってきた時に追いつかなくなって崩れやすくなったりとか。あと、体調がすごく影響しやすくなると思うんですよ。

S:だいたいプロがみんな同じくらい(の緑数字)になってるのは、多分そのバランスなんですよ。難しい譜面も、簡単な譜面も、どっちもある程度は認識できるバランス。早い方がスコアは出るし、遅い方が安定感は取れるしっていう。そのメリット・デメリットを、どこを重視して、何を自分は得意とするか。だからカスタマイズの違いは、得意不得意が大きく出るのかなと思うんです。

 

カスタマイズの選択は、目標と現在の中間地点に

――だから、(アドバイスされる側が)どういう風になりたいと思ってるかに対して(選択するべき)っていうことになるんですね。

S:そうです。結局、僕がアドバイスするときは、何ができるようになりたいかによるんです。(アドバイスされる)本人がなりたいのが、PEACEさんみたいになのか、 RAGくんなのか、U*TAKAくんなのか、それによって全然違う。難しい譜面を全部フルコンできるようになりたい、RAG君みたいになりたい、っていうんであれば、多分あんまり緑数字早くない方がいいと思いますし、ある程度(表示)領域も狭まっていた方が難しい譜面の認識がしやすいので、そういうカスタマイズの方がいい。

S:(仮に、アドバイスされる側が)広い方がいいって言っても、でも「今あなたがやってる状態だと、物量はずっと苦手ですよ」みたいなところがあるので。少し見やすくするためにも、ちょっと狭めた方が、もうちょっと難しい譜面も認識しやすくなるから、こう変えた方がいいかもしれないって。

S:僕も、そのアドバイスが絶対合ってるかはわからないので、はっきりとは言わなくて、本人が好きなやり方を選んでもらうようには、もちろんしてるんですけれど。どういったプレイヤーになりたいかっていう目標があるから、(目標に対して)そういうアドバイスをするみたいな感じです。物量をもっとできるようになりたいんだったら、同じカスタマイズだとちょっと広すぎるので、中間地点を目指すみたいに。

N:そこまで極端ではないんすけど、私もやっぱりGuNGNiR [L]とかVerflucht [L]とか、重たい(物量譜面)って、やっぱりいつものオプションのままだとしんどくて、緑数字をちょっと増やしたりするんですよ。ある程度は固まった中でも、譜面によって多少 増やしたり減らしたり。主軸は同じのまま、ある程度の幅の中で揺らすみたいなことは、やれるんじゃないのかな。

 

選択肢が多いと視野が広がる

――お二人のおっしゃる通り、(カスタマイズの)引き出しが色々用意できれば、自由に選べる。それこそ、最強は誰にでもなれるっていう状態だと思うので。ある程度以上うまい人はあんまり、「こう(特定のカスタマイズ)じゃなきゃいけない」みたいなことを言わないイメージがあるんです。

S:そうですね。さっき話したメリットとデメリットっていう、そのトレードオフみたいな関係がわかって、この場面ではこれがメリット、この場面ではこれがデメリットだってことがわかってると、選択肢を持てるし、視野の広さになる。そこが直感的に理解できてる人は(本人に合うカスタマイズを)選択してます。

――メリットが(重要)っていうのは、本当にそうですよね。メリット・デメリットをちゃんとわかってると、(例えば)ConfisrieとかGuNGNiR [L]とか、皿が降ってくる所が決まってる(譜面)で、できるだけ手首皿使いたくないんだっていう人も、そこだけなら(手首皿を使う)ってこともできる。

――青龍さんのおっしゃる通り、そのカスタマイズの何が良くて何が悪いのか、そのデメリットの一つに「自分が使いたくない」っていうのもあっていいと思うんですが、そこも含めてどう(選択する)かっていうことですよね。

S:そうですね。何事も、自分なりの答えが何なのかって話なので。手首皿はメリットがあるから、絶対に手首皿じゃないといけないわけではなくて。手首皿っていう答えを選ぶんであれば、手首皿を練習するしかないですし、Confisrieとか3y3sみたいな難しい曲が来た時に、僕みたいに小指で取るって決めるんだったら、小指皿で極めることに向かえばいいです。

S:できないことに対してどうするかっていう正解の方法は、なんでもいいと思うので。何か正解を自分で探して、どうやったらできるようになるのか、自分なりに答えを自分で選べばいいのかなと思います。あくまでどれも手段なので

――思ったのは、「上手い人はあまり何も考えてない」みたいに言う人もいますが、BPL観てると、そんなことはないだろうと思って。それこそ、どの曲を選ぶか、どのオプションにするか、すごく色々考えながらやられてると思うんですけど。でも、その考えるポイントっていうのが、そういう意味では結構(一般プレイヤーと)違う。メリット・デメリットみたいなことに逐一注目するっていうのは、プロの方とかは結構やられてるイメージがある。

S:そうですね。メリット・デメリットをちゃんと理解しておくことで、(本人にとって正しいカスタマイズを)選べると思うんです。

 

固定オプションと譜面傾向の変化

S:僕がいろんな方に教えていて、なんとなく自分の中では、正規の方が片手に寄った配置が多いので、地力がちょっとつきやすいと思ってるんですよ。(その代わり)正規だと正規の配置しか認識できなくなっちゃうので、(正規譜面ばかり触っていると)RANDOMの配置が認識しづらくなって。さっきの話に出たように、☆11以降だとランダムっぽい配置が正規で出てくるので、認識が苦手になるっていう構図だと思うんですよ。

S:逆に、RANDOMでクリアを狙うみたいなことをすると、当たった時だけ上手くいってしまうっていうのがある。 比較的、片手に寄った配置ではなくて、右手左手で分業になったような配置でクリアすることになるので、地力はつきにくい。ですけど、いろんな配置を目にすることで、それに対する押し方の答えっていうレパートリーが増えるから、認識力は上がる。そういうメリットとデメリットがあるのかなと、思ってるんですよ。

――いま仰っている地力というのは。

S:押し切る力ってことですね。片手に寄った譜面のほうが(押し切るのは)難しいので、そういう力はすごく培われるのかなと。

――意外とそういう話って、Twitterとかでもあまりどなたも話していないんじゃ。

N:ここまで考えてるの、この人(SEIRYUさん)ぐらいしかいないと思う。

S:僕の中では、メリット・デメリットなんで、どっちがどうはないんですよ、あんまり。どっちもいいところはあるし。どっちかに寄ると、どっちかが苦手になるだろうっていうのがあって。それで、得意でありたいのかっていうのも、それもなりたい目標がどうなのかに依ってくるので、やっぱり一言じゃ全く語りようがないんですよね。

――メリット・デメリットは、(単に)有無だけじゃなくて、どれぐらいのインパクトがあるのかっていう量(の問題)も結構ありますよね。(正規とRANDOMの)どちらかだけだと皆伝になれないレベルなのか、みたいな。実際そんなことはないと思っていて。

S:そうなんですよね、あくまでメリットとデメリットってだけなので、別にメリットを無視しても培われるものはあるんですけど。ただ、RANDOMで正規と同じ配置はほぼ降ってこないので、RANDOMで正規の力をつけるのは難しいんですよね。逆に、最近は正規でRANDOMっぽい(配置の)譜面があるおかげで、正規だけでもRANDOMの力はちょっと培われてくる。

――10年前と今だと全然違うという面があると。

S:譜面の傾向が昔と大きく変わりすぎているのもあるので。一概に、正規かRANDOMかっていう言葉でどっちがいいみたいなのは、もう無いなっていう感じはいつもしてるんです。

S:後は、BPLとか大会とかで、固定オプションを使う使わないは、リスクをどれだけ取るかみたいな部分もあったり。(特に)昔からある譜面は、右手左手に寄る譜面が多くて。それでスコアを出すのは難しいけど、外れ配置よりはマシなのか、大差ないのか。そのバランスと、自分の押せる力とかとのリスクを取って、どっちの方が安定するかで選んだりって感じだと思うんですよ。

――それこそ、相手の上手さによっても変わったりするのかなと。

S:そうなんですよね、戦略の取り方がやっぱり色々あって。

 

プロになって変わったこと、変わらないこと

S:それこそさっき、プロ選手は色々考えてるって話があったと思うんですけど、プロになるまではあまり考えてなかった人が多かったのかなとは思っていて。

S:どちらかと言うと、プロになった以上 今までより使命感が強くなって、どうしても勝たなきゃいけなくなったんだと思うんですよね。それによって、解像度を上げざるを得なくなった。色々考えないと、ただやってるだけじゃ勝てない状況になったから、プロは今考えてるってのもあって。逆に、そうじゃない(使命感に追われていない)人はそこまで考えてないのかなとは思いつつ。

S:ただ、普通の実力の人より、たぶん解像度はあり得ないほど高いんですよね。

――間違いないです。

S:そこがやっぱり違うんですよね。考えてないように見えて、本人も考えてるつもりはなくても、 気付いたら解像度がめっちゃ高かったっていう感じ。ただ言葉に落とし込まないだけで、それを咀嚼して試行するみたいなことも、あまりにも当たり前すぎて考えてないのかなとは思うんですよね。

N:私とかそうだと思います。(BPL以前は)漫然とビートマニアやって、「これやったら上手くなりそう」「これできないからこれやろうかな」「これ今やってて面白くないからああやってやろうかな」みたいな。たまたま上手い方に転がっていったんだろうなっていう気はしますね。

――もう一つ思うのは、一緒に音ゲーやってる知り合いが多い人って、上手い人が多いなって。解像度って、1人で見るより色々な人が見てる方が、見えるものが増えるのかなと思うので。色々な人が色々言ってるのを聞いてっていうのも。

N:万事そうですけど、こうやって話していて初めて言語化できることって、多分いっぱいありますよね

S:そうなんですよ。

N:音ゲーの会話を、「あれができなくてさ」みたいなとか「これができてさ」みたいなのを、友達と話してる中で、「ということは、つまりこうか」みたいに形作られていくチャンスが多い方が、解像度なのか、考え方なのかっていうのを、具現化してくことができる。 

 

青龍塾のこれから

教える人が増えると、全体のレベルが底上げされる

――プロが教えてくれるのはすごく大事だと個人的にはすごい思っていて。(青龍さんは)今後も塾みたいな活動は続けていかれるのかなと思うんですけれども、今後こうしていきたいなっていうのはあるんでしょうか。一対一なのか、もっと広くなのか。

S:僕みたいに教える人が増えるといいなとは思ってるんです。それはプロに限らず、 教えるの得意っていう人はいると思うんですよね。なので、そういう人がこういうサービスをやる、それの足がかりじゃないですけど。実績作りとか、いい教え方みたいなのをみんなで共有したりして、そういうサービスが増えていくと良いなとは思ってます。

S:それによって、そのプレイヤーの実力もすごく上がりますし、上手くなりたいっていう目標を持つ人も増えたり。プロになれる人もどんどん増えると、プロのレベルも上がりますから、そういう全体の底上げっていう意味で、やっていきたいなとは。 

 

マンツーマン形式の良いところ

S:(形式は)一対一が基本的にはメインかなとは思っていて。大多数に対してわっというのは、それこそ定説みたいに、「メリット・デメリット(について)喋ります」みたいなので終わっちゃう気がするんですよね。

S:(アドバイスする上では)さっきの目標ってところが一番大事で、あれが人によって違うんですよね。現時点の実力もそうですけど、それよりも何を目指してて、何が必要なのかっていうことを話すときに、個別じゃないと目標もわからない。実力と悩みだけを言われても、どこを目指して僕がアドバイスすればいいかっていうのが、わからないところはあるんです。なんとなく、その悩みに対するコツは言えるんですけど、本当にその悩みを解決することが本人の目標と合致してるのかどうかは、ちょっと僕が保証できないんです。 そういう意味でも、確度の高い話ができるようにするためには、個別の方がはやりやすいなとは思って。

S:(目標は)本人もあまり意識してないことですし。別に目標を立てろってことではないんですよ、これって。立てることが目的なのではなくて、自分がどうなりたいか。目標っていうと、なんか立てて達成しなきゃいけないみたいですけど、そういうわけじゃなくて。立てて達成する必要は別になくて、深層心理として「自分がこういうプレイヤーを目指している」っていうところを、あぶり出すみたいなところが、目的としてあります。

――みんながみんな上手くなる必要はないっていう。

S:そうそう、そうなんですよ。上手くなることを目的としてるのか、楽しめる実力になりたいのかでも、やっぱり違うので。楽しめむために上手くなる人と、他人に勝ちたいから上手くなる人、肩書きが欲しいから上手くなる人と、色々あると思うので。

S:本質的にこういう状態がいいよねっていうのは、単に段位とかランプとかスコアとかじゃあ測れないかもしれないですし。どういう状態がいいんだっていうのは、すごくハッキリさせるようにはしてますね。

――なるほど、なるほど。

S:たまに話題に上がる、「上手くなるには楽しむことだ」みたいなのがあるじゃないですか。でも、楽しむことで上手くなれるわけではなくて、本人が本当に達成したい目標というか、なりたい形っていうのに沿ってると楽しいとか、なりたい形になれてるから楽しい、みたいなのはあると思うので。

S:その辺りがやっぱり自己分析が必要だったり、そのために僕と話して、それを見つけ出すとかっていうのが必要なんだろうなと思うんですよ。何が自分にとって楽しいとか、何を目指してるのかとか。

 

なりたい自分が見つかると、ビートマニアはもっと楽しくなる

S:僕はもともと、得意な曲ばっかりしかできなかったですし、得意な曲もかなり狭かったんです。超クリアラーで、スコアも後回しでいいってずっと思っていて、クリアだけがこのゲームだって思ってたので。

S:ただ、同じクリア水準の人とスコアを比較して、(相手のスコアが)めっちゃ高かったりすると、それが恥ずかしいみたいに思ったり。恥をかきたくないから、そのスコアを埋めるみたいなのとか。そういうのが積み重ねで。元々はそのスコアも、BPM180から190ちょっとぐらいまでしか光らなかったんですけど、そこから高速もできるようになりたいとか、中速も光るようにしたいとか。

S:アリーナっていうのが出てきて、皿とかソフランもどうにかしなきゃいけなくなったりして。負けないようにこっそりやったり、苦手を詰めるようにしたり。上手い人に絶対勝てる武器を作るために、より得意を伸ばすみたいなこともしたり。いろんな感情があって、それをやりたいから、これを上手くなるみたいなのが。

S:それは目標を立てるとかじゃなくて、そういうことをしたいからやるっていう。なので、そういうのを他の人にも見つけてもらって、 それに向かって僕もアドバイスできるのが一番確度が高くて、楽しめるんだろうなと思うんですよね。

 

最後に

20000文字超におよぶインタビュー記事、最後までお読みいただきありがとうございました。

前回のインタビューに引き続き、トッププロにしか見えない貴重な視点がたくさんありました。今回のSEIRYUさんはそれに加えて、青龍塾主催としての「教えるプロ」の観点からも、ここでしか聞けない話がてんこ盛りだったのではと思います。

インタビューの発端になった<心的イメージ>について、より実際的・実践的なとらえ方を知ることができた今回は、ビートマニア音ゲーの範疇を超えて多くの人に知ってほしい内容を含んでいると、個人的には感じました。

 

記事化するにあたって、インタビューの内容をギュッと凝縮してお届けしています。そのため、書けなかったエピソードや、細かいニュアンスの違いなど、気になる方はYouTubeの配信アーカイブもご覧になってください。

 

改めて、インタビューに応えてくださったSEIRYUさん、インタビュー内容をより豊かなものにするためにご協力いただいたNORIさん、本当にありがとうございました!

 

 

本記事についてのご意見・ご感想のある方は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでご一報をお願いします。


それでは、良き音ゲーライフを。

 

*1:6鍵と7鍵の交互連打。1Pプレイヤーの場合、多くは薬指と中指を使って処理する必要があり、最も取るのが難しいトリルの形となる。2Pプレイヤーなら12トリル

*2:多くの場合、表示領域が小さいほど目線を固定する位置が上下にブレにくいと言われています

*3:動体視力の個人差については不明な点も多いですが、持って生まれた個人差と比べて、訓練によって向上する部分は無視できないほど大きいと考えられています