【IIDX】一流の<心的イメージ>を手に入れよう ~NORI選手にインタビュー①~

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 

以前こちらの記事

riceplace.hatenablog.jpで、これまでのビートマニア歴で考えたこと・取り組んだことに関するインタビューに答えてくださるトッププレーヤーを募集したところ、なんとBPLプロのNORI選手からご協力を得られました。

https://p.eagate.573.jp/game/bpl/season2/2dx/team/taitostation_tradz/04/index.html

今回は、そんなNORI選手へのインタビュー*1の様子を記事にまとめたいと思います。

 以下、―で始まる段落は筆者の、それ以外はNORI選手(文章中ではのりみそさんとお呼びしています)・配信へのコメントとなっています。

 

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限界的練習と心的イメージ

―限界的練習っていうのがありまして。英語で言うとdeliberate practice、直訳すると意図的な練習だと思うんですが、そこで出てきてるのが指導者が不可欠だっていう話なんです。

NORI選手:うん、うん、はいはい。

―で、そういう教える人がいなかった所で、一流・超一流を目指すときにできることとして、一流プレイヤーの心的イメージを手に入れようっていうのが大事になってくる。そういう最高のプレーヤーが成果を上げられた理由を調べて、 同じ能力・同じ心的イメージを身につけるために、自分がどうすればいいのかを考えましょう。ってのが、この本で言ってるところになります。

NORI選手:う~ん、なるほど。

 

―ここで問題になってくるのは、その一流のプレイヤーと同じことをしろって言ってるわけではないんですよね。例えば、身長が180cmある人と160cmの人だと、プレイスタイルって変わってくる。そういう大きな違いを自分にそのまま持って来るのはできなくて。それぞれ上げてる成果が何になるのか、それぞれどういう風にやってきたのかっていうことを知る。

NORI選手:はいはいはい。

―なので、今回のりみそさんが、のりみそさんの背景でやられていく中で、のりみそさん自身がどういうふうに考えてやってこられたのかっていうのと、それによってどういう風に変わったのかっていうのを聞くことによって、じゃあ自分はどうだろうっていう風に考えるっていうのが今回のポイントです。

NORI選手:なるほど、ありがとうございます。

 

NORI選手:上達論が最近定期的にバズる時があって、TLで誰かが大体言うのが、誰かの上達論がそのままあなたに当てはまることはなくて、色んな上達論の中で、これは自分に合ってるかなみたいなものを摘んでみたり、 合ってるかどうかもわかんないけど、ちょっと試してみようかな、みたいなのをやってみたりして。自分なりの答えじゃないですけど、やり方を見つけるしかないよね、みたいなもので。恐らくこの心的イメージってものも、のりみそはどうやらそう考えてるらしいが、じゃあのりみそが考えてる通りにやればのりみそぐらいになるのかって言われたら、別にそんなことはないけど、そういう風に考えてんだなみたいなものを考えるきっかけになってくれればいいかな、みたいな感じですかね。

 

―より細かく言うと、例えば横認識っていう技術があると思うんですが、なんで横認識が大事なのかって、昔ブログ書いたりしたんですけども、結論から言うと、たぶん最先端の脳科学者もあんまり答えられないんじゃないか。

NORI選手:なるほど、なんでなんすかね。

―とはいえ、みんな横認識できていて、特にプロになるような方とかだと、ある程度難しいごちゃっとした譜面を、横方向に分離していると思うんですよね。

―それをどう考えてやっているのかっていう時に、「横認識っていうのはこういう点で重要なんだ」っていう風にプロの方がおっしゃることには、興味が実はなくて、 それって後付けの理由かもしれないっていうことなんですよね。イメージってのはそうではなくて、横認識そのものっていう感じです。

NORI選手:横認識そのもの。

 

―画面に降ってくるものを見たときに、「どういう風に見てますか?」「横方向にこう分けてるな」っていうのが心的イメージなんで、そう意識してやってるっていうことですね。

NORI選手:なんでそうしてるかは、私も多分後付けです。

―それはその人にとってそう(いう意味)なだけだってこともあると思うんです。

NORI選手:はいはいはいはい、そうですね。

 

―大事なのは、その人がそういう風(な意識)になるにはどうなったかなので。考えてることっていうのは、意識してることとか、そういう感じになるんですかね。自分もこう一言で言うとこれだっていうのはなかなか言えないのと、この本も心的イメージってのはこういうものだっていうのですごいページ数を使ってるので、やっぱり一言で言うのはなかなか難しい概念だと思うんですが。今日インタビューさせていただきつつ、そのあたりについても詰めていければな、というのもありますね。

NORI選手:整理はお任せします。

 

―今回はその中で大きく分けて3ポイントあると思いまして。

―のりみそさんが初めてビートマニアに触れてからNORI選手になるまでに、それぞれ多分うまくなるポイントがあったと思うんですよ。例えば、初めて八段を取った時、十段、皆伝、☆12でAAAが出た時みたいな。そういうそれぞれのタイミングで、こういうことをやったらこういう風になったっていうようなこととか、このタイミングはこういうことを意識したなとか、そういうことをお話しいただきたいと思っています。

―2つ目が、今まさにプロとしてこう活躍なされてるこの瞬間に、普段の練習で自己ベストを出そうっていう時に意識してること。ちょっと今回は試合本番のメンタルについては割愛させていただいて。

―3番目が、上手くいかないな、上手くならないなっていうときに何を考えて、どういうことに意識したら上手くいった。逆にどういうことを意識するとスランプが長引いた、っていうのもお聞かせ願えたらと思います。

NORI選手:いいですね。わかりました、楽しそうですね。

 

NORI選手:あんまり私、振り返ってこなかった気がしてるんすよ。自分は割と場当たり的に、今日何しようとか、直近1週間なんかこうだったから、なんかこうするかみたいなぐらいでしかなってなくて。今までどうやって練習してきましたかとか、それこそビートマニア始めてきた頃からどうやってましたかって。自分がいま普通に楽しみです。

 

皆伝の壁、☆12ハード埋め

―一番最初にご自身の中で、なりふり構わず上手くなったっていうところを超えて、「あ、壁あるな」「これどうしよう」って、最初に考えたタイミングっていつだったでしょうか。

NORI選手:壁かー……。でも、やっぱ皆伝だったかなっていう気はしますね。 

 

NORI選手:ていうのも、始めたのは6thとかなので。 まず段位みたいな概念が全然ない時期*2でもありまして。それこそ大学に入るまでって、 本当に1人だったんですよ。CSの6th〜10thとかをひたすらやってた身だったので、あんまり段位のことも、それを取るとどうとかいうのも全然なく、目の前の好きな曲をただひたすらやってるみたいな。その頃SNSとかもほとんどやってなくて、意識せずにずっと遊んでて。初めて皆伝とかいう人たちに出会ったのが、多分高3の時とか、受験のシーズンとかで、それこそ、U76NERさんとか。

 

―作品でいうとどの辺りですかね。

NORI選手:僕の年齢と作品は比例してるので、SIRIUS、リゾアン(Resort Anthem)。

―その頃の皆伝はすごかったですもんね。

NORI選手:すごかったです。あの頃の皆伝は威厳があった。で、段位に執着した経験もこれまでなかったので、その時期に、なんか周りに皆伝が多いと。で、大学入って皆伝のやつがいると。でも、なんか俺は10段しか受かんねえなみたいになって。やたら皆伝を受けまくって、嘆きの樹に今でも壊滅的な癖がつき。

 

―皆伝の正規は行っちゃ(むやみに粘着したら)ダメって言われるようになったのって、わりと皆伝出てから随分後の話ですよね。

NORI選手:そうですね、皆伝は多分DistorteDとかですよね。なんで「皆伝が受かんない受かんない」ってすごい苦労したなっていう気がします。それ以前も壁はおそらくあったと思うんですけど、それに執着する意味を感じなくて、「他にできる楽しいことやってよ」ってすぐ逃げてた気はします。

―そこはやっぱり段位というか、皆伝の功罪というか。このゲームシステムで、皆伝を受かりたくない人はいないですよね。

NORI選手:ないんですよね。

―それがこう良くも悪くも、すごく視野が狭くなっちゃうところがありますよね。 

 

―肝心なところですが、のりみそさんがそこを越えるために、意識したこと、やったことってのは何だったんでしょうか。

NORI選手:やっぱ途中で気づいたんでしょうね。皆伝だけを受け続けても、多分皆伝には受からないと気づいて。じゃあどうするかってなった時に、ちょうど7強*3というか、☆12の難易度表が当時の2ちゃんねるとかで生まれ始めた頃*4に、じゃあまずそこからやるかみたいな。「☆12にはハードを付けていくと良いぞい」みたいな。 「あ、ハードゲージって使う意味があるんだ」みたいな、感じに多分気づいたんでしょうね。

NORI選手:じゃあ☆12のハード埋めしてみるかとなって。それって、やっぱり皆伝の壁と比べて小さかったので。例えばquell~the seventh slave~、Bad Maniacs、MENDES辺りにどうにかハードつけたいなとか言って頑張って。皆伝より低い壁にぶち当たって乗り越えていく、みたいなことをしてたんじゃないのかなと思いますね。

 

―じゃあ最初のところで言うと、同じことをやり続けていてもダメそうと考えて、☆12っていう難易度の中で、それを順番にやっていくことで、指標にしようっていう。要するに今では常識になってるような考え方が、当時はなかったってことですよね。

NORI選手:言われてみればそうですよね。体感的に蠍火がめっちゃ難しいとか、冥がやばいとかはあったんですけど。特別難しい、できないけどできそう、 ちょっと難しい、簡単の4段階ぐらいしか、自分の体の中にはなかった気がしますね。

―今そんなこと言ったらびっくりされちゃいますよね。

NORI選手:びっくりされますよね、CPIもBPIも☆12難度表もない世界みたいな。うん、今となってはなかなか信じらんないような時代だなと思いますよね。

 

上京、ライバルたちとの出会い

NORI選手:明確に皆伝っていう壁を乗り越えられた原動力としては、☆12のハード埋めだったんですけど。田舎の少年がですね、大学に来て、東京の大学で「え、ビートマニアって俺以外に遊んでる人いるんだ」みたいな感じになるわけですよ。高校に1人いたんですけど、 彼は十段前半か九段ぐらいだったのかな。まあ、お山の大将じゃないですけど、 1番うまい存在だったと思ったら、「同級生に皆伝いるじゃん」みたいになって。

NORI選手:その時はmixiで、「え、東大生ってこんなに皆伝いるの」みたいな感じになって、世界を知って、その人たちに追いつきたいみたいな。他人との比較が多分大学生になってから初めてやった概念で。誰が最初に全白になるのか、みたいなレースをしてたこともあったので、そこで否応無しに、「やばい、あいつが嘆き埋めたぞ」とか「バドマニに埋めたぞ」とか。俺も黙ってらんねえ、みたいな時期だったかなと思います。

 

―やっぱりそこで、クリア力みたいなものを比較する状況にもなったし、環境にもなったって感じですよね。

NORI選手:だと思います。周りの人がどうやってるかとか、どうやってやってけば良いかみたいなのが手に入るようになったし、それを欲しいと思うことは、かなり上手くなっていくにあたっては必要な要素だったかなっていう。

 

―じゃあ、その最初の壁を越えて、☆12をハード埋めしてみようっていうところから先は、またやればやるだけうまい期になったっていう感じですかね。

NORI選手:そうですね。だから皆伝から後で明確な壁って言われると、やっぱり穴冥ハード、穴冥AAAみたいな感じになりますね。もう冥に人生をなんか狂わされてる感じは結構しますね(笑)。 
NORI選手:最近だと、やっぱ3700*5とかも出ないな出ないなとか思ってましたし。これは多分古い人間なんでしょうけど、穴冥が全てのチェックポイントになってる感じはします。でも、皆伝ほどの壁ではなかったかなって感じはしますね。

 

―ちなみに穴冥ハード、穴冥AAAはどういう風に突破しましたか。

NORI選手穴冥はわりと充分な地力をつけて、殴った感じがします。とりあえず1000回とかやりたくなかったので。多分その頃にはEXHランプもあったので、 できるEXHランプをどんどん点けて行って、たまにランダムでやって、BPが20みたいなときに後100回もやればできるかな、やりたくねえなぐらいまで回り道してやった感じがします。

NORI選手:それもおそらく皆伝で学んだんじゃないですかね。できないことをやり続けてもしょうがないので、それ以外で上達を頑張って、大目標をたまに狙うみたいな。私のやり方は、多分そうなんだろうなと思います。

 

―ちなみに、穴冥ハードまで地力上げていくにあたっては、そんなに壁はなかったですか。

NORI選手:いや、でも苦労はしてたんですけど。 たまにやってダメなら、またちょっと他のEXHとか、その頃多分スコア狙いとかもやり始めてたと思うんですけど。そうですね、そんなに苦労はしてなかった気はしますね。なんかもう、他人との比較がとにかく楽しい時期だったと思うので。何も考えずとも、大学終わったらゲーセン行って、ビートマニアいっぱいやるみたいな時期だったので、気づいたら上手くなってた気はします。

NORI選手:時間はかかったし、穴冥ハードできないなってずっと思ってたけど、 その間にめちゃめちゃ長いプラトーがあったみたいな感じはしないですね。多分、着実に上手くなっていて、例えば半年前とかでも、3時間粘着したら穴冥ハードできてたのかもしれないですけど、僕は多分それをやらなかったんだと思います。

―じゃあ、ビートマニアをやっていて、目の前のあれこれそのものが楽しいっていう。

NORI選手:そうですね。かなと思います。

 

―これ以降は壁ってありましたか。

NORI選手:そうですね、あんまりないのかなあ、そういう意味では。

NORI選手:もちろん、いま例えば、僕はU*TAKAさんに叙情がワンチャンあるぐらいで、その勝てないことを壁と形容するなら、それは壁なんですけど。

―結構それこそ、まさに心的イメージかなっていうところはあって、 要するに無限に高いところに(目標を)設定すると、すべて壁になると思うんですよね。

NORI選手:ですよね。そうなんですよ。

 

―だからそこは、記事でもちょっと書いたんですけど、あまりに難しい課題とか高すぎる目標とか設定すると、それってむしろコンフォート。そこでアイデンティティが出来上がっちゃうっていうところもあるんですかね。

NORI選手:そうっすね、難しいですね。 なんで、言われてみると壁はあんまり感じたことがなかったかなと思います。

NORI選手:多分、壁って(言い)替えると長期的な目標とかになると思うんですよ、しかも達成が結構難しい。なんか、それを常に持ちながらビートマニアをするのは、辛いんじゃないかなっていう気が。

 

BPLプロとして

NORI選手:最近で言うと、僕は今BPLでプロやらせていただいていて、その巡目も4巡目で、 同じチームにはRIOOさんとPPJTさんとたっちゃん(TATSU選手)がいてってことを考えると、どう考えても僕が大将戦に出ることって、まあ多分なくて。そうすると、僕が出るべき場所って先峰か中堅かで、そうするとやる曲って☆11以下。

NORI選手:☆11以下で何しなきゃいけないかっていうと、自分を除く31人のバケモンみたいな人たちみたいに、いわゆる天井スコアみたいなものを出さなきゃいけない。っていうことを考えると、自分が毎日ゲームセンター行って意識することは、もう任意の曲で1桁落ちを出すとかいうことが目標になるので、なんかもう1ノーツも黄ばませない気持ちで、ビートマニアをただやるみたいな感じですね。無理なんですけど。なんで、黄グレが出た時は、なんでいま黄グレ出たんだろうなって、やっぱ考えますよね。認識が遅れたのか、 指がこんがらがってたのか、みたいな感じ。


―誰か上手な方が言ってたんですよね、理由がわからない黄ばみをなくすみたいな。

NORI選手:ああ、誰か言ってた気がする。

—例えば、Liberationのトリルが67に来ちゃったみたいなのはいいとして、交互で一応取れるところに来たし、予測もできてたのに、黄ばんだならどうするかとか。そういうことかなって自分は理解してるんですけど。

youtu.be

NORI選手:おっしゃる通りだと思います。

—67に来ても34に来ても17に来ても何も考えずに、「やっぱりLiberationのトリルは難しいな」っていう風に思うのかは、やっぱり変わってくるのかなっていうところありますよね。

NORI選手:そうですね。本当に全ての黄グレに、理由付けをするようにはしてるかもしれないです。

 

—疲れちゃいそうですけど……。

NORI選手:上手くなってきたことで、例えば1000ノーツ叩いて反省すべき箇所が10か所とかになると、まあそんなに疲れないですよ。

—なるほど、なるほど。そういう点でも、やっぱりあまりにも考えることが多すぎるっていうのは、効率が悪いのかもしれないですよね。

NORI選手:そうですね。なんで、僕も最初はある1小節でみたいな単位でやってましたよ。Todestriebの16分が降ってくるまでに黄ばんだら、筐体の床が開いて落ちてしまうみたいな、そういう感じでよくやってましたよ。気づいたら、それがちょっと伸びてきたのかな、みたいな感じはしますね。

www.youtube.com(16分が降ってくるのは動画0:40頃)


NORI選手:あとは、やっぱりBPLって形式なので課題曲があるわけで、わりと個別の曲に対しての研究とかは多いですよね。

—研究するにあたって考えてることっていうのは、何かありますか。例えば、譜面サイトで譜面見るとか、ハンクラを聞くとか。いわゆる座学って、いろんなやり方があると思うんですが。

NORI選手:これは結構人によります。PPJTさんとか、すごく予測がうまいんですよ。DOLCE.さん、U*TAKAくんも、なんかそういうの詳しい気がするし。

 

—1巡目の人がみんなやってるってほどでもないんですか。

NORI選手:例えば、MIKAMOさんが「これがここ来たからこれだね」っておっしゃってるイメージって、僕はあんまりない気がするんですけど、わかんないです。「いや、やってるよ」って言われたら、あの、ごめんなさいって感じです(笑)。

—穴冥のメインサブは皆さん気にしてると思いますけど、そのレベル感で全部の課題曲を把握してる人ばっかりじゃないっていうことですかね。

NORI選手:と思いますけどね、そんな気はしますね。


—のりみそさんの場合はどうなんでしょう。

NORI選手:僕はすごいそういうのできない人です。僕、ruin of opalsって曲めちゃめちゃ好きですけど、どのノーツがバスになるとか、何にも知らないですもん。最初割れると押しやすいんだよねってのは知ってるんですけど、何がどうしたら割れるのかも何も知らないですし。

NORI選手:わりと研究座学よりかはプレイして。僕は"歌えるようにする"って自分でよく言ってるんですけど、曲のリズムをひたすら体に染み込ませるようなやり方になりますね。それが多分良くて、この間のBackyard Starsみたいな、一般的にリズム難と呼ばれるような曲であっても、なんかまあ曲の通り押しゃあいいんだろうみたいな感じでやるようになってるのかなっていう気はします。

youtu.be


NORI選手:逆に均等な16分とかはもう均等なので、リズムも何もないみたいな。

—すごく浅い考えだと、変リズムが覚えられる人は、当然普通のリズムを覚えられるんじゃないかっていう風に思うんですけど。

NORI選手:いや、でも正しくて、僕のBPLの役立ち方というか。みんなが95点とる曲で 95点取るのは苦手なんですけど、平均点が70点の曲で90点取るのは好きなんですよ。もちろん、その16分の普通の綺麗なリズムの曲も、多分90点ぐらいは出るんですけど、周りの人は全然95点出るんですよ。

—最近ちょっとそういう戦いが多いですよね、BPL。

NORI選手:そういう戦いが多いです。なので僕はストラテジーカードが飛んできやすいんだろうなっていうのは思ってるので、今んとこ100%でいただいているので。

NORI選手:だからそれをどうにかしなきゃいけないっていうので、1ノーツも黄ばませない、基礎精度の向上が何よりも必須なんだなって、思ってるところですかね。

—なるほど、なるほど。

 

NORI選手:それこそ、もうチームメンバーに聞きます。あと、アドバイザー。PPJTさんとか4000クレとかじゃ利かないぐらいやってた時期があったとか聞いてるので、いろんな曲に対しての解像度がめちゃめちゃ高いんですよ。 
なので、僕が10曲やって「この曲ってここ難しいから意識した方がいいんだな」っていう気付きを、既に持ってらっしゃることが多いので、教えていただくような感じですよね。

—曲の解像度が高いって、いい表現ですよね。頭の中に「この曲ってこうだよね」みたいなのがある人とない人がいて、ない人が上手くないわけではないと思うんですが。 やっぱりある人は、少なくとも人にアドバイスするのとかって上手ですよね。練習曲が、ぽんと出てくるみたいな。

NORI選手:そうですね、まさにそう。

 

目標の小ささを意識する

コメント「大きな目標を持ちつつ、小さい目標をこまめに設定するのがよい」

NORI選手:僕はあの、 今「あなたの大きな目標ってなんですか」って言われると、最初にもそんな話したと思うんですけど、長期目標みたいなのはあんまり立ててないんで。多分それはあんまり良くないんだろうなと思いつつも、これまで逆に小さい目標を設定して、それをこなしていったところ、ある程度山は登れてるようになってるので。それは運がいいのか、 本能的に小さい目標立てがうまくできてるのか。

 

—心的イメージっていうことで言うと、"目標を立てる"とは、っていうところが結構ポイントになるんじゃないかと思うんですが。その小さい目標を立てるにあたって意識してることってありますか。

NORI選手:1回ゲーセンに行ったら、次ゲーセンに行ったら、多分できるなぐらいの壁の高さにしてる気がします。小ささですよね。

小ささを意識してるっていう感じですかね。

NORI:うん、じゃないと嫌になっちゃうんで。

 

NORI選手:だから、BPLの期間って結構辛いんですよね。対戦相手とかがわかってて、飛んでくる曲とかもなんとなく予想がついてたりするときとかは。

NORI選手:それこそ僕、明日ゲーパニ戦だからMIKAMOさんとやるんですよ、☆10のCHORDで。でも、MIKAMOさんのスコアと比較したくなんかないけど、 試合なんでしなきゃいけなくて。で、それって、次ゲームセンターに行ったら、達成できないですよ。なんで、多分スタンダードモードを選んだ瞬間に、その小さい目標を多分作ってるんですけど。 そんな計画立てて、ゲームセンター行ってないので。

youtu.be

NORI選手:で、多分そのMIKAMOさんになんとか勝てるかもしれない曲を作り出さなきゃいけないっていうのが、まさにコンフォートゾーンを抜け出すというか、限界的練習ということなんだろうなっていう気はしてます。

 

—そこで言うと、目標立てとしてのりみそさんが慣れてらっしゃるのかなっていうところですよね。フィードバックとかにも繋がりますが、結局そのクレジットが終わった瞬間には、フィードバックが返ってくると思うんです。

NORI選手:そうですね、ああ、できなかったなみたいな。極端に言うと、言われてみればですけど、もう、その次の曲、次の曲でワンチャン伸びる気がするっていうのを やってる気がしますね。それはやっぱり、例えばBPI的にもうちょっと出る気がするとか。それこそBPLの他の選手見て、 あの人がこの点数なら俺ならもうちょっと実は出るか、みたいなのを持ってやってみるとかになるんですかね。

 

NORI選手:だから(BPL)オンシーズンは「MIKAMOさんに勝て」みたいな感じになるので、小さい目標もくそもねえよみたいな感じになっちゃって。多分、息抜きに小さい目標をこなして「大丈夫。俺は上手くなってるんだ」って言い聞かせるような感じでやってますかね。

NORI選手:だから、やっぱりBeat Motivatorとかがあるので、 99%の表の曲が1個増えたとか。やっぱり嬉しいですし、そんな感じでやってることが多いですかね。

 

”終わった”スコアとの向き合い方

—既にやってる曲、この場合ランプよりスコアの方がわかりやすいと思いますけど、このスコア十分高いなっていう風な曲で、どうするかっていう問題が結構出てくるのかなと思うんですよね。

NORI選手:それ、すごいあります。もう満足スコアですよね、 自分的な。

—俗に言う”終わった”やつですよね。

NORI選手:そうです。だから、僕もAA3600*6初めて超えてから、多分AA1回も選んでないと思うんですけど。

 

—それってどう思いますか。やっぱりやった方がいいのか、終わってないやつやった方がいいのか。
NORI選手:難しいなとは思うんですけど。終わったか終わってないか基準って、僕の考えですよ、自分の身の周りの人たち・ライバルを見て、なんか俺が1番うまいなってなった時が終わったスコアになると思うんですよ。

NORI選手:AA3600とかは、キリの良さとか、もう歴史的な、こうAA3600出たらランカーみたいなのがあったりするので、外的な要因だと思うんですけど。それをいいライバルを持つと、ライバルが急に50点とか更新して、 「ああ、これって全然終わってないんだ」みたいな感じで叩きのめされる瞬間があって。それがあると終わってないスコアなので、終わったと思って手をつけてなかった曲を触り始められるような曲になるので。

 

—逆に言うと、そこまでは終わらせといていいかなっていう感じですかね。

NORI選手:そうですね、その曲が好きなら(プレイすれば良い)じゃないですかね。全ての曲を、自分の上振れ100%3σ*7のスコア出すまでやり込むぞ、みたいなのはそんなに意味はないかなっていう気はします。

―そうですよね。1000回やって1回を出すのにどれぐらい意味があるのかっていうのは、自己ベが一番の正義だった時代でも、ちょっと悩ましいところですよね。人間は無限にやっても時間の制約があって、1日に100クレはできない中でどうするのかっていうのは。
NORI選手:そうですね。もちろん歴代狙ってる人達とかになると、 やっぱり自分の中の100%のスコアを、それこそ1日100回も同じ曲やって出したりすることに意味があったりするのかなと思うんですけど。私はあいにく多分歴代を取るとかいう人間ではないので。

 

―どっちかというと、自分との比較っていうよりは、ライバル・周りの人と比較がモチベーションになってるっていう感じですかね。

NORI選手:もう完全にそうですね。

―それで言うと、歴代を狙うような人たちも、ライバルの比較が自分との比較に変わっただけなのかなっていう気はちょっとしちゃいます。

NORI選手:うん、そうですね、そうなんでしょうね。 ああ、大変なことしてるなあ。

 

―自分が上手くなったら、今度は自分の中で終わってないスコアになるっていう感じですよね。

NORI選手:だと思います。その到達っていうのは、今の自分の実力での到達したスコアが出たっていうだけなので。それで、例えば新しくクリアランプがつくとか。他の曲で「え、俺こんなスコア出るんだ」みたいな経験が積めた時に、最近あの曲やってないし、今1番ライバルの中でもうまいけど、でも俺はあの時より上手くなってると思うから、 もう1回やろうかな。みたいなのは結構あって。それは成長の実感になるので、1ヶ月前の自分が終わらせたスコアを今やってみるっていうのは、結構やるかもしれないです。

 

―心的イメージで言うと、MAXは誰が見てもMAXなのでMAXなんですけど、"終わった"かどうかってのも心的イメージだと思うんですよね。

NORI選手:いや、まさにそうだと思います。

―ライバルとの比較っていうのは結構わかりやすいとは思うんですが、 その代替がBPIやCPIになってくるわけですけれども、それがあると無いとって結構変わってきますよね。

NORI選手:変わってくると思います。

 

―逆にCPIの、まあBPIもそうだと思うんですけど、良くないところが、そこの基準があくまで1個の基準にしか過ぎないんで、言うほど難しくないこともあるし、言うほど簡単じゃないこととかもあったりして。だから、やっぱりCPI作った自分もあまりCPIのことは実は信用してない。

NORI選手そこは一緒ですね、僕もBPIのことは何も信用してないので。

―いや、こういうことを言うと、何なんだって感じになっちゃいますけど(笑)。(適正CPIのブレは)プラマイ50の間には入ると思ってます。CPI難度表の基準が50で分かれてますけど、やっぱり1個上1個下(の基準)には結構行かないですよね。

NORI選手:そうですね、そんな気はします。「確かにここで線引かれるのは納得するな」みたいなところに線引かれてるなとは思います。

 

―ここで言うと、(歴代レベルで)終わった終わってないみたいな時とかは、だんだんその線がシビアになってくると思って。そのレベルの世界観のことはちょっと、やっぱり自分はイメージつかないですね。

NORI選手:正直、自分もわかんないですね、まだ。

―ぶっちゃけ、6個と4個と2個と0個がどう違うのかってちょっとわかんないですよね。

NORI選手:僕の感覚だと、やっぱもう10と9は全然なんか違うんすよねえ。多分そんなにきっと差はない。よく考えたらない差はないんですけど。

―1桁か2桁かっていうことですか?

NORI選手:もう完全にそうだと思います。十進法のせいだと思う

―そこは気持ちの問題ですか。

NORI選手:ですし、きっと多分2と1と0は全部違うんだろうなって思います。 あんまり僕がそこまで詰め切ったことがないのであれですが。

 

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インタビュー後半は、

riceplace.hatenablog.jpをご覧ください。

 

 

引き続き、これまでのビートマニア歴で考えたこと・取り組んだことに関するインタビューに答えてくださるトッププレーヤーを探しています。このような区切り方を私がするのは大変おこがましいですが、クリア力・スコア力のどちらかで概ね世界100位前後までに該当する方であればより望ましいです*8

 インタビューにご協力くださる方や、本記事についてのご意見・ご感想のある方は、記事へのコメントあるいは冒頭の Twitterまでご一報をお願いします。


それでは、良き 音ゲーライフを。

*1:2022/8/23にYoutube上で行いました。該当動画は現在非公開としております

*2:段位認定は7thから

*3:当時の7強はAlmagest、Go Beyond!!、perditus†paradisus、冥、卑弥呼、灼熱Beach Side Bunny、3y3s

*4:☆12難易度表の歴史は十段スレの難易度表の歴史 | BPM@パプログ!↑に詳しい

*5:穴冥AAAは3556点

*6:AAの理論値は3668

*7:ここでは発生確率0.3%の上振れの意味

*8:この記事を書いている私は☆12の総合BPI・総合CPIでともに推定500位台程度です

ビートマニアと「限界的練習」

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 

今回は、こちらの本

books.bunshun.jpを読んだので、ビートマニアの上達と関わりがありそうな部分を一部引用し、個人的な意見・感想も加えてみようと思います。

 

限界的練習(deliberate practice)とは

上述の本で、著者は以下のように紹介されています。

フロリダ州立大学心理学部教授。「なぜどんな分野にも、超一流と呼ばれる人が存在するのか」という疑問から、30年以上にわたり、スポーツ、音楽、チェスなど、あらゆる分野における「超一流」たちのパフォーマンスを科学的に研究。そこから、どの分野においても、トッププレーヤーは必ずある共通の練習法を採用していることを突き止め、それを「限界的練習(deliberate practice)」理論として発表した。(後略)

限界的練習の理論は多分野にわたって広く知られているようで、医学生物学関連の学術文献検索サイトでは、タイトル・抄録に"deliberate practice"を含む文献が850件以上ヒットしました。

 比較的ビートマニアと近いことをやっていると考えられるピアノの初見演奏*1に関しても、その能力の半分程度は限界的練習によって説明が付くと主張する論文があります。

 すなわち、ビートマニアの上達方法を探る上で、限界的練習を参照することは的外れでは無さそうだと考えられます。

 

能力レベルに応じた3段階の練習方法

ここから具体的に本の内容を見ていきます。

『超一流になるのは才能か努力か?』では、上達に応じて必要な3段階の練習方法があることを示しています。

 

1段階目は誰しもが新たなスキルを獲得するときに行うやり方です。

どんなことをできるようになりたいかという漠然としたアイデアから出発し、教師、コーチ、教則本、あるいはウェブサイトから方法を学び、許容できるレベルに到達するまで練習する。そうすると自然と体が動くようになる。この方法が別に悪いわけではない。人生における大方のことについては、そこそこのレベルに到達し、それで良しとしてもまったく問題はない。A地点からB地点まで安全に運転できればいいとか、ピアノで『エリーゼのために』を弾けるようになれたらいいというのであれば、この練習法で十分だ。

- 以下、『超一流になるのは才能か努力か?』第一章より、太字は編者

 

ビートマニアにおいては、初めて鍵盤を叩いたその日から自然とこの練習法を行うことになります。

 そこそこのレベルというのがどの程度かは、身近な上級者の存在・それまでの音ゲー経験の有無などにも大きく左右されると思いますが、多くのプレイヤーはSP七段~八段あたりまでに一度は壁にぶつかるのでは無いかと思われます。

 壁となる要素は人それぞれですが、大体このくらいの段位から見えたものをそのまま自然に押そうとするだけでは対応が困難な譜面パターンが増えてくるような気がします。その最たる例が七段ボスTHE SAFARI(HYPER)でしょう。

いわゆるテレテレテッテ地帯は、微縦連との混合フレーズによって
他の☆10と比較して極めて視認性が低くなっている。
譜面画像はてふたげ(https://textage.cc/)様より

筆者エリクソンは、このように「自然に何かができるというレベルでは満足できない場合」の壁の破り方として、2段階目の練習法、『目的のある練習』を明文化しています。

 

「目的のある練習」の4つの原則

原則一
一、目的のある練習には、はっきりと定義された具体的目標がある

 本では、愚直に練習を繰り返すもののなかなか上達しない音楽学校の生徒を例に挙げて、次のように述べています。

(前略)生徒に次のような練習目標が与えられていたら、彼ははるかに上達していただろう。「課題曲を適切な速さでミスなく最後まで三回連続して弾けること」。そのような目標がないと、その日の練習がうまくいったかどうか判断することもできない。

 ビートマニアでは、例えば

  「七段に合格する」→「サファリを正規or鏡で段位ゲージで突破する」

とより具体的に言い換え、その目標を達成するために

  ①「サファリ開始までに○%ゲージを残す」

  ②「サファリの難所でゲージを保つ」

  ③「サファリの簡単な部分のミスを減らす」

と目標を細分化し、それぞれを具体的に達成するために例えば

  ②ー①「プレイ動画を見てゲージが減っている原因を考える」

  ②ー②「難所を押しやすいオプション・運指を考える」

  ②ー③「難所のリズムを把握する」

  ②ー④「押せていない・見えていないなら同系統の別の譜面も触る」

  ②ー⑤「必要以上に押しすぎているなら思い切ってノーツを間引いてみる」

  ②ー⑥「難所で緊張するならランダムで何度もプレイして曲に慣れる」

……などなど、より定義を明確にして目標を具体的にし、行った練習が目標に対して上手く行ったかどうかを検証できるようにすることが重要です。

 

ここまでお読みになった中には、「当たり前のことを言ってるだけ」「そんなことはわざわざ考えなくても無意識にやってる」と感じる方もいると思います。

 その感覚は正しいと思います。少なくともこの2段階目『目的のある練習』までは、それほど目新しい特別な内容が書かれているとは、私は思いませんでした。

 とはいえ明文化して「4つの原則」のようにまとめられたことは、例えば他人にアドバイスなどを伝える際には効果的ですし、自分だけでもスランプに陥って思考が狭小化しているときなど有効な場面は多いと思います。何よりビートマニア以外に対しても汎用的に役立ちます

 

原則二

二、目的のある練習は集中して行う

 この原則は本当に文字通りですが、得てして弐寺erは選曲画面に入った途端に直前のプレイで考えていたことを忘れがちです。

 その瞬間の気分で好きな曲をプレイするのは全く悪いことではありませんが、「上達のために練習している」と思って投入したクレジットだけでも、「何となくquasar」「何となくAA」で何となく練習した気になるのは控えたいものです。

 真剣にやるなら、ゲーセンに着く前に原則一で提示したようなその日の具体的な課題を決めておき、具体的な練習譜面一覧をスマホに用意しておくのが良いでしょう。そうすれば、プレイ中に次やるべき譜面を考えるような事態も防げます。

 

原則三

三、目的のある練習にはフィードバックが不可欠

 筆者は自身の学生スティーブに対して、ランダムな数字列を暗唱させる課題を出した際のことをこう記しています。

われわれの記憶力の実験では、スティーブは挑戦のたびにシンプルかつ直接的なフィードバックを受けた。記憶は正しかったのか、不正確だったのか、成功したのか、失敗したのか、と。彼は自分の状態を常に理解していたのだ。

 この点はビートマニア含むビデオゲーム全般の良いところで、一曲ごとにリザルトという形で客観的かつ総合的なフィードバックが帰って来ます。

 しかしそのようなフィードバックが十分なものとは限りません。カーネギーメロン大学生であったスティーブの凄いところはここからです。

だが、それ以上に重要なフィードバックは、スティーブ自身の取り組みだった。スティーブは自分が数字の並びのどの部分に手を焼いているのか、じっくり観察していた。正解できなかったときには、なぜ間違えたのか、またどの数字を間違えたのか、たいてい正確に把握していた。(中略)自分の弱みがどこであるかわかっていたために、適切な部分に注意を向け、弱みを解決するような新たな記憶テクニックを考案することができたのだ。

 要するにスティーブは、自身の暗唱結果に対するフィードバックの解像度が高いのです。

 ビートマニアのリザルトは、2分間のプレイ結果をまとめて表示しているだけに過ぎず、押せなかったノーツの押せなかった理由を報告してくれるわけではありません。最近はプレイ中の細かい情報や鍵盤ごとの精度なども(新筐体なら)参照できるようになりましたし、自分でカメラを用意せずとも課金してプレイ動画を保存できるようになりました。

 フィードバックの解像度は、原則一とも極めて深く関係します。目標を細分化するためには、自分の現状を正確に把握する必要があります

 私の例を出すと、最後の未難だったΧ-DENを攻略するためにプレイ動画を撮影したら、決まって卑弥呼地帯の縦連を押し過ぎていることがわかりました。鍵盤の押し過ぎ・皿の回し過ぎに自分の感覚だけで気付くのは難しく、「地力は足りているはずなのに何故か上手く行かない」と悩む要因になりがちです。現に自分も他人にそのようなアドバイスをしたことがあったのに、自分ではプレイ動画を見返すまで気付かなかったのです。

 そういう意味では身近に自分と同程度以上の腕前を持つプレイヤーがいるのは重要かもしれません(後述します)。

原則四

四、目的のある練習には、居心地の良い領域(コンフォート・ゾーン)から飛び出すことが必要

 筆者は4つの原則の中でこれが「最も重要」だと指摘しています。

 先述のなかなか上達しない音楽学校の生徒の話に戻りますが、

(前略)自分にとって勝手のわかった、居心地の良い領域を超えようと努力した形跡が見られない。生徒の言葉からは、すでに楽にできるところを超えて努力することのない、かなり漫然とした練習姿勢が透けて見える。こんなやり方では絶対にうまくいかない。

と、筆者はなかなか厳しい注文を付けています。

 本の中では別の例として、ベンジャミン・フランクリンのチェスの腕前を挙げています。日本でフランクリンは凧を使って雷が電気だと示した実験で有名ですが、政治家、外交官、著述家としても卓越した業績を残しており、アメリカでは100ドル紙幣の顔にもなっています。

 一方でチェスに関してはいわゆる下手の横好きだったようで、

このようにベンジャミン・フランクリンは頭脳明晰で、チェスに何千時間も費やし、当代屈指のプレーヤーとも打ったことがある。では、それによってフランクリンは優れたチェスプレーヤーとなったのか。答えは否だ。(中略)今日の私たちには、その理由がはっきりわかっている。あえてコンフォート・ゾーンから出ようとしなかった、そして上達するのに必要な、長時間にわたる目的のある練習をしなかったためだ。同じ曲ばかり三〇年間弾き続けているアマチュアピアニストのようなものだ。それでは向上ではなく、停滞するのが当然だ。

と、筆者はアメリカ合衆国建国の父を容赦なくバッサリ切り捨てています(アメリカ人にとってフランクリンが偉大なことは説明不要だからかもしれません)。

 

フランクリンも自分が努力していないつもりでは無かったでしょうし、「当代屈指のプレーヤー」と対局するなどの挑戦は行っていたのです。

 一方で、これが真にコンフォート・ゾーンを超えた練習であったかは疑問です。「当代屈指のプレーヤー」には負けるのが当然だと考えられ、言わば胸を借りるだけになってしまうこともありそうです。

 ビートマニアでも、簡単すぎる譜面だけではなく、難しすぎる譜面も練習にならないことがあります。BPが山のように出てゲージが地を這う譜面をプレイして、「やっぱり難しい譜面は難しいな、でも何となく練習になったな」と満足してしまうことは無いでしょうか。

 

コンフォート・ゾーンを超えた、言わば「不快な」譜面というのは、例えば「見えてるのに押せない」や「初めは押せるのに段々押せなくなる」や「覚えないと押せない」といった譜面では無いでしょうか。

 弊サイトCPIでまず初めにリコメンド機能を搭載したのも、そういったコンフォート・ゾーンを超えた譜面たちを一目瞭然にしたいという意図がありました。そのため、リコメンド一覧を見ると生みの親の私も極めて「不快な」気持ちになることがあります。そのような譜面から逃げてはいけないと、頭ではわかっているんですが……。

 

さて、ここまで4つの原則を紹介しましたが、それでもなお「その程度のことは全てやっているが、その上で停滞している」と考える人がいるかもしれません。その人たちは次なる段階の練習法に進む前に、筆者のこの提案を試してみるのも良いかもしれません。

壁を乗り越えるのに一番良い方法は、別の方向から攻めてみること

 数字を暗唱していた学生スティーブの話に戻ります。

ティーブは数字が二二個に達した時点でそんな壁にぶつかった。そのときは四つずつ四グループにまとめてさまざまな記憶術の方法を駆使して記憶し、そこに最後の六つの「リハーサルグループ」を加えるという覚え方をしていた。(中略)だが、最初はどうすれば二二個の壁を越えられるか、どうしてもわからなかった。頭の中で数字を四個ずつ五つのグループにまとめていたが、グループの並び順で混乱してしまったのだ。

 スティーブは新たな方法を自力で編み出します。

最終的に数字三個のグループと四個のグループを併用するというアイデアを思いつき、それが数字四個のグループを四つ、数字三個のグループを四つ、それに数字六つのリハーサルグループを加えるというブレークスルーにつながり、最大三四個まで覚えられるようになった。

 スティーブはその後も壁にぶつかるたびに新たな手法を探し、最終的には82個もの数字列を一回耳にしただけで暗唱できるようになったのでした。筆者のもとに訪れた初めの数日は、7~9個の記憶が限界なごく人並みの成績だったことを考えると、これは驚異的な事実です。

 

ビートマニアの話に戻ると、例えば普段選ばない曲を触ってみる、オプションを変えてみる、姿勢を変えてみる、ウォーミングアップを工夫してみる……などでしょうか。

 また私事になりますが、Χ-DENハードを達成した最も直接的な変更点は、緑数字を278から280に増やしたことでした。とはいえ、同様の工夫は以前に何度か試したことがあり、その際には目立った成果は得られなかったのです。このことから、手当たり次第に新たな手法を試しても効率的ではなく、適切なタイミングで適切な変化を加える必要がありそうだと考えられます。

 

筆者はこの点に関しても、身近な上級者の存在が必要だと強調しています。

(前略)教師やコーチの存在が役立つ理由の一つはここにある。あなたが直面する壁がどのようなものかを、すでに経験している人であれば、その克服法を提案してくれるだろう。ときには壁が精神的なもののこともある。

 私がやった「高難度譜面の攻略で緑数字を増やす」というアプローチも、同様のやり方で上手く行った先達の例をいくつか見たことがあったので、手札として取り出せたというだけです。誰も思い付かなかった新しいアイデアを閃くことはとても難しいです。

 

超一流を目指す「限界的練習」には指導者が必要不可欠

いよいよ「目的のある練習」を越えた3段階目についてですが、結論から言うと現状のビートマニア環境では誰もがアクセスできる練習法ではありません。

 なぜなら、筆者の言に従うと

(前略)限界的練習には、学習者に対し、技能向上に役立つ練習活動を指示する教師が必要だ。当然ながらそうした教師が存在する前提として、まずは他人に伝授できるような練習方法によって一定の技能レベルに到達した個人が存在しなければならない

- 以下、『超一流になるのは才能か努力か?』第四章より、太字は編者

からです。早い話が、楽器・スポーツと同様にレッスンプロの存在が必要だということです。優れたレッスンプロは、前述の「目的のある練習」をさらに洗練させることができ、上級者を超上級者に引き上げることが可能なのです。

 指導を受けるプレーヤーに対して、レッスンプロが常に上級である必要はありません。筆者は本の中で、モーツァルトを熱心に指導した父レオポルト・モーツァルトの事例や、3人の娘を世界的チェスプレーヤーに育て、うち1人は歴史上最強の女性チェスプレーヤーとなった、心理学者ラズロ・ポルガーの例を挙げています。どちらの例でも、子供は親の腕前を十代前半までには追い抜いてしまったそうです。

 

優れた指導者たる秘訣は本書の核心部分ですし、一般プレーヤーの多くには関係が薄い部分なので本記事では割愛しますが、筆者はレッスンプロのいないような分野においても

最高のプレーヤーを特定し(中略)、それほどの成果をあげられたのはなぜかを調べ、同じ能力を身につけるための訓練方法を考案すればいい。レッスン内容を考えてくれる教師役はいないかもしれないが、過去のエキスパートが本やインタビューで語っているアドバイスを参考にすることはできる。

 とトッププレーヤーから学ぶことの重要性は強調しています。

 ここで重要なのは、トッププレーヤーの言うことをそのまま真似したり、全く同じ練習法を行うわけではない点だと思います。必要なのは、あくまで「同じ能力を身につけるための訓練」です。

 例えば、別の音ゲーでトッププレーヤーになった後、ビートマニアも触れるようになってそちらもトップになった人の練習法は、多くの人にとってそのまま真似られるものでは無いはずです。全てのプレーヤーにおいて、身長・手の大きさ・筋肉の付き方・楽器や音ゲー経験などなど、背景は十人十色なことに注意する必要があります

 

この点において避けられないのが才能と努力の議論でしょう。この本の筆者エリクソン教授はほとんど全ての能力は努力で説明可能だという立場ですが、個人的にはそれはエンジニアの言う「技術的には可能」と同レベルの話だと感じました。

 もちろん人生を捧げて取り組む上では「技術的には可能」なことは何でもやるべき、ということになるとは思いますが、多くのプレーヤーにとってはビートマニアはあくまでゲームなので、実生活に決定的な影響が出ない範囲でやっていくのが現実的なところだと思います。毎日5時間欠かさずにプレイすることが必須だという計画を立てたとき、それを実行しながら社会生活が問題なく送れるのなら、それはもう恵まれた環境という意味で才能があると言って差し支えないのでは無いでしょうか。

 

そういう意味でも、今後もビートマニアのレベルが上がっていき、それに従って初心者の裾野も広がっていくことを望むのであれば、より多くのプレーヤーがより効率的に一定の目標に到達する上で、ビートマニアのレッスンプロ制度が生まれていくことが重要だと感じます。

 例えば一週間おきに一時間ずつゲーセンでの直接指導とオンライン面接を受け、数ヶ月程度の期間で一定の目標達成を目指すようなレッスン体系ができて、指導者の質KONAMI公式などが担保するような仕組みです。もちろん、BPLスポンサー等の有効活用があるとなお良いと思います。

 

最後に

私がCPIを世に出して以降も、上達を望むプレーヤーがより効率的に上達するためのツールが、ビートマニアにはまだまだ足りていないことを痛感しています。

 私はこのゲームが(実生活に決定的な影響が出ない範囲で)大好きですし、その要因には音楽の素晴らしさ・音に合わせてデバイスを操作する楽しさ、だけでは語り尽くせない点があると考えています。それはまさに、公式の言う「過去の自分より上手くなる。beatmania IIDXの本当の面白さは、ここから始まります。 」に他なりません。

 IIDX20の頃にはゲーセンに通うようになっていましたが、IIDX30を次回作に控えたビートマニアではプロリーグの設立とともに、上級者・超上級者が練習方法を共有しやすい空気感が醸成されてきたと感じます。私はIIDX40を真剣に楽しみにしています(その頃も今と同じ程度にプレイを続けているかは別として)。

 初心者・初級者・中級者プレイヤーの増加という観点からも、レッスンプロ制度の整備が真剣に検討されるといいなと願ってやみません。

 

上記記事内容に関連して、これまでのビートマニア歴で考えたこと・取り組んだことに関するインタビューに答えてくださるトッププレーヤーを探しています。このような区切り方を私がするのは大変おこがましいですが、クリア力・スコア力のどちらかで概ね世界100位前後までに該当する方であればより望ましいです*2

 インタビューにご協力くださる方や、本記事についてのご意見・ご感想のある方は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでご一報をお願いします。


それでは、良き音ゲーライフを。

*1:詳しくは別記事にて紹介したいと思っています

*2:この記事を書いている私は☆12の総合BPI・総合CPIでともに推定500位台程度です

「やってないだけ」を見つけ出す~IIDX難易度推定の再改良~

記事内容の要約

  • CPIの難易度推定で利用しているモデル方程式に、新たなパラメータを追加することで、クリア割合・適正CPIの予測精度が向上しました。
  • 追加したパラメータを譜面ごとに比較することで、CPIとクリア割合の分布が特徴的な譜面を抽出することができました。
  • 抽出された譜面の<特徴>は、プレイヤーの平均試行回数が譜面ごとに大きく異なっている事実を反映していると予想されます。
  • これにより、クリア状況のみから難易度推定を行う上での従来の弱点であった、「プレイヤーの試行回数を予測に利用できない」点をある程度克服できた可能性があります。

 

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 

前回記事から引き続き、CPIのクリア割合・適正CPIの予測精度向上に向けて、モデル方程式の改良を試みていました(本記事を読むにあたって、前回記事を未読でも問題ないと思います)。

 

現行モデルは対称性を前提としている

現行のモデル方程式である(2パラメータ)ロジスティック方程式

{ \dfrac{1}{1+e^ {-\left( a+bx\right) }} }

において、xに入るものは説明変数*1であり、CPIではプレイヤーの総合CPIが対応します。

 

まずは現行のモデルにおけるパラメータa,bの挙動を確認してみます。

以下のグラフは縦軸にクリア割合、横軸にCPIをとり、図中央の横線がクリア割合50%となります。グラフと横線の交点が適正CPIに相当します。

CPIではaが大きくなる=適正CPIが低くなるという関係になります。

 

同様にbが大きくなる=個人差度が小さくなるという関係になります。

 ここで重要なのは、現行の式ではグラフがy=0.5に対して常に対称であるという点です。すなわち、クリア割合が10%→20%に上がるまでのCPIの変化量と、80%→90%までの変化量が等しくなるということです。

現行の式では、パラメータに依らず全ての曲線は上端と下端で傾きが等しくなっている。

このような対称性の前提を置いても、プレイヤーの腕前が正規分布*2のように左右対称に分布していれば問題ありませんし、実際多くの譜面ではそれなりに正しく予測ができています。

クリア割合の実測値を表した100%積み上げ縦棒グラフ。
1つの縦棒がCPI10に相当し、赤がクリア達成、青がクリア未達成。
黒い曲線は現モデルによる予測を表す。

一方で前回記事でも述べたように、必ずしも上記の前提に当てはまる譜面ばかりではありません。特に、難易度が極端・譜面の癖が強い・LEGGENDARIAなどで非対称性が顕著になる傾向があります。

 

非対称性を表現できる新モデル

そこで非対称なグラフも表現できるよう試行錯誤した末に、新たなパラメータc*3を追加することにしました。

パラメータcを追加した新モデルの方程式がこちらです。

{ \dfrac{1}{\left( 1+e^ {-\left( a+bx\right) }\right) ^ {c}} }

現モデルの分母全体を底とする指数関数の形をとります。

 

a,b同様にcを変化させて、グラフの動きを見てみます。

cを大きくするとグラフの「立ち上がり」が急になり、逆に小さくすると「立ち上がり」がなだらかになっています。

 若干わかりにくいので、cと一緒にbも動かして、適正付近での傾きを揃えて比較してみます。

 適正CPI付近での傾き=個人差度が同じでも、cが大きくなると低クリア確率の領域ではグラフの傾きが大きく、cが小さくなるとその逆になっています。具体的には、クリア割合が10%→20%に上がるまでのCPIの変化量と、80%→90%までの変化量が異なっているということです。

 

このように、パラメータcを追加したことで、非対称なグラフが表現できるようになりました。

赤い曲線はパラメータcを含む新モデルによる予測を表す。
(現モデルの予測と比較して)高CPI帯でクリア割合が高くなっていることが
上手く表現できており、それに伴って適正CPIも上方修正されている。

 

このように新たなパラメータを導入した新モデルが、実際にどの程度だけ予測精度を向上させたのか確かめてみます。

 新モデルと現モデルを逸脱度(deviance)*4という指標で比較したものが次のグラフです。逸脱度が大きい≒新モデルの方が優秀な場面もそれなりにありそうだとわかります。

有意水準を0.05とした場合、対象425譜面*5クリアタイプ=2125ランプのうち
およそ3割にあたる638ランプで新モデルが有意となった。

 

新モデルの特徴

具体的にどのような譜面で変化が大きいのかを確かめてみます。

 まずはHARD CLEARについて、パラメータc*5が大きい譜面を10個示します。

 cが大きい譜面はソフラン・LEGGENDARIAなどが選ばれており、どちらかと言えば選曲が避けられる傾向のラインナップに感じられます。

いくつかピックアップしてグラフを確かめてみます。

特にFire Beatで顕著ですが、(適正と比較して)高CPIプレイヤーのクリア割合が低くなっており、このことが現モデルと実際のクリア分布との乖離を生んでいるようです。

 上で予想したとおり、腕前的にはクリアできるのにプレイしない=選曲を避けているプレイヤーが一定数いる、という傾向を見ていそうです。LEGGENDARIAはシステム上で選曲に制限がありますし、Fire Beatは記事執筆時点では通常解禁が困難なはずなので、どちらもプレイ回数が平均より少なくなることは充分にあり得そうです。

 

同様にHARD CLEARについて、パラメータcが小さい譜面を10個示します。

 cが小さい譜面は未難一桁に残るような超高難易度かつ地力譜面、あるいは低難易度かつ昔からある皿譜面(SCREAM SQUAD、TROOPERS)が選ばれています。

 こちらもグラフで確認します。

(適正と比較して)低CPIプレイヤーのクリア割合が高くなっていることがわかります。卑弥呼・Verflucht [L]などは超高難易度の地力譜面として広く知られており、明らかにハード狙いのプレイ回数が増えそうな譜面です。

 一方でTROOPERSやSCREAM SQUADなどは、皿譜面が得意なら相対的に簡単になることが広く知られており、難易度的には☆12の中でも低いため、こちらもハード狙いのプレイ回数が増えそうだと推測することができます。

 グラフを見比べると、現モデル(黒線)から新モデル(赤線)への変化の仕方が、卑弥呼・Verflucht [L]では高CPI帯のクリア割合を上げる方向なのに対して、TROOPERSでは低CPI帯のクリア割合を挙げる方向になっています。これは、クリア状況のモデルへの当てはめがプレイヤー数の影響を受けているため、プレイヤー数の多いCPI1600前後の当てはめが最も良くなるようにモデルが生成されるためです。この辺りも今後の予測精度向上のヒントになるかもしれません。

 

モデル変更によってハード適正CPI順位が変化した譜面を、上位50譜面から抽出してまとめました。

新モデルで上方修正となった(赤ハイライトの)譜面はいわゆる”地力譜面”、下方修正となった(緑ハイライトの)譜面はいわゆる”個人差譜面”が多くラインナップされていそうです。

 

他のクリアタイプについても、同じように見てみます。

(フルコンは極端な数値をとる譜面が多いため割愛します)
各クリアタイプで概ね、cが大きい譜面は(適正CPI・個人差度に比して)選曲回数が少なさそうな印象を受けます。

 また、表のパラメータc=0のとき現モデルと新モデルの差が無いことになりますが、cが大きい方には10を超えるような値となるのに対して、小さい方には(黒イカEXHを除いて)たかだか-1点台にしか届いていません。すなわち、cは大きい方に動きやすいパラメータだと考えられます。

 

追加したパラメータの意義

次に、パラメータcの意味について考えるために、モデル式とプレイ回数の関係を確かめてみます。

 ある譜面のクリア確率がp\left( x\right)のとき、その譜面における全プレイヤーの平均プレイ(厳密にはランプ更新を試みた)回数がn倍になると、クリア確率を表す式は

1-\left( 1-p\left( x\right)\right) ^{n}

となります。このp\left( x\right)に現行のモデル式を代入し変形すると、

1-\left( 1-p\left( x\right)\right) ^{n}=1-\left( 1-\dfrac{1}{1+e^{-\left( a+bx\right) }}\right) ^{n}
=1-{ \dfrac{1}{\left( 1+e^ {\left( a+bx\right) }\right) ^ {n}} }

と、微妙に違ってはいますが、分母の肩にパラメータcを追加した先ほどのモデル式とよく似た形になりました。

 グラフでもnの挙動を確認してみます。

 cを動かしたときとは上下左右が入れ替わっていますが、パラメータを変化させるほどグラフの非対称性が強まっていく点は共通しています。

 nを大きくすると、グラフは左方向へ動き、傾きは急になっています。これは、各プレイヤーの試行回数を増やすことによって予想される変化(適正CPIは低くなり個人差度も小さくなる)と一致しています。

 数学的な論証を全部省いてしまいましたが、まとめると新モデルに追加した新パラメータは譜面ごとの平均プレイ回数の違いを反映していそうだということになります。

 そう考えると、先述したcが大きい方に動きやすいという傾向は、nとcが逆方向に動くパラメータであることを踏まえて、「平均プレイ回数が極端に少ない場合と比較して極端に多い場合は起こりにくい」と解釈することができそうです。

 

実際には、譜面ごとの平均プレイ回数がプレイヤーのCPIに依らず一定とは考えにくいため、nにあたるパラメータも定数ではなくxの関数と考えるのが自然です。

 そのため、新たなパラメータを1つ増やしただけで、プレイ回数の違いによる効果を完全に説明することはできないと考えられますが、クリア状況のみから難易度推定を行う上での従来の弱点をある程度克服できたと言えるのでは無いでしょうか。

 

記事内容の要約(再掲)

  • CPIの難易度推定で利用しているモデル方程式に、新たなパラメータを追加することで、クリア割合・適正CPIの予測精度が向上しました。
  • 追加したパラメータを譜面ごとに比較することで、CPIとクリア割合の分布が特徴的な譜面を抽出することができました。
  • 抽出された譜面の<特徴>は、プレイヤーの平均試行回数が譜面ごとに大きく異なっている事実を反映していると予想されます。
  • これにより、クリア状況のみから難易度推定を行う上での従来の弱点であった、「プレイヤーの試行回数を予測に利用できない」点をある程度克服できた可能性があります。

 

本記事についてのご意見・ご感想は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでお願いします。


それでは、良き音ゲーライフを。

*1:結果(ここではクリアの可否)を説明する変数

*2:ロジスティック回帰では正規分布によく似て計算のしやすいロジスティック分布を前提とします

*3:5パラメータロジスティック方程式(Gottschalk, Paul & Dunn, John. (2005))を変形したものです。

*4:わかりやすく説明されているサイト

clover.fcg.world

*5:わかりやすさのために表ではln(c)を示しています

適正CPIの精度を上げるために新しい推定方式を検討した話

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 先日CPIの登録ユーザー数が4000人を超えました。日頃のご愛顧に感謝いたします。今回の記事はCPIの難易度推定に大きく関わる話題です。

 

CPIにおける「適正CPI」

CPIで推定している様々な項目のうち、いわゆる譜面難易度に相当するものは「適正CPI」です。ここではクリア割合が50%であることを「適正」と呼んでいます。

 具体的に、Boomy and The Boost*1のHARD CLEARについて、プレイヤーのクリア状況をグラフにしてみます。

f:id:rice_Place:20220109085520p:plain

 総合CPIを20ごとに区切り、該当するプレイヤーのクリア割合を100%積み上げグラフで示しています。クリア割合が最も50%に近いのは、総合CPIが1610~1630のプレイヤーであることがわかります。つまり、適正CPIは1610~1630の範囲内にあることが推定されます。

 より正確な値を知りたいと思い、総合CPIを区切る幅を狭くしてみたらどうでしょう。CPI幅を5にしたグラフがこちらです。

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 ご覧の通り、CPI幅20のグラフと比較して赤(ハード未達成)と青(ハード達成)の境界がギザギザしていることがわかります*2。これではクリア割合が50%に最も近いCPI帯がいくつか決めかねてしまいます。

 

これを解決するためには、全体の状況をいい感じに近似できるような式を探して、クリア割合が50%となるCPIの値を数値的に求めるのが良さそうです。

 そのためのモデル式として、CPIではロジスティック方程式を採用しています(詳細は後述)。

 先ほどのグラフに式を当てはめたものがこちらです。

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 黄色いS字が当てはめた式の描く曲線です。赤と青の境界の中間あたりを良い感じに通過していることがわかります。これで適正CPIが1624.69とわかりました。

 

ここまでは現在の推定方式についての確認でした。少なくともBoomy and The Boostのハード難易度に関しては、推定された適正CPIが実際のクリア状況とよく対応していそうです。

 一方で、推定が上手く行くのは、「全体の状況をいい感じに説明できるよう」に探してきたロジスティック方程式が、実際のクリア状況を表すものとして適切な場合に限られます。

 

適正CPIは本当に適正か?

ロジスティック方程式による確率推定は、社会学・経済学・生物学・医学などなど幅広い分野で古くから使われているもので、近い所では発狂BMSの難易度推定でも使用されています。

 確率0%(事象が全く発生しない)から確率100%(事象が必ず発生する)にかけて、滑らかにS字を描くのが特徴であり、実社会に起こる出来事をモデル化するのに適していると言われています。

 一方でこのモデルにはいくつかの前提があり、例えば確率50%を境に対称であることは重要です。これはロジスティック方程式の描く曲線が点対称であるためです。

 弐寺においても、全てのプレイヤーがその時点で持てる全力でランプを点灯させようと努力したと仮定すれば、上記の仮定は成り立つと考えられます*3

 

しかしながら弐寺のクリア状況においては、譜面の難易度・個人差度および解禁の有無といった条件のために、必ずしも確率50%を境に対称とならない場面は存在します。

 具体例としてSinus Iridumのイージーのクリア状況を見てみます。

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 説明のために先ほどまでとグラフの体裁を変えています。該当CPI帯におけるクリア割合は水色の縦棒が表し、該当CPI帯におけるプレイ人数は灰色の縦棒が表します*4

 グラフを見てみると、クリア割合が低いCPI帯と高いCPI帯のそれぞれで、実際のクリア状況よりも高めにクリア割合を推定しているようです。逆にクリア割合が50%に近いCPI帯では低めにクリア割合が推定されており、水色の縦棒がクリア割合50%(黒の横線)の高さに近くなるCPI帯よりも、推定される適正CPI(黒丸)は右の方に位置しています。つまり、クリア割合が50%となるような実際のクリア状況と比較して、適正CPIが高めに推定されているように見えます。

 同じような傾向の譜面をいくつか示します。

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今度は同じSinusのハードを見てみます。

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 イージーとは反対に、クリア割合が低い・高いCPI帯では実際より低めにクリア割合を推定しており、適正CPIも実際より低めに推定されているように見えます。

 こちらも同じような傾向の譜面をいくつか示します。

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f:id:rice_Place:20220109140820p:plain

 

新しい多項式モデルの導入

ここまでのように、少なくとも一部の譜面のクリア状況は理想的なロジスティック曲線から乖離していることがわかりました。

 クリア確率の予測精度を上げるためだけであれば、総合CPIとは別の新たな特徴量を探すという手もありますが、その場合は(一次元の)難易度推定が出来なくなり、譜面同士の比較が難しくなってしまいます。

 上述のグラフを見ても総合CPIとクリア割合にある程度の相関があるのは確かなので、当てはめる曲線そのものの形を改良するのが良さそうです。

 具体的に、現行のロジスティック曲線は

\displaystyle{ \frac{1}{1+e^{-(a\times(CPI)+b)}} }

と表されますが、これを

\displaystyle{ \frac{1}{1+e^{-(a\times(CPI)^2+b\times(CPI)+c)}} }

と総合CPIの2次式にしてみます。イメージとしては、元々のロジスティック曲線が(クリア割合50%の部分で)曲線の動きを1回だけ変えることができるのに対して、2次式を導入すると曲線の動きを2回変えられるようになる、というところです。

 曲線の様子をグラフにしたものがこちらです。

f:id:rice_Place:20220109144926p:plain

 グラフのとおり、2次式を導入したことで「クリア割合が低い・高いCPI帯では高めにクリア割合を推定する」といったより複雑なクリア状況の再現ができるようになりました。

 同様に3次式のグラフも見てみます。

f:id:rice_Place:20220109151913p:plain

 曲線の動きを3回変えられるようになり、より複雑な曲線を描けるようになりました。

 このまま4次式、5次式、……と次数を上げていけば精度も上がって行きそうに見えますが、実際には不必要に複雑なモデルを選択すると手元のデータに過剰に当てはまってしまい、手元にないデータを予測する際の精度が低下することが知られています(no-free-lunch theorem)。

 前述のクリア状況のグラフのように、「低CPI帯ではクリア確率が上がり、中CPI帯では下がり、高CPI帯ではまた上がる」といったクリア状況は実際に存在するようなので、今回は上限を3次式までとすることにしました。

 

実際に先ほどピックアップした譜面で確かめてみます。

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 1次元だけの時と比べて、より柔軟に当てはめられていることがわかります。それに従って適正CPIの推定値も変化しています。

難易度推定の対象となる全譜面・各クリアタイプについて、同様の推定を行いました。

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適正CPIの変化量のヒストグラム
全体の93.5%は変化量が10以内だった。

 新方式で適正CPIが下がった譜面トップ20がこちらです。

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 個人的な印象としては、それなりに対策が必要かつ難しそうな譜面が揃っており、何となく手を出しにくいラインナップに感じられます。

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減少量が全体1位だったGo Beyond!!エクハのグラフ。
新方式では高CPI帯でのクリア割合が(現行と比べて)低く推定されている。

 反対に新方式で適正CPIが上がった譜面トップ20がこちらです。

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 こちらは積極的に狙う人が多い超高難度の譜面が選ばれていそうですが、フルコンに関してはその限りでは無さそうです。フルコンはサンプル数の少なさや、クリアゲージに関わらずランプが点く仕様などから、他のクリアタイプと比較して著しく個人差が大きくなります。そのため(適正CPIと比べて)低CPI帯の挙動に大きく影響されると考えられ、より柔軟な曲線への当てはめの結果として適正CPIが上方に修正されたと考えられます。

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「個人差度」の再定義

良いことづくめに見える新推定方式ですが、複雑な曲線を描けるようになった代償として、解釈がわかりにくくなったというデメリットがあります。

 以前こちらの記事で述べましたが、現行方式ではロジスティック曲線の「傾き」の逆数を「個人差度」と定義する*5ことで、純粋な難易度情報とは別に、いわゆる地力譜面(総合CPIとクリア確率の相関が強い)と個人差譜面(相関が弱い)の違いを知ることができました。いちいちグラフを参照しなくとも、2種類の数字だけでクリア状況の様子をうかがえるということです。

 

ところが2次式・3次式となると話はそう単純ではありません。曲線の動きが途中で複数回変化するために、単に曲線の「傾き」を見るだけでは、グラフの全体像を把握することができなくなります。

 具体的には、2次式を把握するためには3種類の数字が、3次式を把握するためには4種類の数字が必要となります。

 個人的には(少なくとも難易度表に表示させる分については)指標のさらなる複雑化は避けたいです。そのため、例えば適正CPIの他にクリア確率25%CPI・75%CPIを計算し、それぞれを信頼区間のような形で表示させるといった案を考えています。

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適正CPIの「信頼区間」の表示案
上が現行方式(適正CPI±個人差度)、下が新方式

 

まとめ

・クリア状況の分布が対称とならない一部の譜面について、適正CPIの推定値と実測値にズレが生じることがある。

・難易度推定に使用する関数を工夫することで、一部の譜面では実際のクリア状況に近付けた推定を行えるようになった。

・関数が複雑化した反面、個人差度などの指標は解釈が従来どおりでなくなるため、新たな指標案を考える必要がある。

 

参考にしたサイト様

funyakofunyao.click多項式回帰のメリット・デメリットについてわかりやすく説明されています。

 

本記事についてのご意見・ご感想は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでお願いします。


それでは、良き音ゲーライフを。

*1:ビートマニアで一番いい曲。データに基づかない意見です

*2:白く抜けている部分は該当するプレイヤーが存在しなかったCPI帯

*3:厳密にはプレイヤーの実力分布などに関しても前提条件があると思われます

*4:式の当てはまりをプレイヤー全体に最適化する過程で、CPI帯ごとのプレイ人数の多寡は重要となります

*5:正確には、前述の式

\displaystyle{ \frac{1}{1+e^{-(a\times(CPI)+b)}} }

における

\displaystyle{ \frac{1}{a} }

で表されます。

「地力Sを何曲ハードしたら皆伝に合格できるのか?」を調べてみた+皆伝チャレンジ課題譜面リストを作ってみた

※2021/10/11 一部追記しました

 

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

 

IIDX28 BISTROVERも残すところあと数日となりました。次回作に向けて、上の段位を目指す/現段位を維持するといった目標を立てているプレイヤーも多いと思います。

 ところで皆伝受験の目安として、「地力○が×曲埋まったら受けてみる」といった目安を決めている方もいるのではないでしょうか。

 今回はプレイヤーデータから、地力表の埋まり具合と段位合格の具体的な関係を探り、そこから改良を加えて皆伝合格の指標となる課題譜面リストを考えてみました。

 

なお、以前こちら↓の記事で、皆伝取得に必要な譜面要素を考察しましたが、

今回は具体的に「どの譜面を何曲クリアしたら何割の確率で受かるのか?」を調べていく記事になります。興味のある方は↑の記事もあわせてご覧ください。

 

地力Sを何曲ハードしたらどれくらいの確率で皆伝に合格できるのか?

まずは記事タイトルどおり、地力Sについて調べてみます。

<前提条件>
 対象プレイヤー:IIDX28 BISTROVERで2021年8月時点で中伝or皆伝を取得していた公開プレイヤー、うちアクティブ度の高い半数を抽出(詳細は上記記事参照)
 対象譜面:対象プレイヤーの8割以上がプレイ済の譜面、「地力○/個人差○」は記事執筆時点の☆12参考表を参照

【ハード地力S対象譜面】全11譜面
Almagest、Confiserie、Elemental Creation、EMERALDAS、perditus†paradisus、Sigmund、駅猫のワルツ、焔極OVERKILL、共鳴遊戯の華、嘆きの樹、煉獄のエルフェリア

【対象プレイヤー】<前提条件>+上記11譜面すべてをプレイ済のプレイヤー

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割合で示した方のグラフを見ると、クリア譜面数が増えるのにしたがって皆伝の割合も増えることがわかります。(対象11譜面中)3譜面ハードで中伝と皆伝の人数がほぼ均等になるようです。

ところで、皆伝には連皿・ソフランなどの個人差要素が多く含まれており、個人差譜面のクリア力も当然問われることが予想されます。

 

ということで、個人差Sに関しても同様に調べてみます。

【個人差S対象譜面】全8譜面
BLACK.by X-Cross Fade、Dynamite、ECHIDNA、Fascination MAXX、Level One、NZM、The Chase、THE PEERLESS UNDER HEAVEN

【対象プレイヤー】<前提条件>+上記8譜面すべてをプレイ済のプレイヤー

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個人差Sに関しても地力Sと同様に、クリア譜面数とクリア割合には正の相関がありそうです。8譜面中3~4譜面ハードで皆伝合格率は50%となります。

 

指標の”優秀さ”の定量

さて、ハード地力S・個人差Sの埋まり具合と皆伝合格率には一定の関係があることがわかりました。

 ここで疑問となるのは、地力Sと個人差Sのどちらを参考にするべきか、はたまた両方を参考にした方が良いのか、という点です。

 何をもって「参考になる」と考えるかは簡単な問題ではありませんが、このような問題に関してよく使われる指標にAUC*1というものがあります。

 細かい説明は割愛しますが、今回の記事にあたっては
 ・ある指標における2つの群(今回は中伝と皆伝)の”分離”具合を表す
 ・最高が1(2つの群が完全に分離)、最低が0.5(2つの群がランダムに入り交じる)、0.9を超えたらかなり良い指標
という点を抑えていただければ充分だと思います。

 

AUCを計算してみると、地力S:0.894、個人差S:0.881、地力S&個人差S:0.904となり、地力Sと個人差Sは両方を参考にしたほうが良いことがわかりました*2

 地力S&個人差Sのグラフは以下のようになります。

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 対象19譜面のうち、7譜面ハードで合格率50%、14譜面ハードで合格率80%となります。

より使いやすい指標を探す

さて、ハード地力S&個人差Sが皆伝合否の良い指標となりそうなことがわかりました。

 一方で、☆12は今作で410譜面を数え、その中で中伝・皆伝の8割がプレイ済の譜面は300以上あります。地力・個人差S以外の譜面についても上手く探せれば、指標としてより優秀な課題譜面リストを見つけることができそうです。

 すべての可能性を試すには総当たりすればいいですが、たった5譜面のリストでも300^5≒2兆通り以上の組み合わせを見に行く必要があります。手元のPCでは厳しいものがあるので、今回は「候補から1譜面ずつ抜いてAUCを比較し、最もAUCが高かった譜面(=指標への寄与が最も小さい譜面)を除く」操作を繰り返すことで、より少ない譜面数でより高いAUCを持つリストを探すことにしました。

 

出力された候補トップ10がこちらです。

譜面数 譜面名 地力・個人差S
計19譜面とのAUCの差
1 シムルグの目醒め -0.096
2 + EMERALDAS -0.025
3 + quell~the seventh slave~ -0.015
4 + Fascination MAXX -0.005
5 + 3y3s +0.000
6 + GuNGNiR +0.003
7 + JOMANDA +0.005
8 + お菓子の王国 +0.006
9 + 華麗なる大犬円舞曲 +0.007
10 + Level One +0.007

 上手く選んでやればたったの5譜面で、地力・個人差S計19譜面と同等の指標を作れることがわかりました。

 ちなみに1位のシムルグの目醒めは、前述の記事でも皆伝合否との相関が最も高い譜面に選ばれています。異なるアプローチで結果が一致するのは驚きです。

 

トップ5を課題譜面として今までのようにグラフを作ってみます。f:id:rice_Place:20211009171211p:plainf:id:rice_Place:20211009171216p:plain

視覚的にもそれなりに分離できていることがわかります。

 一方で、ハード譜面数1→2で皆伝合格割合がガクッと増えているのが見て取れます。 原因として、シムルグ・quellの2曲とEMERALDAS・FAXX・3y3sの3曲との間に結構な難易度差があることが考えられます。

譜面名 ☆12ハード参考表 ハード適正CPI / 個人差度
quell~the seventh slave~ 地力A 1634.54 / 26.16
シムルグの目醒め 地力A+ 1696.90 / 33.67
EMERALDAS 地力S 1816.87 / 64.52
Fascination MAXX 個人差S 1840.50 / 110.11
3y3s 地力S+ 1823.12 / 69.16

 

そこで、GuNGNiR(地力A+、1700.09 / 34.71)+ JOMANDA(個人差A、1709.37 / 40.54)も含めたトップ7まで入れたものもグラフ化してみます。f:id:rice_Place:20211009191220p:plainf:id:rice_Place:20211009191223p:plainトップ5譜面と比べてAUCの差は殆どありませんが、各譜面の難易度勾配がなだらかになったことで、割合グラフの”階段”が緩やかになりました。モチベーションの観点からはこちらの方が良い指標かもしれません。

ハード譜面数 皆伝合格率
0 3.0%
1 13.2%
2 29.9%
3 46.1%
4 66.2%
5 79.9%
6 90.5%
7 94.8%

 この指標では、地力・個人差S未満であるquell・シムルグ・GuNGNiR・JOMANDAを全てハードした場合、皆伝合格率は66.2%になります。

 一方で、前述の地力・個人差S計19譜面による指標では、ハード譜面数0の合格率は5.5%となり、両指標の推定値には大きな開きがあります。

 実際にはquell・シムルグ・GuNGNiR・JOMANDAを全てハードしているプレイヤーの多くは、何だかんだ地力Sにも何譜面かハードが点いていると考えられるため、この推定値の差にはあまり大きな意味はありません。すなわち、地力S未満のハードが増えると、地力S以上のハードも増えがちということです。

 このことを皆伝合否とクリアランプ指標との関係に当てはめて再確認すると、示されるのは「指標の課題譜面を多くクリアしているプレイヤーは、皆伝に合格している確率が高い」という相関関係であり、決して「指標の課題譜面を多くクリアすると、皆伝に合格する確率が高くなる」という因果関係ではありません。とはいえ、「ハード0譜面なら地力不足で時期尚早」「全譜面ハードならあとは対策次第」といった大まかな基準には充分使えると思います。

 

このように分類指標の評価方法は一次元ではなく、精度・使いやすさ・頑健さといった様々な点を加味しながら、組み合わせて選んでいく必要があります。

 ぼくのかんがえたさいきょうの指標を探して、これからも色々な方法を試していこうと思います。

 

まとめ

・ハード難易度表 地力/個人差Sの埋まり具合と皆伝合否にはそれなりの相関がある

・地力/個人差Sを4割弱ハードすると皆伝合格率は50%に、7割強ハードすると合格率80%になる

・☆12から上手く5譜面(シムルグの目醒め+EMERALDAS+quell~the seventh slave~+Fascination MAXX+3y3s)を選ぶと、地力/個人差Sに匹敵する性能の皆伝合否指標になる

 

余談

・記事を書く前にハード以外の全てのクリアタイプに関しても実験しましたが、上位は一部を除いてハードランプばかりが占める結果になりました。

・十段vs中伝で同様のことを試すと、いわゆる「十段止め」プレイヤーの影響を強く受けて解釈の難しい結果になりました。一方で九段vs十段はそれなりに納得の行く結果が出たので、需要があれば追記したいと思います。

・段位指標に関する統計的な考察はこちら↓により詳しいものを寄稿しております。
この記事についてのご意見・ご感想は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでお願いします。


それでは、良き音ゲーライフを。

*1:ROC AUCとも。より詳しい説明はこちら↓

qiita.com

*2:とはいえ大した差ではありません。今回の記事におけるAUCの定量的な意味は、「中伝・皆伝からそれぞれランダムに1人を選んだとき、後者の方がクリア譜面数が多くなる確率」です。AUCの差が0.01なら、その確率が1%変わるということです。この差が有意なものか否かを検定する方法もありますが、仮定が複雑になるため今回は行わないことにします。

アケコン用の防音ボックスをDIYした話

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

 

このブログではIIDXの難易度推定にまつわる記事を公開して来ましたが、今回は趣向を変えてアーケードコントローラー用の防音ボックスをDIYした話をしたいと思います。

 

きっかけ

集合住宅への転居を機に、ある程度の防音ができるIIDXプレイ環境を整備しようと思い立ち、気になっていた簡易防音室をいくつか調べてみたところ、立ち環境を完全に覆えるサイズのものは最低でも10万円以上すること、加えて換気が不十分でPC等を持ち込むと相当な暑さになることがわかりました。音ゲーなどしようものなら熱中症になる未来が見えます。

 別の選択肢として、部屋の壁全体を防音効果のある素材で覆うことも考えましたが、ごく一般的なワンルームでも相当なコストと手間が掛かることがすぐにわかりました。そもそも賃貸物件なので可能な工事はごく限られています。

 

そんなあるとき、以前にこんなツイートを見掛けたことを思い出しました。

  引越したばかりなのでダンボール箱は無限に余っており、すぐにIIDXアケコンPHOENIX WAN)で試してみたところ、確かにそれなりに打鍵音が小さくなったように感じられました。

 

一方プチプチは手元に無かったので、代用できそうな素材を調べてみると、こちらのサイトを見つけました。

www.tamusguitar.com 非常に情報量の多い素晴らしいページです。必要そうな情報をまとめると、防音には吸音、遮音、制振といった要素があり、それぞれの目的に対して適している素材があるようです。ちなみにダンボールは買うほどではないが若干の防音効果がある素材として紹介されていました。

 

素材探し

防音の基礎知識についてより詳しくまとめられているのがこちらです。

www.bouon.jp

防音対策には、吸音材、遮音材、防振制振材を組み合わせることが大切です。

<例> 隣家に漏れる音を減衰させる場合

音源側に吸音材を置く → 室内の音を吸音し、音を小さくする
外側に遮音材を置く  → 音が外へ漏れるのを防ぐ

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今回の目的に合わせるなら、遮音効果のある箱を用意して吸音効果のある素材で内側を覆えば良さそうなことがわかります。

 

先ほどのページで木製の板(ベニヤ板など)は扱いやすく遮音効果の高い素材として紹介されていたので、PHOENIX WAN(8*52*27cm)が入るサイズの木箱を探しました。

item.rakuten.co.jpアフィリエイトではありません

 

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注文時は1370円(税・送料込)

 中古のりんご箱には一定の需要があるようで、いくつかのサイトが通販で扱っていました。もちろん新品を購入したり、一から作っても良いと思います。どちらにせよ注文する前にプレイの邪魔にならない大きさを確かめておきましょう。記載の寸法に加えて吸音材を敷き詰めることを考えた余裕を取っておく必要があります。

 

次に吸音材ですが、ウレタンフォームが最適のようだったので、探してこちらを見つけました。

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※こちらもアフィリエイトではありません

 

複雑な空気の層に衝突することで音のエネルギーが熱へと変換される、というのが吸音材の原理なようで、波型のカッティングは表面積を増やしてそれを助けてくれるようです。

 その観点では、液体や気体を通す「連続気泡」の構造が重要であり、プチプチ・発泡スチロール・硬質ウレタンフォームといった「独立気泡」の素材は吸音材として使用することができないそうです

 また、市販されているスポンジも多くはウレタンフォーム製なので代用可能ですが、体積あたりの単価はそれほど安くないので注意してください。

 

組み立て

素材はそれぞれ数日で届きました。

 注文したりんご箱は予想よりも綺麗でしたが、隙間やささくれ等は結構ありました。中古品を使う場合は最低でも紙ヤスリがけ程度はした方がケガ防止になると思います。

 ウレタンフォームは圧縮梱包で届いたので、復元まで丸一日待つ必要がありました。今回注文した商品には専用の両面テープが同梱されていたので、それを使って接着していけば良さそうです。

 

制作自体は1時間もかかりませんでした。りんご箱の内側に適当な大きさに切ったウレタンフォームを貼っていくだけです。フォームどうしに隙間を作らないように注意しましょう。多少は雑にやっても、少し大きめにフォームを切れば復元力でピタッとフィットしてくれます。

 (本当は過程の写真があれば良かったのですが、製作中は記事にまとめる予定が無かったので……。)

 

 完成したものがこちらです。f:id:rice_Place:20210407210038j:plain

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見た目はあんまり美しくないですが、肝心の防音効果はどうでしょうか。

 

モニタとスピーカーが置いてあるボックス前方(箱が閉じている方、距離60cm程度)と、プレイヤーの自分を挟んだボックス後方(箱が開いている方、距離1m程度)について、スマホの騒音計で測定してみることにしました。

 測定したのは、無対策・ダンボールのみ・防音ボックス・比較用のオートプレイ(スピーカーからの音のみ)の4パターンです。全てのパターン×前方後方の8回について同じ譜面(★5 Trinity [Maniac])をプレイし、それぞれ90秒間の平均音圧を測定しました。

 

結果を簡単なグラフにしたものがこちらです。

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前方の箱が閉じている方向については、68→59と10dB弱の防音効果があることがわかります。最初に紹介した簡易防音室は平均して10dB強の防音効果があるようなので、まずまずと言ったところでしょうか*1。また、ダンボール箱だけでも半分くらいの効果があることがわかります。

 一方で、後方についてはあまり効果が見られないようです。打鍵音はコントローラーの側面からも発されているはずなので、その部分を覆うように後方の下3分の1も囲ってしまうといった工夫はできそうです。

 

ちなみに、防音対策の重要な一角である制振については、コントローラーを置く台の下にタイルカーペットを敷くことで元から対策していました。高さの微調整を兼ねて、ボックスの下に新たにゴムなどを設置しても良さそうです。

 

作ってから気付いた点

・高い防音性能の代償として、ボックスの中には熱気がこもります。とはいえプレイに支障が出るレベルではありませんでした。

・木箱には安定感があるので、コントローラーの上にちょっとした物を置けるようになったのが地味に便利でした。

 

まとめ

3千円台で音ゲーアケコン用の防音ボックスをDIYすることができました。防音効果は、ただのダンボール箱で囲うよりは高く、10万円台の簡易防音室よりは低いです。

 今後もちょっとした改良を試みるので、飛躍的に性能が改善するようなことがあれば、追加の記事にしたいと思います。

 この記事についてのご意見・ご感想は、記事へのコメントあるいは冒頭のTwitterまでお願いします。 

 

また、IIDX SP☆12の難易度推定サイトCPIの運営も行っていますので、こちらもよろしくお願いいたします。

cpi.makecir.com

 

それでは、良き音ゲーライフを。

*1:10dB下がるごとに音圧は約3.2倍小さくなるようです。また、スマホの騒音計にどれほどの信頼が置けるかという点についてはこの記事が参考になると思います。

www.kanaderoom.jp

【IIDX】個人差とは何なのか、地力とは何なのか

こんにちは、りせ(@rice_Place)と申します。

 

IIDX SP☆12の難易度推定サイト、CPIの運営を行っています。

cpi.makecir.com本題に入る前に、CPIの現状報告を少しさせていただきたいです。

 

先日 登録ユーザーが2000名を超えたことを記念して、だんごむし様(@denimchan)にイメージキャラクターを制作していただきました。

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 キャラクター制作をお願いする上で一番に重視したことは、プレイヤー目線でのモチベーション向上の一助となるようなデザインです*1

 だんごむし様はイラストレーターとしてのご活躍はさることながら、IIDX全白でもあり、CPIも以前より登録・ご利用いただいていました。制作決定の時点からこの方にお願いしよう!と決めていたので、快諾の上 素晴らしいキャラクターイラストを制作いただけたこと、本当にありがたく感じています。

 現在キャラクターの名前も募集しています*2ので、この記事を読んでくださっているあなたにも、CPIをより良いサイトにするお手伝いをしていただければ幸いです。

 

 

 個人差とは何なのか、地力とは何なのか

音ゲーにおいて譜面の難易度を評価する際に、プレイヤーによって体感される難易度が大きく異なるようなとき、「これは個人差譜面だ」といった表現をされることがあります。

 対になる概念として使われる言葉が「地力譜面」です。記事後半では本当に対になっているのか?という点についても触れていきますが、そもそも地力/個人差という分類で音ゲー譜面を区別するという考え方は、IIDXの☆12難易度表*3が発祥のようです*4

 

音ゲーにおける個人差について考えていく上で、体感難易度のバラ付きを正確に定義することは難しいですが、プレイヤーのクリア状況のバラ付きについてなら、データに基づいて数値的に表すことができそうです。

 まずはこのCPIにおける「個人差度」について考えてみようと思います。

 

「個人差度」の定義

CPIの難易度推定は、プレイヤーのクリア状況から算出したレーティングを説明変数として、ロジスティック回帰を行うことでなされています。今回は、「個人差度」を回帰係数の逆数と定義することにします。

 

この「個人差度」が表すものをグラフで見てみましょう。

 グラフの横軸をクリア力*5、縦軸をクリア割合とします。クリア割合とは、該当するクリア力のプレイヤー集団の中で、対象譜面をクリアしているプレイヤーの割合を表します。

 個人差譜面(オレンジ)は、総合的なクリア力が低いプレイヤーでもクリアできる可能性がある一方で、高くなってもクリアできない可能性があります。「個人差度」はグラフ上に引いた赤い矢印に該当します*6

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 それに対して地力譜面(青)ではその傾向が小さく、総合的なクリア力との相関が強いです(後半の伏線になります)。クリア割合50%付近における傾きが大きくなり、それに伴って赤い矢印が上の個人差譜面に引かれたものと比べて短くなっていることがわかります。

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 このように、定義した各譜面の「個人差度」は、個々人のクリア状況と総合的なクリア力との乖離を表していることがわかります。

 「個人差度」が著しく大きい譜面は、総合的なクリア状況とは無関係にランプが点く確率が高くなるということです。

 

「個人差度」の分布

 「個人差度」の定義を終えたところで、まずはその分布を確認してみましょう。横軸に個人差度、縦軸に譜面数をとったヒストグラムを作ってみます。

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 フルコンを除くと、各難易度でかなり左側に寄った分布になっていることがわかります。すなわち、一部の譜面はかなり個人差度が強く、その他大勢はそうでもないと言えそうです。

 同様に、適正CPI*7を横軸に、個人差度を縦軸にとった散布図を見てみます。

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 このプロットではクリアタイプごとに様子が違っており、例えばハードとエクハでは難易度と個人差度に相関がありそう*8ですが、他ではそのような傾向は薄らいでいます。

 

「個人差度」の高い譜面の具体例

具体的にどのような譜面で「個人差度」が高くなっているかを確かめてみましょう。

 まずはEASYについて、「個人差度」が上位/下位の譜面をまとめてみました。

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 連皿・縦連・ソフラン……といったいわゆる個人差要素の強い譜面について、数値的にも「個人差度」が高く算出されているようです。それにしても、上位と下位で5倍以上の差があるとは、表にまとめるまで思っていませんでした……。

 

ところで私はこの表を作ったとき、上位に個人差譜面が並ぶなか、ポツリとGuNGNiR [L]がいることに違和感を覚えました。確かに最発狂に皿は絡んできますが、基本的にはいわゆる地力譜面の範疇に入るはずです。

 GuNGNiR [L]はIIDX27のARENAモード最終報酬で、分析に使用したデータを取得した時点では解禁方法がありませんでした。そのことが関係してる可能性も考えましたが、同じような境遇のSecrets [L]、TRANOID [L]の個人差度はそれぞれ56(全体155位)、78(全体62位)です。

 加えて、より収録からの日が浅いお米(略)、∀が全体下位にランクインしていることをあわせて考えると、GuNGNiR [L]特有の理由がありそうに思えます。

 

ということで、EASY難易度が高い譜面をピックアップしてみることにしました。

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 見てみると、いわゆる地力譜面の代表格と言えそうなVerflucht [L]、KAISER PHOENIX [L]の個人差度がそれほど低くなっておらず、最終盤にソフランする卑弥呼よりも高く算出されています。

 このような傾向は他のクリアタイプでも同様に見られ、超高難易度においては「鍵盤物量=個人差の少ない譜面」とは言えないことを示唆していました*9

 

「地力度」の定義は難しい

前半でも触れましたが、譜面難易度の推定を☆12全体の総合的なクリア力から行っている以上、☆12全体に似たような譜面が少なければ「個人差度」は高くなります。極端な話、☆12の8割が連皿主体であれば、The Chaseは個人差譜面では無くなるでしょう。 ということは逆に考えるなら、似たような譜面が多ければ地力譜面と呼んで良いのでしょうか?Fascination MAXXやY&Co. is dead or aliveのような譜面が大半を占めていたとき、ソフランへの対応力が地力と呼ばれるようになるのでしょうか?

 

このような話を考えるとき、一部のPvPゲームには、「環境」と呼ばれる概念があることを思い出します。

 このようなゲームでは、追加される要素(新カード、新モンスター、新武器……)によってゲームの勝敗を決定する構造がガラリと変わることがあり、その都度プレイヤーは対策を余儀なくされます。対応力まで含めて、ゲームにおける必要な能力と言えるかもしれません。

 弐寺PvPゲームではありませんが*10、定期的に新しい譜面が追加され、プレイヤーが対応して能力を磨き突破する、という構図は同じです。

 

となれば、先ほどの問である【ソフランが大半を占めていたとき、その対応力が地力と呼ばれるようになるのか?】の答えは、YESとなりそうに思えます。

 実際にCN・BSSについては、SIRIUSで追加されて以降それらを含む譜面は増え続けており、10年前にはハード5強と呼ばれたAlmagestは、現在では数ある高難易度譜面の一つという位置づけになっています。

 

一方で、ここまでお読みになった方の中には、「ソフランはギアチェンを覚えればできるようになる」「連皿は皿のリズムを覚えればできるようになる」ので、環境がどうであろうと地力譜面とは呼べない、という考えを持つ方もいると思います。

 このような考え方の背景には、「地力」という言葉が、「個人差が少ないこと」だけでなく「小手先の対策を取りにくいこと」という意味も併せ持っていることがあります。

 そういう意味では、確かにVerflucht [L]のような譜面が、ちょっとした対策で見違えるように押せるようなるということは無いでしょう。

 

しかし私は、ソフランや連皿においても、それぞれの「地力」があると考えています。ギアチェンによって低速を完全に等速にできる譜面は少ないですし、ギアチェンそのものも練習が必要です。連皿も覚えることと覚えたとおりに回せることは違います。

 けれども、鍵盤の「地力」と比較して、短期的に能力を上げることが可能だとも思っています*11。このことによって、取り組んだ人は簡単に上達する一方、取り組まなければそうではなく、「個人差度」が大きくなっているのだと思います。

 このことは、Go Ahead!!のような譜面の個人差が高くないことからも確からしいと言えそうです(対策(=当たり待ち)は必要であるものの、対策の内容と個人の能力差は一切関係しない)。

 

このような議論を踏まえると、真の地力譜面とは、現環境で求められる要素をできるだけ多く含んだ、いわゆる総合力譜面であると言えそうです。飛び抜けた能力を求めない一方で、著しく苦手な要素が一つでもあると突破できない構成は、「個人差が少ないこと」「小手先の対策が取りにくいこと」の両方を兼ね備えているからです。

 皆伝の一曲目が数年ぶりに変更され、CN・連皿・ソフラン・重発狂を含むEMERALDASとなったことは、偶然では無いと感じられます。

 

まとめ

・(FC以外では)☆12は一部の超個人差譜面とその他大勢に分かれる

・いわゆる地力譜面=鍵盤物量は、必ずしも「個人差度」が小さくならない

・「地力」という概念には、「個人差が少ないこと」「小手先の対策が取りにくいこと」の二つの要素が含まれている

 

いつも以上に取り留めない記事となってしまいましたが、一番書きたかったことは3つ目の内容です。

 以前に別の記事でも書きましたが、☆12の譜面数が著しく増えている現在では、何となく難しい譜面をたくさんプレイするスタイルと、自分に足りない能力を見極めて練習譜面を選ぶスタイルとでは、これまで以上に大きな差が付いてしまうように感じます。

 全てのプレイヤーが最速の上達を目指す必要があるとは一切思っていませんし、そもそも筆者も周囲と比べると上達が遅い方のプレイヤーですが、それでもこのことに気が付いてからは袋小路に嵌まり込んで苦しむことは減ったような気がしています。

 同じように上達を目指し、同じように悩んでいるプレイヤーの誰かに届けば良いなと思っています。

 

 

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それでは、良き音ゲーライフを。

 

*1:筆者=運営の個人的な趣味も色濃く反映されていますが、できる限り男女問わず多くの方に愛されるような要素を(とても)たくさん入れていただきました。

*2:少なくとも2021年3月中までは募集しています

*3:正確に言えば前身となった十段スレのテンプレート(参考:十段スレの難易度表の歴史 | BPM@パプログ!↑

*4:より詳しい歴史についてご存じの方はご教示ください

*5:ここでは総合CPIと同義

*6:グラフ上では分かりやすさのためにクリア割合80%のところに赤い矢印を引いていますが、定義に対して厳密に言うと約73.1%になります。譜面間で統一されていれば、今回の検証においては任意のクリア割合を基準として構いません

*7:クリア割合が50%となるCPI、すなわち譜面難易度

*8:ハード→エクハは適正CPIが急激に上昇することを踏まえると、未難減らしとエクハ埋めのどちらを優先するプレイスタイルかによって(未難の数が同程度でも)総合CPIが大きく変わってくるため、個人差度が増幅されていると考えられます。エクハ→FCも同様

*9:理由として一番に考えられるのは、発狂BMSプレイヤーの存在です。このことを次の章の内容に絡めて言い換えると、「別環境」の影響を受けているということです。

*10:ARENAモードは例外。しかし、ARENAのようなスコアによる対戦モードにおいても同じ話は当てはまると思っています

*11:あくまでもそのプレイヤーの総合的なクリア力程度に引き上げるという範囲で