要約
・IIDX SPのプレイ画面設定に関するアンケートを作成し700人弱の回答をいただきました。
・その結果、段位・アリーナランクが上がるほど、緑数字が小さくなる相関関係を認めました。上下合計の白数字には同様の相関関係はありませんでした。
・また、判定タイミング・目線位置で緑数字を調整して得られた、ノーツの視認から判定までの時間(以下、反応時間)について考えると、段位が上がるほど反応時間は大きくなる一方で、アリーナランクが上がるほど反応時間は小さくなりました。
・このことから、プレイヤーが緑数字を減らすとき、クリア力を上げることが目的の場合は、判定タイミング・目線位置を調整することでノーツの視認から判定までの時間が短くなりすぎないようにすると良いかもしれません。
・この結果を踏まえて、迷ったときの最適なプレイ画面設定の探し方を提案しました。
====以下本文====
こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。
IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。
今回はこちらの記事↓
the-safari.comを拝見し、「(プロに限らず)設定とクリア力・スコア力との相関を知りたいな~」と思いTwitterでアンケートを募ったところ、ありがたいことに約700件もの回答が集まったので、その分析結果をまとめてみました。
質問項目
アンケートの目的はプレイ画面設定とクリア力・スコア力との相関を調べることです。
そのために、以下の項目を用意しました。
- 段位 +(利用者のみ)総合CPI
- アリーナランク +(利用者のみ)総合BPI
- SUDDEN+白数字(画面上部の白数字)
- LIFT白数字(画面下部の白数字)
- 緑数字
- 判定タイミング
- 目線位置
目線位置は以下の図のように、ノーツの流れる範囲を下から10段階に分け、プレイ中に平均的に眺めている高さを答えていただきました。
緑数字・判定タイミング・目線位置から、プレイヤーがノーツを見てから判定されるまでの時間(以下、反応時間)を求めることができます*1。
以下では、アンケートで直接質問したプレイ画面の各種設定と、後から算出した反応時間について、クリア力・スコア力との相関を調べていこうと思います。
回答プレイヤーの全体分布
クリア力の指標として調べた段位の分布です。
約半数が皆伝、1/4が中伝となっています。こちらのサイトによると前作*2皆伝は9.3%、中伝は13.1%だそうなので、明らかに上級者に偏った分布となりました。
クリア力の指標として用いるにはこのままだと分布が偏りすぎている*3ので、皆伝のうち総合CPIを回答したプレイヤーのみを分析に採用し、その中でも総合CPIが2200を超えているプレイヤー(IIDXプレイヤー全体の上位500人≒上位1%程度)を別枠として集計しました。
再集計したものがこちらです。
このうち、外れ値処理などの関係で、実際には初段以上のプレイヤーを分析に採用しました。
次に、スコア力の指標として調べたアリーナランクの分布です。
https://twitter.com/TheSafaricom/status/1567050114040221697?s=20&t=W9lHNegXCXuJQcInSZkJWwhttps://twitter.com/TheSafaricom/status/1567050114040221697?s=20&t=W9lHNegXCXuJQcInSZkJWwhttps://twitter.com/TheSafaricom/status/1567050114040221697?s=20&t=W9lHNegXCXuJQcInSZkJWwhttps://twitter.com/TheSafaricom/status/1567050114040221697?s=20&t=W9lHNegXCXuJQcInSZkJWwhttps://twitter.com/TheSafaricom/status/1567050114040221697?s=20&t=W9lHNegXCXuJQcInSZkJWw
Aランクが6割弱と、こちらも段位同様の上級者に偏った分布となりました。ですが、段位と違って特定のランクにプレイヤー分布が偏っているわけではないので、特に区分変更を行わずに分析に採用しました。
こちらも処理の都合でアリーナモード既プレイのプレイヤーのみを分析に採用しています。
段位とアリーナランクの対応を図にまとめてみます。
当然ながら段位が上がるほどアリーナランクも上がります。相関係数*4はρ=0.86でした。相関係数は完全な正の相関があると1に、一切の相関が無いと0になる指標で、0.8を超えているのは一般に強い正の相関があると言って良いはずです。
このように調べたい要素同士に強い相関がある状況では、擬似相関の出現に注意する必要があります。
偏相関係数で疑似相関を調整する
早速クリア力・スコア力と各種設定の相関を調べていこうと思いますが、その前に少しだけ以下の説明にお付き合いください。
とってもわかりやすい↓のサイトに沿って説明します。
次のデータは2015年12月末時点の各都道府県内にある映画館のスクリーンの合計数と可住地面積100km^2当たりの薬局数を表したものです。このデータを用いて相関係数を算出すると、「0.82」でした。つまり、映画館のスクリーン数と薬局の数には強い相関があるという結果でした。
しかし、一般的に考えて都道府県ごとの映画館のスクリーン数と可住地面積100km^2当たりの薬局の数は直接的に関係がないような気がします。映画館のスクリーン数が多いから薬局の出店数が増えるわけでも、薬局の数が多いから映画館のスクリーン数が増えるわけでもないためです。このような場合には、「第3の因子」の存在を考慮する必要があります。
この例では、「第3の因子」として人口密度を想定することができます。
似たような例は、「小学生の漢字テストの成績と走る速さ」や「アイスクリームの売上と水難事故件数」などでも見られます。前者は早生まれ・遅生まれが、校舎は気温の高低が関わっていることが推測できます。
今回のアンケートに戻って、例として緑数字とクリア力・スコア力の関係を図にしてみます。
この場合、仮に緑数字とクリア力とに強い相関があったとしても、スコア力の影響を除いて考えないと、「純粋なクリア力」と緑数字との関係がわからない、ということになり、逆もまた然りです。このような調整を行った相関係数を偏相関係数と呼びます。
以下では、この偏相関係数を使って、クリア力・スコア力と各種設定の相関を調べていこうと思います。
緑数字とクリア力・スコア力
図左上(L字記号)に偏相関係数を表示してあり、この図では
・アリーナと緑数字の偏相関係数:-0.11
・段位と緑数字の偏相関係数:-0.07
であることを示しています。すなわち、
・クリア力が一定のとき、スコア力が高いほど緑数字は小さい
・スコア力が一定のとき、クリア力が高いほど緑数字は小さい
ことを意味していると考えられます。認識力が向上するに従って、プレイヤーは緑数字を減らし、画面上に表示されるノーツ数を減らすことで、スコア狙い・クリア狙いともに有利に働かせようとしていると予想できます。
もちろん、緑数字を減らすことは、画面のノーツを減らすだけでなく、(先述の)反応時間を小さくすることにも関係するはずです。その辺りについても後ほど詳しく見ていこうと思います。
白数字とクリア力・スコア力
次は、SUD+白数字(画面上部の白数字)、LIFT白数字(画面下部の白数字)、および上下合計の白数字を見てみます。
偏相関係数だけをまとめると、
上 下 合計
アリーナ:0.07 -0.08 0.02
段位 :-0.06 0.12 0.02
と、合計の白数字は一定(約350)のまま、
・スコア力が高いほどノーツの表示領域は画面下方に位置する
・クリア力が高いほどノーツの表示領域は画面上方に位置する
ことがわかります。
ノーツの表示領域の上下位置に関して、実際にはプレイヤーの身長が寄与する部分が大きいと思うので、迷ったら合計白数字を固定した上で、プレイ中の感覚で微調整するのが良さそうです。
判定タイミング・目線位置
白数字はノーツの表示領域を上下に調整するための設定ですが、次はノーツの表示領域を変えずに視認から打鍵までのタイミングを調節できる設定*5を見てみましょう。
クリア力が高いほど、判定タイミングは下方に設定されているようです。
目線位置については、
・スコア力が高いほど、ノーツ表示領域の下方を見ている
・クリア力が高いほど、ノーツ表示領域の上方を見ている
ようです。
さて、判定タイミングと目線位置、および緑数字を統合して議論するために、先述した反応時間についても確認してみましょう。
偏相関係数を解釈すると、
・スコア力が高いほど、視認から判定までの時間が短い
・クリア力が高いほど、視認から判定までの時間が長い
ようです。
相関関係を直ちに因果関係とすることは出来ませんが、このことからは反応時間(マージンと言い換えても良いでしょう)が大きいことはクリア狙いでは有利に働き、スコア狙いでは不利に働くと言えそうです。
マージンが大きいと視認から手指を動かすまでの時間的猶予が生まれるはずですが、そのことは脳内で視認から打鍵までの時間差を予測する上でのブレが大きくなることとのトレードオフになるのかもしれません。
もちろん、余りにもマージンが大きいとクリア狙いにも影響する(BADが出る)ほどブレが大きくなるので、クリア狙いのことだけ考えても最適な反応時間は存在すると考えられます。
ここで、緑数字の分析結果についてもう一度見直してみると、
・スコア力が高いほど緑数字は小さい
・クリア力が高いほど緑数字は小さい
と、反応時間と違ってスコア力・クリア力で同じ方向に相関していることがわかります。
このとき、緑数字・反応時間と、偏相関係数を使って調整した(≒純粋な)スコア力・クリア力との関係は下図のようになります。
反応時間は緑数字を使って計算しているので、反応時間と緑数字に相関があってもおかしくありませんが、実際に計算してみるとρ=0.10程度でした。
念のために段位・アリーナランク・緑数字・反応時間の4変数で偏相関係数を計算してみると、以下の図のように調整前とほとんど変わらない値になりました。
色々とややこしい計算をして来ましたが、要するに緑数字を減らすと
①画面上に表示されるノーツ数を減らす
②(判定タイミング・目線位置が一定なら)反応時間を短くする
という2種類の効果が発生し、今回のアンケートでわかった相関関係から推測すると
①はクリア力・スコア力ともに高める方向に働くが、
②はクリア力は低める方向、スコア力は高める方向に働く
と予想されるため、緑数字を減らすとき、クリア力の向上を重視するなら、反応時間が短くならないように判定タイミング・目線位置を調整する
のが良いかもしれない、ということになります。
アンケート結果から考える、プレイ画面設定の手引き
最後に、ここまでを振り返って、迷ったときの最適なプレイ画面設定の探し方を提案したいと思います。
- 現在の段位・アリーナランクからおおよその緑数字を決める。
- 白数字は上下合計で約350にする。
- 目線位置はとりあえず6/10(冒頭の図参照)として、身長などに合わせて(SUD+・LIFTを調整して)ノーツ表示領域の上下位置を決める。
- 上記の設定で適切な難易度の譜面*6を何曲かプレイし、判定タイミングを調整する。
- 上達によって認識力が向上し、緑数字を減らしたくなった際は、(SUD+・LIFTを調整して)ノーツ表示領域の上下位置は変わらないようにする。スコア力の向上を重視するなら、他の設定は変更しないで良い。クリア力の向上を重視するなら、判定タイミング・目線位置を調整して反応時間が短くなり過ぎないようにする。
もちろん、これはアンケート結果から考えた平均的な手順として提案されるものです。相関関係は直ちに因果関係を意味しないため、身も蓋もありませんが最終的には個人差に合わせた調整が必要になります。
あくまで、迷ったときの一つの道しるべとしてご活用いただければと思います。
まとめ
・段位・アリーナランクが上がるほど、緑数字が小さくなる相関関係を認めた。上下合計の白数字には同様の相関関係は無かった。
・ノーツの視認から判定までの時間(反応時間)は、段位とは正の相関を、アリーナランクとは負の相関を認めた。
・このことから、プレイヤーが緑数字を減らすとき、クリア力を上げることが目的の場合は、判定タイミング・目線位置を調整することで反応時間が短くなり過ぎないようにするのが良いと推測できる。
本記事についてのご意見・ご感想のある方は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでご一報をお願いします。
それでは、良き音ゲーライフを。
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*1:緑数字は60fpsにおけるノーツの表示フレーム数を表し、緑数字10は判定タイミング1に相当します。よって、緑数字をG、判定タイミングをT、目線位置をLとして、反応時間は(G*L/10-T*10)*(5/3)で求めることができます(単位はミリ秒)
*2:IIDX28、記事執筆時点はIIDX29
*3:相関を見る上で現実のプレイヤー分布との乖離があること自体は問題ありませんが、最高ランクに分布が偏っている状況はいわゆる天井効果の影響を受けてしまいます
*4:以下Spearmanの順位相関係数のこと。なお、以下では読みやすさのために有意水準について敢えて触れていません
*5:目線位置は設定ではないですが
*6:簡単すぎず難しすぎず、クリアとスコアの両方を狙って行ける程度がちょうど良いと思います